澄んだ音色が響いている。
 透き通っていて綺麗な音だ。
 音の大きさからすると、ベルが鳴っている所は近くらしい。
「……周ちゃん」
 隣にいる彼氏の名を呼ぶと、柔らかな笑みが向けられた。
「行ってみようか」
 彼女が言いたい事を読み取って、不二はにっこり微笑む。
「うんっ」
 は嬉しそうに頷いた。




 ベルは鳴り響く




 音を頼りに歩いていくと、冬とは思えないほどの花々が咲き乱れた庭が見え始めた。その庭の先に真っ白な建物が見える。その建物の尖塔には十字架がついており、教会なのだとわかった。
 また一回、澄んだ音色が鳴り響く。
 不意に、教会の聖堂へ入るための扉がゆっくり開かれた。
 教会の中から出てきたのは一組のカップルだった。
「わあっ…」
 白い衣装を身にまとった二人には頬を緩める。
 寄り添う二人はとても幸せそうだ。
「……………いいなぁ」
 は胸の内で呟いたつもりだったので、声に出して言った事に気がついていない。彼女の瞳は変わらず新郎新婦を見つめている。

「なに?」
「君がいいなぁって思うのは、ウエディングドレス?」
 不二は緩く首を傾けて訊いた。
 がいいなぁと言ったのがウエディングドレスに対してなのか、それとも――。
 不二としては後者で、相手に自分を思い浮かべてくれていたら最高なのだが、それは言わない。
 聞けるのなら、の口から聞きたいので。
「………口に出てた?」
「うん」
 頷く不二には頬を赤く染める。
「言わないとダメ?」
 は上目遣いで不二を見上げた。困ったような顔で頬を染めるが可愛くて、思わず抱きしめてしまいそうになるのを不二は我慢した。
「ダメじゃないけど、参考までに聞きたいな」
「……笑わない?」
「もちろん」
 即答する不二からは視線を逸らして、あさってを向く。恥ずかしくて目を見て言うなんて、絶対に無理だ。
「…いつか…いつかね……」
 周ちゃんと出来たらいいなぁって思ったの。
 不二は自分の頬が緩むのを自覚した。
 いいなぁの前の言葉は、自分が望む言葉だった。それがとても嬉しい。
 望むのは二人同じ未来。
「じゃあ、待っていてくれる?」
 は一瞬息を呑んで、それから満面の笑みを浮かべた。
「うんっ」
 返事をして、不二に抱きつく。
 不二はの華奢な身体を受け止めて、壊れ物を扱うように優しく抱きしめる。
 再び鳴り響いたベルに「祝福されたみたいだね」と不二が笑う。は頷こうとしたけれど――。



 ふっと瞼を開けると、視界が傾いていた。
 あれ?と不思議に思いながら、頭を起こす。
「あ、起きた?」
 右側から聞こえた声に視線を向ける。
「周ちゃん?」
 黒い瞳を瞬かせるに、不二はクスッと小さな笑みを零した。
 どうやら寝ぼけているらしい。
「電車に乗ったの、覚えてる?」
 その言葉に、自分は今、首都の名を冠した大きなテーマパークに向かっている途中だったのだと思い出す。今日はクリスマスで、テーマパークでデートする事は以前から決めていた。
 電車の揺れが心地よくて、うとうと眠ってしまったらしい事には気がついた。
「寝ちゃってごめんね」
「気にしなくていいよ。それより、どんな夢を見てたの?」
「……夢?見てた気がするけど、あんまり覚えてない」
「そう。残念だな」
「残念?どうして?」
「周ちゃん、て聞こえた気がしたから、僕が出てたのかなあって思ったんだ」
 そう言われると、不二が傍にいたような気がする。
「周ちゃんいたかも…それと、ベルが鳴り響いてた気がする。それで…」
 は不二の顔をじっと見つめた。
 夢の中の不二と何か約束をした――気がするのだが、思い出せない。
?」
「あ、ううん。それだけ」
 微かに首を傾けて笑うに不二は優しい笑みを返す。
「幸せな夢だった?」
 不二はなんとなくそう思った。
「うん。すごく幸せな夢だった気がする」
 嬉しそうに笑うに、不二は幸せな気持ちになった。嬉しさをわけてもらった、そんな感じだ。
「あっ、もうすぐ着くね」
 社内アナウンスにがはしゃいだ声を上げる。
 数十秒後、電車は夢と魔法の国最寄駅に停車した。



 青空に吸い込まれるように、祝福のベルは鳴り響く。
 そう遠くない未来に――。




END

聖夜に7つのお題「04.ベルは鳴り響く」 / 1141 様

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