「本当に一人で大丈夫か?」
玄関の扉を開けながら心配そうに眉を寄せるお父さんに頷いた。
「うん、平気よ。美和ちゃんも一緒だから」
「でも私は心配だわ。女の子二人だけなんて」
「お母さんまで・・・。そんなに心配なら周くんに来てもらうわ。
それならいいでしょ?」
11月最後の土曜日。
今日から明日の夜まで、お父さんとお母さんが急に親戚の家に行くことになった。
美帆叔母さんが、階段から落ちてケガをして入院することになってしまったから。
だから泊りでお見舞いに行くコトになった。叔母さんのケガはひどくないようで、精密検査のための入院らしいし、お父さんにとっては実の妹だから心配なのは当たり前だからそれはいいのだけど・・・。
今日は前々からお母さんのお姉さんの娘さん一一一美和ちゃんを
家で預かるコトになってたから、二人の心配もわかる。
だけど、新幹線の時間に間に合わなくなっちゃうもの。
二人を見送ってリビングに戻った。
受話器を上げて、すでに暗記してしまっている番号を押す。
コールは三回鳴り終わる前に切れて、大好きな人の優しい声が聴こえてきた。
『
。今、君の声が聞きたいと思ってたところだよ』
周くんてどうしてこういうコトをサラッと言えちゃうんだろう。
恥ずかしいけど嬉しくて、くすぐったい。
付き合って三年近く経つのに、周くんの声を聞いたり、抱き締められるとドキドキしちゃう私って少しオカシイかもしれない。
「あのね、周くん・・・今日、なにか予定ある?」
『予定は何もないよ』
「ホント?あのね、出来たらでいいのだけど‥‥今日、泊りに来て欲しいの」
美和ちゃんがいるから一人ではないけど、最近は物騒だし。
二人には平気って答えたけど、やっぱり少し不安だから。
こういう言い方だと誘ってるみたいで恥ずかしいけど・・・。
『
、何かあったの?』
「え?」
『不安そうな声してる』
そ、そうかな?自分じゃわからないけど、周くんが言うならきっとそうなんだわ。
来てもらうのに理由はちゃんと説明するつもりだったからいいけど、周くんてスルドイ。
それに、すごく優しい。心配されるコトが嬉しいなんて私って不謹慎よね。
「両親が親戚の家に行くコトになっちゃって。
最近は物騒だから恐いし、淋しいから周くんに来てもらえないかなって思ったの」
『クスッ、いいよ。じゃあ、今から行くよ』
いますぐ来てくれるのはすごく嬉しい。
嬉しいけど一一一。
「せっかくだから、周くんにお昼をごちそうしたいの。
だから、お昼ちょっと前に来て欲しいな。 ダメかな?」
『フフッ。ダメなワケないでしょ。楽しみにさせてもらうよ』
「ホント?ありがとう、周くん。じゃあ、あとでね」
電話を切ると、美和ちゃんが傍に走ってきた。
「
ちゃん、お電話終わった?」
「うん。ごめんね、美和ちゃん。一人にしちゃって」
「ううん。 ねえねえ、
ちゃん。美和もお手伝いしたい」
妹がいたら美和ちゃんみたいなカンジなのかな、なんて考えながら頷いた。
冷蔵庫の中には鶏肉、魚の切り身、挽肉。
野菜はと確認すると、使いたいと思ったオクラも玉葱も人参、色々と入っている。
うん、これなら周くんの好きな料理ができそう。
未来予想図
もうすぐ料理が出来上がると思った時、玄関のチャイムが鳴った。
「
ちゃん、誰か来たよー」
「あ、周くんだわ」
一回目と二回目に少しだけ間を空けた鳴らし方をするのは、周くんだけ。
それに、約束した時間の10分前だから、きっと周くんだ。
でも、そろそろ鶏肉が焼ける頃だから、様子を見ないと・・・。
「美和ちゃん。周くんをお迎えしてもらえる?」
「うん、いいよ」
お願いすると、美和ちゃんは笑顔で頷いた。
パタパタと小さい音がキッチンを出て行き、少しして扉の開く音が聴こえた。
