Special Birthday 明日も朝練があるからそろそろ寝ようと、は読んでいたインテリア雑誌を閉じた。 部屋の電気を消そうとカーペットから立ち上がると、勉強机の上に置いてある携帯電話が鳴った。 こんな時間に誰からだろうと思いながら、届いたメールをチェックする。 メールの差出人は菊丸からだった。 「明日の朝練、30分早く集合だよん」 メールを読んだは、不思議そうに首を傾けた。 マネージャーの仕事でなにか不備があったのだろうか。 部活後の仕事を振り返ってみたが、特に思い当たることはない。 「どうして?」 菊丸に返信すると、少しして再びメールが届く。 「不二の誕生日企画を考えるんだ」 最初からそう連絡してくれたらいいのにと思いながら、了解と返事を送った。 できたら二人きりでお祝いをしたいけれど、不二と付き合っている訳ではない。 だったら、お祝いできないよりもできる方がいいに決まっている。 閏年の今年は、彼の本当の誕生日があるのだから。 不二と仲のいい友人たちも一緒だろうから、きっと楽しくなるに違いない。 明日が楽しみだな、と思いながら、は眠りについた。 校門をくぐったの黒い瞳に、数メートル先を歩くテニス部員の姿が映った。顔は見えないが、あんなに形のいい頭をしているのは大石しかいない。 は駆け寄って、彼の左肩をポンと叩いた。 「おはよう、大石君」 「か。おはよう。早いね」 「うん、ちょっと早く目が覚めたの」 菊丸に返事を送った後、目覚まし時計の鳴る時間を30分早くして眠りについたが、目覚まし時計が鳴るより15分位早く目が覚めてしまった。家で時間を潰すより部室で皆を待ってる方がいいな、といつも通りに支度をして家を出てきた。 「ところで、大石君。発案者って菊丸君?」 「うん。昨日の帰り道、不二の誕生日会をやろうって英二が言い出してね。今年は閏年だし、そういうのもいいかなって俺も思ったからさ。ちなみにメンバーは俺たち三人と乾、河村、手塚だよ」 「え、手塚君?帰って来られるの?」 メンバーの中に入っている名前に、は瞳を驚きに見開いた。 中等部で部長だった手塚は、夏の全国大会が終わった後、ドイツにテニス留学している。卒業式には帰国したが、またすぐにドイツへ戻ってしまった。そして、その後まもなく手塚はプロデビューを果たしている。 時間が取れたからと夏の終わりに彼は数日間帰国したが、そのあとは一度も帰国していない。 「わからない。だけど、英二がみんなでって言うから一応な」 「……彼が何か策を考えてくれるかもよ?」 大石が部室の鍵を開けドアノブに手をかけた傍らで聞こえた足音に、が振り返る。 「確かに乾なら策を考えてくれそうだな」 の言葉に後ろを振り向いた大石は、背高の眼鏡の友人に頷いた。そして、長身の乾の後方から走ってくる菊丸に視線を向けた。 「不二が来る前に終わらせないとな」 「確かに見つかったら最後だろう。菊丸がしゃべってしまう可能性がある」 「俺かよ!?」 「はいはい、それはあと。早く意見をまとめちゃおうよ」 レギュラー三人の会話にが割って入った。 言い争う為に早く来たのではない。不二の誕生日を皆でお祝いする、そのための計画を立てる為だ。 「俺が書き出すから、が仕切ってくれ」 乾の言葉に、言い出した菊丸が仕切ったほうがいいのでは、とは思った。だが、話がまとまる前に不二はもちろん、他の部員が来てしまっては当日まで隠しておくのが難しくなる。なにより、菊丸はまとめやくにはあまり向いていないと、中学から四年の付き合いがあるマネージャーは判断した。 「うん」 頷いて、は頭の中を素早く整理した。 「まず、お祝いするメンバーは、私たち四人と河村君、手塚君の六人ね」 「予定はな」 確認すると大石の会話を聴きながら、乾がノートに参加メンバーの名前を書いていく。 「じゃあ、簡単に決められそうなことから決めましょう。時間は部活後でいいから、まずは場所ね。どこでやるのがいいかしら?」 「そりゃ不二の家しかないっしょ。