Early Afternoon




 空は透き通るような、優しい青。
 青空の下、最愛の人と出かけるのもいいけれど、今日のようにゆっくり過ごすのも悪くない。
 キッチンから小さな鼻歌が耳に届いて、周助はクスッと笑った。
 自分が家にいない時でも、きっと彼女は鼻歌まじりに料理をしたり、お菓子作りをしているのだろう。
 そう思うと、可愛いくて仕方ない。

 昼下がり、窓から差し込む暖かな光に包まれてソファに座って本を読んでいると、小さな足音が近づいてきた。

「周くん」
 
 自分を呼ぶ可愛い声に視線を上げると、最愛の人が柔らかく微笑んでいた。

「紅茶を淹れたんだけど…」

 トレイの上にはふたつのティーカップと淡いピンク色のコゼーに包まれたポット、そして砂時計がのっている。
 淹れたての紅茶。それもが淹れた紅茶が周助は好きだった。

「ありがとう、

 周助が瞳を細め、口元を上げて嬉しそうに微笑むと、も微笑みを返した。
 はガラスのテーブルの上に花柄のトレイを置いて、周助の隣に腰を下ろす。
 砂時計の砂がさらさらと上から下へ落ちていく。今日の砂時計は水色の砂。
 彼女がこの砂時計を使う時、紅茶はダージリンだ。
 だけど今日はダージリンではなく、おそらく―――。
 周助は一瞬だけ視線をテーブルの上に置かれたものに向けた。
 そこにあるものと同じ香りがほんのわずかだが、する。
 砂時計の砂が全て落ちると、はティーセットへ手を伸ばした。

「・・・はい、周くん」

 コトン、と周助の前にティーカップを置く。
 淹れ立ての紅茶からさきほどよりも強く、甘い香りが漂ってくる。

「フフッ。今日は林檎づくしだね」

 色素の薄い瞳を細めて笑う周助にはコクンと頷いて、黒曜石のような瞳をテーブルにある籠に向けた。
 籠の中には、鮮やかな赤い林檎が入っている。
 見た目も美味しそうなほどよい大きさの林檎は、青森に旅行中のの親友であるが送ってくれたものだった。
 届いた林檎は二人では食べきれないほどあったので、近所におすそ分けしたのだが、それでもまだかなりの数がある。
 普通に食べるのも美味しいけれど、たまには違う方法でと思い、昼はチキンと一緒にオーブン焼きに。
 午後のティータイムは、ダージリンと合わせて紅茶にした。

「いただきます」

 カップを持ち上げて口に運ぶ。
 ダージリンの芳醇な香りと林檎の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 周助は一口飲んで微笑んだ。

「・・・すごくおいしいよ、

「ホント?ふふっ、嬉しい」

 その言葉通り、は心底嬉しそうに微笑む。
 そんな彼女が愛しくて、周助はクスッと笑った。

の愛情がたっぷりだから、ね」

 その言葉に白い頬がぽっと淡く色付く。
 なにか言おうと開いた赤い唇は、言葉を紡ぐことなく閉じられて。
 は照れたのを隠そうと、紅茶に口をつけた。
 その仕草に周助は切れ長の瞳を細めて、口元をわずかに上げて微笑する。
 こういうところも、すごく可愛いんだよね・・・。
 そう胸の内で呟いて、再び紅茶に口をつけた。
 細い身体を抱きしめてキスしたいけれど、キスだけで終われそうにない。
 きっともう少しすると、特製のアップルパイが焼きあがるだろうし。
 楽しみを取っておくのも悪くないよね。
 そんな周助の心情を全くわからないは、アップルティーを美味しそうに飲んでいる。

「・・・にそんな顔をさせるなんて妬けるね」

「え?アップルティーが?」

 黒曜石のような瞳を瞬きさせて、不思議そうに首を傾けた。
 すると周助は長い指での白い頬にそっと触れて。

「林檎の送り主に、だよ」

 囁きながらの手からカップを取り上げて、周助は柔らかな唇にキスをした。
 柔らかな唇に微かに残る林檎の香りに誘われるように、触れるだけのキスは深いキスへ変わって。
 の息が上がった頃、周助は名残惜しげにゆっくり唇を離した。
 その時、タイミングがいいのか悪いのか、チーンという音がリビングに届いた。

「や、焼けたみたいだから見てくる」

 恥ずかしそうに周助から瞳を逸らして、はパタパタ足音を響かせてキッチンへ向かった。
 周助はの後姿を見送りながら、前髪をかきあげてフフッと微笑んで。

「ホントにって可愛い」

 カウンターキッチンでオーブンからアップルパイを取り出して嬉しそうに笑うを、周助は愛しそうに見つめた。



 暖かな光が差し込む昼下がり

 淹れ立てのアップルティーと焼き立てのアップルパイ

 隣には花のように微笑む君



 君と二人きりで過ごす昼下がり



 ―――心地よくて好きなんだ










END
 

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