波音を聴きながら


 青い空に白い雲。そして蒼い海。
 地上に照りつける日射しは強くて暑い。
 けれど、潮の香りを含んで吹き抜けてゆく風は心地いい。

 眩しい日射しの中で、不二は波打ち際にいる を優しい瞳で見つめている。
  は波で濡れないようにとサマードレスの裾に気をつけながら、砂浜の上を踊るように歩いている。
 そして時折、不二の方へ視線を向けて、楽しそうに微笑む。
 その可愛らしい笑顔に、不二の顔にも笑みが浮かぶ。

 砂浜でキラッと輝くものを黒曜石のような瞳に捕らえて。
  は服を濡らさないように気をつけながら、それを手に取った。

「周くん、周くん」

 嬉しそうに笑いながら、白いサマードレスの裾を揺らして、 が波打ち際から不二の方へ走ってくる。
 まるで子犬がはしゃいでいるようで、そんな彼女がとても可愛くて、不二は色素の薄い瞳を愛し気に細めた。

 いつも笑顔が可愛い君だけど、青空の下で見る笑顔は一段と可愛い。
 腕の中に閉じ込めて、僕だけが見つめていられるようにしてしまいたい。

 心の中でそっと呟いて、不二は を見つめた。

「ね、コレ見て?」

 黒曜石のような瞳を輝かせて、 は白い手を広げてみせた。
 白い掌の上にあるものについた水滴が、太陽の光を反射して煌めいた。

「キレイだから周くんにも見せたくて」

「ホントだ。キレイな桜色だね」

 自然の作り出した美しい色彩に、不二が感嘆の声を上げた。
  の掌にある桜貝は大きくはないが、形がしっかりしていて、すごくキレイだ。

「ふふっ。周くんにあげる」

  はにっこり微笑んで、不二に桜貝を差し出した。

「僕が貰っていいの?」

 首を傾けて訊くと、 はコクンと頷いて。

「うん。デートの記念…なんてね」

 小さく舌を覗かせて、照れたように言った。
 白い頬がわずかに桜色に染まっている。
 それが可愛くて、不二はクスッと笑って、白い手から桜貝を受け取った。

「じゃあ僕も にデートの記念をプレゼントしなきゃね」

 そう言うと、不思議そうに首を傾けた。
 そんな彼女が愛しくて、不二は可愛い唇に軽いキスをした。

「しゅ‥‥っ…人が‥‥」

 わたわたと慌てる彼女が益々愛しくて。
 不二は の耳元へ唇を近付け、甘い声で囁く。

「クスッ。大丈夫、誰も見てないよ。 僕以外は…ね」

 不二は細い身体をぎゅっと腕の中に閉じ込めて。
 桜色に頬を染める の可愛い唇に、甘くて熱いキスを落とす。
 触れて離れてを繰り返し、甘くて熱いキスは深くて熱いキスへ変わっていった。

「…周く‥‥ん」
 
 濡れた唇で恋人の名前を呼んで、キスの余韻で潤んだ黒曜石のような瞳で不二を見つめる。
  は無意識なのだが、それは不二の理性を壊すのに充分な力を持っている。


 キスだけじゃなくて桜貝も君にプレゼントしたかったんだけど…ね。

 どうやらそれはムリみたいだ。

 波音より、君の声をもっと聴いていたい一一一。


「愛してるよ、
 
 抱きしめる腕に力を込めると、黒曜石のような瞳が恥ずかしそうに閉じられてゆく。
 不二は色素の薄い瞳を細めて、幸せそうに微笑んで。
 細い身体をしっかりと抱きしめ直して、柔らかな唇を熱く深いキスで塞いだ。



 浜に打ち寄せる波音が静かに響いていた一一一。









END


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