サプライズパーティするんだし」 菊丸のセリフには一瞬瞳を丸くして、ついでああ、と納得した。 不二にやられてばかりだから、仕返しをしてやろうと思ったのだ。普通に仕返してもダメだから。 だが、誕生日パーティなら不二にやられることはないだろう、と。 日頃の不二と菊丸のやりとりを思い出し、それは仕方ないのでは、と言いそうになるが黙っておくことにした。 「場所は不二君の家ね。じゃあ、菊丸君が不二君にバレないようにご家族に連絡を取る。それから、手塚君に声をかけるのは乾君でいい?」 は菊丸の返事を待たずに乾に声をかけた。 乾は眼鏡のつるを親指と人差し指でくいっと押し上げ、呟くように言った。 「そうだな…手はあるから、試してみよう」 「うん、お願い。 ほら、菊丸君も」 「へ?」 「へ、じゃないだろ。英二が言いだしっぺなんだぞ」 「あ、そっか。 乾、俺からもお願い」 「ペナルティー改良版の味見で手を打とう」 乾の眼鏡が室内なのにキラリと光った。 「そりゃないよ、乾ー。それならちゃんだって…」 「仕方ないじゃないか。……に…ひが……だろ」 ぶつぶつ文句を並べる菊丸を大石がなだめるが、大石の声は小さすぎて聞こえない。けれど、慰めの言葉であるのは間違いないだろう。 と乾は話を再開することにした。 「ねえ、不二くんのご家族…裕太君は無理かもだけど、おばさまと由美子さんに協力してもらえないかな?」 「ああ、それはいい手だな。リスクが減って計画がやりやすくなる」 ノートに計算式のようなものを書きながら、乾が確率97パーセントだと呟く。 これはいつものことなので、は気にすることなく口を開く。 「だよね。当日に由美子さんに不二くんを連れ出してもらって、その間に準備とか…どう?」 「ああ、いいんじゃないか?」 「俺もさんせー!」 いつのまにか話を聞いていた大石と菊丸がほぼ同時に言った。 「全員賛成、と。他に決めておくことは…」 ノートにペンを走らせながら言った乾の声に、菊丸が挙手をする。 「はーい!料理ー」 「それは不二の家族とに任せるのがいいだろう。、いいか?」 「ええ、もちろん。それに菊丸君が考えると不二くんの好物がなくなっちゃいそうだもの」 乾に訊かれたはそう言って微笑んだ。 「じゃあ、まとめましょうか。乾君、よろしく」 「ああ。人数は予定で9人、場所は不二の家、時間は部活後だ。菊丸が不二の家へ確認、俺が手塚に連絡を取るから、大石は河村に連絡だな。当日は由美子さんに不二を連れ出してもらっている間に皆で準備。買出しの件は電話で相談して決めるとしよう。そろそろ…」 乾が言いかけたところで、彼の腕時計のアラームが鳴った。 「早いな。もう30分経ったか」 「いや、念の為5分早くしておいた。四人が部室にいては不自然だろう」 大石に答えて、乾はに視線を向ける。 「そうね。私と菊丸君が出て行くわ」 言うが早いか立ち上がり、は菊丸を促して部室の外へ出て行った。 「…なあ、乾。もうひとつ………」 床に置いたテニスバッグを持ち上げながら、大石が乾に訊く。 すると乾はキラリと眼鏡を光らせて、口端を僅かに上げた。 「では、それが俺達からのプレゼントだな」 そして、大石と乾の二人の間で、もうひとつの計画が動き出した。 2月29日、当日。 「、まだ帰らないの?」 放課後の部活が終わり、部員が着替えを終えて静かになった部室でが部誌を書いていると、ひょいと顔を覗きこまれた。 は部誌から不二へ視線を動かして微笑む。 「あと少しで書き終わるから、そしたら帰るよ」 「じゃあ、待ってるから一緒に帰らない?」 これが今日でなかったら、迷うことなく頷いている。 親友にさえ言ったことはないが、不二はの想い人だ。好きな人と一緒に帰れるのは嬉しい。嬉しいけれど、ダメとすぐに言えない。 けれど、計画が不二にバレているとは思えないから、彼に怪しまれる前に了承したほうがいいかもしれない。 「うん。すぐに書いちゃうから待ってて」 と不二の会話に聞き耳を立てていた菊丸と大石と乾は軽く頷きあった。 不二に悟られてはいないようだ。 