Star Night




 藍色に染まった空を見上げると、星が煌いていた。
 思わず、澄んだ夜空を見上げながら歩いてしまう。
 東天にさそり座が見え、西天に大熊座とカシオペヤが見える。そして、もうひとつ。

「白鳥座…よね」

 一際輝く星は一等星のデネブだと思う。だから、それを頭に十字に星が結べて、この時間と夏空に見える星座は、白鳥座の筈だ。
 けれど確信がもてなくて、は考えるように首を傾けた。
 小さな頃使っていた星図を出してきて確かめてみようかしら。
 そんなコトを考えていると、不意にクスッという笑い声が聞こえた。

「よそ見して歩いてると危ないよ」

 聞きなれた声がして、その声と同時に抱きしめられた。

「周助」

 黒曜石のような瞳を瞠るに、不二は微笑んで。

「早く逢いたくて待っていられなかったんだ」

 がどうして、と問うより先に、不二はそう言った。
 不二のセリフにの白い頬が僅かに赤く染まる。

「それで迎えに来てくれたの?」

「うん。少しでも長く一緒にいたいから」

 色素の薄い瞳を細めて、にっこり微笑む。
 この笑顔には弱い。なんでも彼の言うコトを聞きそうになってしまう。

「ね、ねえ、周助」

「なに?」

「周助は星座に詳しい?」

 抱きしめられていると暑い、と理由をつけて不二に腕を解いてもらって訊いた。

「有名な星座ならだいたいわかるよ」

「それなら、あの星座わかる?」

 は白く細い指で、西の天を指した。
 
「白鳥座だね」

「あ、私の記憶で合ってたのね」

 ふふっと嬉しそうに微笑むにクスッと笑って、不二は恋人の手を取った。
 指を絡めるように手を繋いで、不二はの顔を覗きこむ。

は白鳥座の神話知ってる?」

「ゼウスが変身した姿ってコトしか知らないわ」

「ゼウスは白鳥に変身して、マイヤに逢いに行ったんだよ」

「周助、詳しいのね」

 驚くに、不二はそうかな、と答えて。

「僕も変身できたら、にすぐに逢いに行けるのに。残念だよ」

 不二が口元を上げてフフッと微笑む。
 どうしてこういう甘い言葉をすらすら言えるの…と胸の内で呟いて、不二の腕に顔を埋めて。

「…私は変身できない周助が好き」

 ゼウスのように、正妻ヘラの目を盗んで愛人の元へ行って欲しくはない。
 いつでも自分だけを見ていて欲しい。
 こんなに独占欲の強い人間だとは思っていなかったが、周助が相手だと違うらしい。

「クスッ。心配しなくても、僕はいつもしか見てないよ」

 そんなに真剣に考えなくてもいいのに。
 本当にあなたって人は可愛いね。

「愛してるよ、

 耳元で熱く囁いて、星空の下で不二はの柔らかな唇に甘いキスを落とした。




END


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