けれど、それだけで声も何も聴こえない。
美和ちゃんが心配になって、オーブンの温度を下げて玄関へ向かった。
「美和ちゃん。お客様は周くんじゃなかった?」
リビングの扉を開けると、そこには珍しく目を瞠った周くんと、不思議そうな顔をした美和ちゃんがいた。
「
ちゃん」
私に気付いた美和ちゃんが、私の足に甘えるように抱きつく。
小さな身体を受け止めて、周くんに視線を向けた。
「ごめんね、周くん。驚いたでしょ?」
「一瞬、君が小さくなってしまったのかと思って驚いたよ。
そのコ・・・美和ちゃん? 君とそっくりだね」
「ふふっ。よく言われるの。 あ、ごめんね。あがって、周くん」
小さくクスッと笑う周くんに頷いて、スリッパを出した。
「お邪魔します」
周くんをリビングに案内して。
「まだ料理が途中なの。美和ちゃんと待っててくれる?」
あとはメインを仕上げて盛り付けるだけだから、10分もあれば十分。
頷いてくれた二人を残して、キッチンへ戻った。
炒めたごはんに焼いた鶏肉をスライスしてのせて。
冷蔵庫に入れておいたマンゴーサラダを出して、テーブルに並べる。
煮込んでいたガンボスープを美和ちゃんの分だけ他の鍋に移して、唐辛子とスパイスを足す。
周くんの好みな味になった所で火を止めてお皿に盛った。
喜んでくれるといいな。
「周くん、美和ちゃん。お昼にしよ?」
短時間のうちにすっかり仲良くなったらしく、楽しそうに話をしている二人に声をかけた。
「すごい本格的だね」
「そんなことないよ」
ホントはもっとたくさんの料理を作りたかったけど、時間的に無理があったし。
それに、美和ちゃんがお手伝いしてくれたから、一人で作るより楽しかった。
「そんなことあるんだよ、周助お兄ちゃん」
「み、美和ちゃん?」
まさかとは思うけど、さっきのコト一一一。
「
ちゃんは、周くんが美味しいよって言ってくれると幸せなんだって。
だから朝から頑張ってたよ」
恥ずかしいから、周くんに聞かれたくなかったのに。
顔がすごく熱い。火が出ちゃいそう。
恥ずかしいから周くんから視線を逸らした。
「僕もすごく幸せだよ。君が愛情をたくさん込めて作ってくれた食事を口にできて…ね」
ギュッと抱きしめられて、唇に甘いキスが落ちてきた。
「んッ‥‥周くん…美和ちゃんが見て‥‥」
「美和ちゃん、ちょっとだけあっち向いててくれるかな?」
「うん」
美和ちゃんの声が聴こえたと思った瞬間。
深く唇を塞がれた。
三人で楽しく食事をして。
美和ちゃんがお菓子を作りたいと言ったから、二人でクッキーを作った。
周くんも作るかなと思ったけど、楽しそうに私たちを見ていた。
夕方になって、近所のスーパーに買い物に出掛けた。
その帰り道。
「え?」
周くんの声が聞き取れなくて、彼を見上げた。
すると周くんはクスッと微笑んで。
「君に似た娘が欲しいなって考えてた。きっと美和ちゃんみたいなんだろうね。
に似て可愛くて優しくて、素直なコに育つよ、きっと」
「周くんたら・・・気が早いわ」
ほんのちょっとだけ、三人でいるのが近い未来の姿みたいで嬉しいって思ってた。
周くんもそうだったのかなって思うと嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。
「そう言ってくれるってコトは、僕のコを生んでくれるって意味だよね?」
やっぱり約束覚えてくれてる。
卒業したら、ずっと周くんの隣にいていいんだ。
「‥‥‥うん」
頷くと、手をぐいっと引かれて、抱きしめられた。
「ありがとう、
」
耳元で囁かれ、頬に優しいキスが落とされた。
END
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