並んで昼寝日和




 教室の窓から見える空は、青々と広がっている。
 日差しは穏やかで、風はよい感じに吹いている。
 今日の屋上は昼寝日和かもしれない。
 もっとも屋上のアスファルトの上に寝転がる気にはなれないけれど。芝生の上ならともかく、コンクリートは固くて痛い。
 四時限目の授業を受けながらがそんなことを考えていると、チャイムが鳴るより数分早く授業が終わった。
 社会科担当の教師は授業終了のチャイムが鳴るまで教室から出ないように言い置いて、教室を出て行った。それとほぼ同時に三年六組の教室はざわめき始める。授業で出された宿題について話したり、学食の話題だったり、サッカーの場所取りの話など多種多様だ。
「不二」
「ん?何、英二?」
「今日も?」
 主語を省いた問いだったが、菊丸の訊きたいことを不二は正確に読み取った。
「いや、今日は学食に行くつもりだけど。 ねえ、英二、わざわざずらさなくても、僕らは気にしないよ」
 不二たちが気にしなくってもこっちは気になるんだっての。不二とちゃんの周囲だけあま〜い空気なの気がついてないのかよ。
 心の中で呟いた菊丸だったが、苦虫を噛んだような顔をしていたため、菊丸の気が進まないという部分だけは不二に伝わってしまったようだった。
「彼女だけを見てたら気にならないと思うけどな」
 不二はクスッと微笑んだ。
 そんな不二に菊丸は僅かにむすっとした。
「俺がそうじゃないみたいじゃないか」
「そういう意味で言ったんじゃないよ。でも気に障ったならごめん」
「え、いや、…うん」
「周助くん」
 微妙な空気を切り裂いたのは、の声だった。
 不二はに瞳を向け微笑んで、菊丸に視線を戻した。
「じゃあね、英二」
「ああ」
「行こうか、
 授業終了と昼休み開始のチャイムは先程鳴ったので、不二はと教室を出て行った。
 並んで歩いていく二人の仲のよさにあてられていると、学ランの袖を引かれた。
「んあ?」
 菊丸は振り向いて破顔した。瞳に映ったのは、愛しい彼女であるだった。
「大丈夫?」
「え?なにが?」
 首を傾げる菊丸には少し眉根を寄せた。
「不二君と険悪とまでいかないけど、よくなさそうな雰囲気だったから」
「あ…」
 見られていたのか、と菊丸は苦笑いした。
「だいじょぶ、けりはついてるから」
「そう?ならいいけど…」
 心配そうに顔を曇らせるに菊丸は笑った。
「本当にだいじょぶだって! それよりさ、あとで屋上行かない?」
 そう提案すると、は笑顔で頷いた。
「お天気よくて気持ちよさそうだものね。お昼寝日和って感じで」
「だよねっ、俺もそう思ったんだ。ちゃんの膝ま――」
 慌てて口を閉じた菊丸には緩く首を傾げた。
「ひざま?」
「あっ、あのさっ、おべんとも屋上で食べよっか」
「それもいいね」



「…食べたあとに天気のいいところにいると眠くなるなあ」
 と並んで話をしていた菊丸は、不意に出たあくびを噛み殺した。
「寝てもいいよ、英二くん」
「え?」
「私でよかったら……その、…あのね……、」
 膝を貸すよ、と告げる声はとても小さかったが、菊丸の耳にはしっかり届いていた。
 驚きに瞳を瞠っての顔を見れば、彼女は頬を赤く染めて俯いていた。
 優しくて可愛い彼女に思わず頬が緩む。
 膝枕して欲しいなと思っていたのだから、断る理由など微塵もない。
「ありがと。じゃ、ちょっとだけ」
「う、うん」
 ちょっと緊張しつつ彼女の脚に頭を乗せ、菊丸は瞳を閉じた。
 横になると食後の満腹感と天気の気持ちよさに、ほどなくして意識は夢の中へ沈んだ。
「…………英二くん?」
 はそおっと彼の名前を呼んだが、反応はない。
 本当に寝てしまったのね、と胸中で呟いて、は微かにくすっと笑った。
 …今度、丘のある草原みたいなところで、並んでお昼寝できたらいいね
 ごくごく小さな声で言うと、寝ている菊丸が嬉しそうに笑ったので、は嬉しそうに頬を緩めた。




END  

屋上で5題「3.並んで昼寝日和」 / Fortune Fate様

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