「大石、帰ろっ」 肩をポンと叩いた菊丸に頷いて、大石は不二とに視線を向ける。 「不二、、俺達は先に帰るよ。、悪いけど鍵を頼む」 「ああ、お疲れ様」 「わかったわ。二人ともお疲れ様」 「では俺も帰るとしよう」 「お疲れ様」 「お疲れ、乾」 馬に蹴られたくないからな。 乾は心の中で呟いて、菊丸と大石に続いて部室を出ていった。 そして一時間後、駅前で合流した6人は予定通り不二家でパーティの準備を進めていた。 予定では、由美子が不二を一時間連れ出してくれることになっている。 不二家から由美子の車が見えなくなったのを見計らい家に上げてもらったので、帰宅する時刻は検討がついている。 「ねえ、乾、あとどのくらい?」 事前に用意しておいた飾りをリビングの壁に飾りつけながら、菊丸が訊いた。 「乾君、これも運んで。あ、これもね」 キッチンにいるからお盆ごと渡された料理を受け取って、乾がリビングに姿を見せる。 「あと18分15秒だ」 「それなら余裕そうだな」 大石はホッと胸を撫で下ろし、紙袋から造花を取り出して相棒に手渡した。 ちなみに分担を決めたのはだ。 賑やかに飾りつけができそうな菊丸と阿吽の呼吸で通じる大石が飾りつけ担当。その他の人が料理、雑用担当。とはいえ、料理はと淑子が中心で河村がフォロー、雑用は乾と手塚となってしまっていたが。 「さん、上手ね。お嫁さんに欲しいくらい」 キウイフルーツをサイコロ状にカットしていた淑子が、ケーキに生クリームでデコレーションをしているに声をかけた。 お嫁さんという単語にドキリとし、の手がぴたりと止まる。だがは動揺したとは微塵も感じられない笑顔を淑子に向けた。 「ふふ、嬉しいです。でも、おばさまと由美子さんには敵いませんよ」 そう言って、デコレーションを再開した。 星型の絞り口で花模様をつけたケーキのフチの上に薄くスライスした林檎を飾る。そして、中央にチョコペンで【Happy Birthday Syusuke】と書いた楕円のホワイトチョコレートプレートを飾り、バースデイケーキが完成した。 「…見事なものだな」 「ありがとう、手塚君」 準備が終わったらしくケーキを見て言った手塚に、は照れたように笑った。 「こっちも終わったよーん」 陽気な声をあげて、菊丸がキッチンを覗きこむ。 「うわっ、うまそー」 「本当だ。売ってるケーキみたいだね」 菊丸のあとからやってきた大石が完成したケーキを褒めると、彼らのマネージャーは大袈裟よ、と言いながらも嬉しそうだった。 「乾、時間は大丈夫そう?」 出来上がったチリソースを鍋からグレービーに移していた河村が訊くと乾は頷いた。 「あと7分29秒ある」 「お、余裕じゃん」 「でも、早く帰ってくるかもしれない」 ブイサインを出す菊丸に河村が言うと、手塚がそうだな、と同意した。 「じゃあ、少し早いけどスタンバイしておくか」 「そうね。失敗しちゃったら台無しだし」 大石の言葉に、ケーキを冷蔵庫に入れたが頷く。 「おばさまはどうしますか?」 が訊くと、淑子は首を傾けて優しそうに微笑んだ。 「私はいいわ。周助が驚く顔、こっそり見させてもらうから」 さすがは不二の母親だ。 誰もがそう思ったが、それは心の中に留めておく。 六人はそれぞれクラッカーを手にして、玄関に向かった。 「扉が開いた瞬間に一斉にだかんね」 皆に確認するように言った菊丸に、全員がうんと頷く。 それに一瞬遅れて車のエンジン音が家の外で聞こえた。 「帰ってきたようだな」 乾の呟きに、僅かの緊張感が漂う。 ほどなくして二人の声が扉の外から聞こえた。 「あ、いけない。ちょっと車に忘れ物したから取ってくるわ」 「案外そそっかしいよね、姉さんは」 クスクス笑いながら、不二はドアノブに手をかけて扉を開けた。 その瞬間。 「ハッピーバースデイ!!」 パン、パパンとクラッカーの鳴る音と一緒に大きな声が響いた。 色素の薄い瞳を驚きに見開いている不二の耳に、菊丸のはしゃいだ声が届いた。 「イエーイ!大成功ー!」 