あなただからきっと乗り越えて次に繋げていける

 そう信じている

 試合が始まる前と、試合が終わった今も気持ちは変わらない

 だって、知っているもの

 あなたが―――周助が努力の人だって

 私はずっと見ていたから

 周助がテニスを始めた時からずっと・・・



TO NEXT STAGE



「周助、お疲れ様」

 悔しさを滲ませる周助にかける言葉は、それ以外なかった。
 試合の中で、彼は得意のトルプルカウンターを進化させ、更に新しいカウンターショットを生み出した。
 周助の青学を想う気持ちと勝ちへの執着がそうさせたんだと思う。
 追い込まれた窮地で立ち上がり、最後まで諦めなかった。
 そんな周助は輝いていて、そしてカッコよかった。
 だけど、それは今言うべきコトじゃない。

「・・・サンキュ」

 搾り出したような声は掠れていて、荒い呼吸が激しい試合だったコトを物語っている。
 少し伏せられた色素の薄い瞳は悔しさで溢れていて、胸が痛い。
 こんなにも落ち込んでいる周助を私は知らない。
 ううん、今までにもあったかも知れない。けれど、私が知る限りでは初めてだ。
 
、ちょっと」

 汗を拭うタオルを渡そうとした私の手を周助が取った。
 少しぐいと手を引かれて、来て欲しいという意味なのだと悟る。
 私はタオルを手に持ったまま、周助に連れられて会場の外へ出た。

 テニスコートから離れると、先ほどの歓声と熱気は感じられなくなった。
 時々、歓声が聞こえる時もあるけれど、それ以外は静かだ。

「周助。汗を拭ったほうがいいわ。風邪を引くといけないし」

 私は手を伸ばして周助の額の汗をタオルで拭った。

「ありがとう、。あとは自分でやるよ」

「うん」

 私はタオルで汗を拭う周助をただ見つめていた。
 所々汚れているユニフフォームは、周助ががんばった証。
 
「…周助はカッコよかったよ」

 周助を見つめていたら、自然にそう口にしていた。
 言うつもりじゃなかったのに。
 
「ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「だって…今言っていいコトじゃないでしょ」

 周助が格好よかったのは本当だけど、負けてしまった試合で言われたくない筈。
 もし私が周助の立場だったら、そう思うから。

に言われるなら嬉しいよ」

 俯いた私の耳に穏やかな声が届く。
 顔を上げると、周助は瞳を細めて微笑んでいた。

「イヤじゃない?」

「うん、にならね。あなたはいつも僕を見てくれているから」

 私が周助を見ているからイヤじゃない。
 それはどういう意味なんだろう。

「クスッ。が僕を知ってるからだよ」

 考え込んでしまった私に、周助が柔らかく微笑む。
 どれだけ考えても周助の言う意味はわかりそうにない。
 だけど、周助が微笑んでいるから、わからなくてもいい。

「決勝戦も応援するから」


 私は周助の強さを信じてる――


「ありがとう」

 その言葉と一緒に、ぎゅっと抱きしめられた。
 私の肩に顔を埋める周助を癒したくて、周助の背中に腕を回した。




END


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