Sweet Lunch Time




 午前の授業の終わりを告げるチャイムが教室内に響く。
 時を同じくして、四限目担当の教師が授業の終わりを告げた。

 授業中の静かな空気は跡形もなく消え去り、賑やかな空気へと変化する。
「屋上でお弁当食べない?」
「なぁ、購買行くだろ?」
「先生また宿題出したな〜」
「飲み物買いに行こうよ」
 わいわいガヤガヤと教室のそこかしこで様々な会話が交わされている。
 その中には当然彼女たちも当てはまる。

〜、お昼にしよ〜」
「うん、今日はどこで食べる?」
 はその日の天気や気分によって、昼食をとる場所を決めていた。
 例えば、天気のいい日は中庭で。
 雨が降っていれば教室で。
 静かに過ごしたい時は屋上で。
 というように、毎日色々な場所昼食をとっていたりする。

 そして今日は。
「ん〜。はどこがいい?」
「私は…」
 は言葉を区切って、黒い瞳で教室内を見回した。
 今日はいつもより教室に残っているクラスメートが少ない。
 そしての近くには、菊丸と談笑している彼女の恋人の姿があった。

 の答えは決まった。
「教室で食べよ?」
「OK!じゃあ、お弁当持ってくるね」
 は自分の席へお弁当を取りに行った。
 その間には自分の机と左側の机を向かい合わせにくっつけて、食べる準備を始める。



「いただきます」
「あっ、ポテトサラダおいしそう〜」
 が弁当箱のふたを開けると、がそう言った。
「ねえ、私の肉団子と交換して?」
「うん。いいよ」
 が許可を出すと親友は満面の笑みを浮かべた。
 それは嬉しそうに笑って、瞳まで輝いている。

「やった〜。の料理っておいしいから好き〜〜」
「そう?」
「うん。私なんて料理が下手だから、羨ましいよ。あ〜あ、不二君はずるいよね」
、どうしてそこで周助くんの名前が出るの?」
 突然の話題転換には疑問を投げた。
「だってさ、不二君てばの手料理を週に1回は食べてるらしいじゃない」
 に肉団子と交換してもらったポテトサラダに口をつけながら、は羨ましそうな声色で言った。
 拗ねたような親友には苦笑する。

「それはそうなんだけど、周助くんが…」
「僕が何?
「わっ!不二君いきなりわかないでよ」
「失礼だね、
 突然目の前に現れて、人を驚かせた上にこのセリフ。
 さすがは不二周助だ。
 とそう思ったのはである。

 だがそんな不二も恋人に対しては立場が弱い。いや、甘いと言った方が正しいかもしれない。
「二人ともケンカはやめてよ?」
「わかってるよ、
 不二はにっこり笑ってそう言った。
 そんな不二にが悪態をついたのは言うまでもない。もっとも口に出すことはなく、心の中で、だが。

「あ、エビチリ。美味しそうだね」
 の弁当箱を覗き込んで不二が言った。
 それに詰まっている料理の数々を作ってきた本人が、首を傾げて不二に訊ねる。

「周助くんも食べる?」
「もらおうかな」
「うん、いいよ。はい、お箸」
「食べさせてよ、
 そう言って不二は口を開けた。
 そこまでされてはが食べさせない訳にはいかない。
 彼に渡そうとしていた箸を持ち直し、エビチリを掴んで恋人の口まで運んだ。

 不二は口の中のものを美味しそうに食べて口を開いた。
「美味しい。やっぱり君は料理が上手いね」
「ずるい不二くん。…、私にも頂戴!」
 あまりにも迫力のある顔でが言うものだから、は思わず頷いてしまった。
 がエビチリをとって、口の中へ入れる。
「かっ、辛ーーっっ!!」
 想像を超えた辛さにが叫ぶ。けれど、彼女の傍にいるのは、校内で有名な激辛好きカップルだった。
「そうかな?」
 と不二の声が重なった。
 はそんな反応をした二人に反論をしたかったが、あまりの辛さに声がでない。辛さを紛らわせるために冷たい緑茶をゴクゴク飲み干し、ようやく口を開いた。

「二人の味覚が変なのよッ」
「僕はともかく、人のお弁当を食べておいて言うセリフじゃないよね?」
「うっ…」
 瞳を細める不二には怯んだ。けれど、不二はそんなのことなどほうって。
「あ、そうだ。
「なぁに?」
「食後のデザートを忘れていたよ」
「え?デザート?持っ――」
 が「持ってきてないよ」と言おうとしたが、それはキスで塞がれた。
 軽く触れてすぐに離れた唇は艶やかに微笑む。
「ごちそうさま、




END


【Mauve Tales】藤名翠様へ『Sweet Summer With Syusuke』に参加させて頂いたお礼に。
お誘いいただきまして、ありがとうございました。

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