「お誕生日おめでとう、不二くん。驚いた?」 ふふっと微笑むに驚きから立ち直った不二は柔らかく笑った。 「うん。みんな、ありがとう。サプライズバースデイなんて初めてだよ。それに手塚、まさか君までいるなんてね。いろんな意味で驚いたよ」 「…四年に一度だからな」 苦しい言い訳なのはわかっているが、他に思い浮かばなかった。 あのコトは隠しておかなくてはならない。そうでなければ帰国した意味がなくなってしまう。 「フフッ、サンキュ。君がそう言ってくれるのも悪くないね」 幸い不二は内心で珍しく焦っている手塚に気づかなかった。 それから、由美子と淑子に協力してもらったことや、内緒で計画するのが大変だったことなどを話しながら、7人はパーティ会場であるリビングに向かった。 「外が暗いと思ったら、もうこんな時間か」 「楽しい時間って過ぎるの早いよなー」 大石と菊丸の言葉に、河村がうん、と頷く。 「そろそろ片付けたほうがよいだろう」 「そうね。おばさま、由美子さん、遅くまですみません」 乾に同意して、は不二の母と姉に声をかけた。 すると二人はそれぞれ、気にしないでいいのよ、大勢だと楽しくていいわね、と言ってくれた。 「明日は部活ないし、もう少しいたらいいのに」 手塚と話していた不二がお開きにしようとするメンバーに残念そうな顔をする。 部活後でのパーティだったので、時間はそれほど経っていないからだ。 「俺達はいいが、は女の子だから、遅くなったらマズくないか?」 心配そうに視線を向けてくる大石には首を横に振った。 「私なら大丈夫よ。それに片付けもしないで帰れないわ」 「心配しなくて大丈夫だよ、」 「そうそう、タカさんの言う通り。心配いらないよん、ちゃん」 「でも…」 どうしよう、と困った表情を浮かべるに、由美子がにっこり笑って声をかけた。 「たまにはみんなに甘えたらいいわ、ちゃん。全員でやれば片付けなんてあっという間に終わるわ」 「でも私だけ先に帰るなんて悪いし…」 「全く…お前は変わらないな、。たまには甘えろと言った筈だぞ」 畳み掛けるような手塚の一言に言葉に詰まったは、無意識のうちに不二を見ていた。 できるならもう少しだけ不二と同じ空間にいたい。 黒い瞳に淋しさを浮かべたに向けて不二が口を開くより早く、淑子の声がした。 「片付けのことは気にしなくていいのよ。周助に家まで送らせるから、お帰りなさいな」 「えっ、そんな…」 「そうだな、それがいい」 「うん、不二なら安心っしょ」 「誕生日なのに不二に片付けをさせるのは悪いしね」 驚きに声を上げるの声に重なって、大石と菊丸と河村が言い募る。 滅多なことでは動じないマネージャーだが、今日ばかりはそうではなかった。 「不二くん、ごめんね。お誕生日なのに送ってもらっちゃって」 「構わないよ。初めからそのつもりだったし」 街灯があるので、互いの顔が見える。 微笑む不二に対して、は瞳を瞠っていた。 よほど驚いたのか歩くのをやめてしまったに、不二は色素の薄い瞳を細めてクスッと笑う。 「それにしても、みんなからのプレゼントは嬉しいよ」 「え、あ、うん。喜んでもらえてよかった」 突然話題が変わったので、は戸惑いながら言った。 彼の言葉と笑顔が気になるが、どういう意味なのか全くわからない。 「あ、あのね、渡しそびれてたけど、不二くんにプレゼントがあるの」 帰り際に不二に渡そうと思っていたのだが、思いも寄らない展開になって忘れてしまう所だった。 不二と出逢ってから初めての2月29日。 特別な誕生日に渡したくて、悩んだ末に選んだプレゼント。 「不二くん、お誕生日おめでとう」 「ありがとう。開けてみていいかな?」 プレゼントを受け取った不二に訊かれて、は瞳を丸くした。 「えっ、ここで?」 渡した自分が言うのもなんだが、ここは住宅街の道だ。 「ここがダメなら公園、寄っていい?」 いい?と訊いておきながら、不二はの返事を待たず、彼女の華奢な手を取って歩き出す。 「ふ、不二くんっ、私の手冷たいから」 離して欲しいと思っていないのに、嬉しいのに恥ずかしくて声を上げた。 「そう?あったかいよ」 それはあなたに手を握られているからよ。 と言える筈もなく、だからと言って手を無理矢理離すことはできなくて、公園まで手を離すことはなかった。 シンと静まった公園のベンチに並んで座ると、不二はようやく手を離してくれた。 「強引にごめん。でも、君がいる前で見たかったんだ。君が僕に誕生日プレゼントくれたの初めてだし…ね」 そう言われて、の白い頬が赤く染まっていく。 マネージャーとして贔屓はいけないと誰の誕生日にもプレゼントを贈ったことはない。彼はそれに気がついているのだ。 誰かが誕生日の時は、プレゼントの替わりに差し入れをしていた。それは不二の誕生日も例外ではなかった。 けれど、今年は四年に一度の誕生日だから、何か贈りたいと思った。それには不二への特別な想いがあるからこそ。 「よ、四年に一度だからと思って」 「クスッ、手塚と同じコト言ってる」 不二は楽しそうに笑いながら、白いリボンに指をかけた。リボンを解き水色の包装紙を開くとクリーム色の箱が出てきた。 心配そうに見つめるの前で、不二は箱の蓋をそっと開ける。 「こういう色もいいね」 箱に入っていたのは、ライトスティルブルーのシャツだった。 散々悩んだ挙句プレゼントに選んだのだが、結局無難なものになってしまった。 それをが詫びると、不二は首を横に振った。 「本当に気に入ったし、君からの贈り物だから嬉しいよ。ありがとう」 首を傾けて嬉しそうに微笑む不二に、はホッと息をつく。 彼が喜んでくれたのが嬉しくて、の顔に自然に笑みが浮かぶ。 「ねえ、」 「なに?」 「…好きだよ」 「え…」 ベンチから立ち上げリかけていたは驚いてまた座ってしまった。 驚きに黒い瞳を瞠って見つめてくるに不二は優しく微笑む。 「が好きだよって言ったんだ」 「あ…えと…」 「フフッ。が僕を好きなのは知ってるけど、返事聞かせて欲しいな」 「えっ!?」 嬉しくてどう答えようかと考えていると、答えるより先に気持ちを気づかれていたのに焦って、ますます言葉が出てこなくなってしまった。 「言ってくれないと、帰してあげないよ」 が更に焦ってしまうことを承知の上で不二は言った。 そして本当だよとでも言うように、の細い身体をぎゅっと抱きしめてしまう。 逃げられないよ。 そんな風に微笑む不二をは睨んだが、頬を赤く染めた恥ずかしそうな顔では効果が全くない。 数秒の沈黙後、は柔らかな唇を開いた。 「……不二くんが好きよ」 耳に届いた小さな声に不二は瞳を細めて微笑んで、更にぎゅっとを抱きしめる。 「僕も好きだよ」 不二はの耳元で甘く囁いて、柔らかな唇に優しくキスをした。 「二人とも大丈夫かにゃ?」 「うん、俺達が考えたとはいえ心配だな」 「大丈夫だと思うけど…」 手分けしてパーティの片付けをしている菊丸と大石と河村が心配そうに眉を顰めた。 今更だが、少し強引だったかもしれない。 「大丈夫だろう。不二は気がついていたみたいだしな」 「ああ。気がついていないのはだけだろう」 乾に手塚が同意する。 「上手くいってるといいね。じゃなかったら手塚を呼んだ意味ないもんね」 菊丸の言葉に手塚は顔には微塵も出さず、胸の中で頷いた。 「そう言えば、乾、あれ本当なのか?」 「あれ、とは?」 河村の質問に乾が首を傾げる。 「手塚を呼んだ理由だよ。にアレをバラすぞって脅したって話してただろ」 「ああ、そのことか」 「あ、俺もそれ聞きたい」 わくわくと顔に書いている菊丸に、手塚は渋面を作った。 「不二とをくっつけるために一役買え、と言われたんだ」 手塚の呟きに一瞬静かになって、そのあとはなぜか笑いの渦が起きた。 本当の事なのになぜ笑われるんだ、と手塚は胸中で呟いたが、二人が上手くいっているならいいかと思えた。 そんな友人たちのやりとりなど全く知らない二人は、仲良く手を繋いでゆっくり歩いていた。 とても幸せそうな笑みを浮かべて。 END 2010.01.30 加筆修正・再録 BACK |