Memories
と周助が結婚式を挙げてから数カ月が過ぎたある日。 二人の新居に一通の手紙が届いた。 不二様 宛名にはそう書かれていた。 封筒の裏を見ると、差出人はの中学時代からの親友である だった。 数通の手紙やダイレクトメールに混じって届いた親友からの手紙に、は懐かしさに頬を綻ばせた。 「結婚式以来だから、5ヶ月振りね…」 と周助が挙式をしたのが今年の6月。今は11月だ。 月日が流れるのは早いもので、 と が久しぶりに再会してからすでに5ヶ月が経過していた。 リビングにあるお気に入りの座り心地のいいソファに座って、 は手紙の封を開けた。 『へ 、元気にしてる? 不二君とケンカしたりしてない? …って、そんなことあるはずないか。 二人が付き合い始めた時から今まで「ケンカした」って聞いたことないもんね。 いつも二人とも幸せそうで、仲も良くて羨ましいわ』 「ふふっ。だって彼と仲が良いじゃない」 『ところで、実は私来年の4月に引っ越しをすることになったの。 いま住んでいる所もすごく気に入っているんだけど、でもね・・・・・・・・ 』 数枚にわたって彼女の近況や学生時代の友人たちの話が綴られた手紙を、 は相槌をうったり時に笑ったりしながら読み続けた。 そして最後の一枚に書かれた文章を読むと顔を朱色に染めた。 「もうっ、 は〜〜」 はそう呟いて、けれどもすぐさま小さく笑って、ソファから立ち上がった。 周助の書斎に入って、何冊もの洋書や写真集と一緒に本棚に並んでいるアルバムを数冊取り出し、それらを持って はリビングへ戻った。 再びソファに座って、『青春学園 高等部』と書かれた少し日に焼けた背表紙のアルバムのページを大切に繰る。 教師の写真。 クラスメイト一人一人の顔写真。 クラスの集合写真。 体育祭。 修学旅行。 文化祭。 クラブの集合写真。 想い出のたくさん詰まった写真とともに甦る、今尚色褪せることのない記憶。 「なつかしいな〜。みんな元気かな……」 写真を見ては当時を思い出し、懐かしさに目を細めた。 ゆっくりとページを繰って写真を見ていた は、あるページで手を休めた。 見開いたページの中央に数人の友人と一緒に が写っている写真がある。 その写真は修学旅行の際、友人数人と故宮博物館の前で撮ったときのもので、 の隣には周助がいた。 けれど、その時は恋人という関係ではなく、 の片想いだった。 想いを伝えられなくて。でも大好きな人と一緒に写っている写真が欲しくて、親友の に頼んで撮ってもらったのだ。 「ふふっ、私ってば顔が緊張してる」 周りの友人たちはみんな楽しそうに笑っているのに、緊張しているせいで一人だけ上手く笑えていない自分がいて、思わず苦笑した。 家の中が薄暗く感じられ窓に目を向けると、陽が落ちて外は暗くなってきていた。 「大変!周助が帰ってくる時間じゃない!」 アルバムに没頭していたせいで、気がつけば時刻は19時になろうとしていた。 結婚してから今日まで、周助は残業のない日はいつもこの時間に帰宅している。 周助は遅くなる時は事前に必ず連絡をくれた。でも今日は連絡がなかった。つまり彼はもうすぐ帰宅するということだ。 アルバムを閉じて片付けようとした時、タイミングよくインターフォンが鳴った。 はアルバムを開いたままテーブルの上にのせて、慌ただしく玄関へ向かう。 「周助、お帰りなさい。今日もお疲れさまでした」 「ただいま、 」 家の中へ入った周助は を抱き寄せて、彼女の唇にただいまのキスをする。 寝室で周助の着替えの手伝いをしながら、 は今日の出来事を彼に話す。 これは二人の日課になっていて、昼間は話すことのできない二人にとって、とても大切な時間だ。 お隣の奥さんから蜜柑を頂いたこと。 から手紙がきたこと。 懐かしくなってアルバムを見ていたこと。 気がついたら夜になっていて、実は夕食の準備をまだしていないこと。 周助が着替えを終えてリビングへ行くと、テーブルの上に出されたままになったいるアルバムが目に映った。 それに誘われるように周助はソファに腰を下ろし、アルバムを手に取って懐かしさに目を細めた。 「懐かしいね。この写真は僕と がまだ付き合っていない時の写真だね」 そう周助が言うと、 は彼の隣に腰を下ろして少し恥ずかしそうに口を開く。 「うん。今だから言えるけど、周助と一緒に写っている写真が欲しくて、写真部だった に撮ってくれるように頼んだの」 「君の中では、ね」 「え?」 言われている意味がわからず、 は首を傾げた。 すると周助は不敵に微笑んだ。 「 がに頼む前に、僕が彼女に頼んだんだよ。君と一緒に写っている写真が欲しくてね」 「嘘…」 「嘘じゃないよ。これとかこれも僕がに頼んで撮ってもらったんだから」 周助は体育祭の写真や文化祭の写真を指で差して言った。 知らない事だった。 体育祭の写真も文化祭の写真も、すべて偶然に周助と写っているのだと思っていた。 けれど実際は大好きな彼が頼んでいたのだと知って、 は頭が混乱した。 「どうして?」 「三年で同じクラスになるずっと前から、僕は が好きだからだよ」 「でも、そんな素振りは全然なかったよ?」 「気がつかれないようにしていたんだ。 から告白して欲しかったから」 周助の言葉は謎めいていて、は更に訳がわからなくなる。 「して欲しかったってことは私の気持ちを知っていたってこと?どうして私が周助を好きだって気がついたの?それを言ったことがあるのは だけなのに」 「その話をしたのって、夏休みが始まる前の放課後の教室でしょ」 「!?」 「部活が終わった後、忘れ物に気がついて教室に戻った時、君たちの会話が聞こえちゃったんだ。それで翌日、僕が のことを好きだって話を にして、その後いろいろ協力してもらってたんだ。 から告白してくれるように、ね」 衝撃的な事実を告げられて、 は呆然とした。 「、怒ってる?」 は首を横に振った。 「怒ってないわ。だけど…」 「だけど?」 「なんだか周助にはめられたみたいで悔しい」 周助を軽く睨みつけて言うと、謝罪の言葉と一緒に唇にキスが落とされた。 「ごめんね。君を騙したつもりはないんだ」 バツの悪そうに周助が言うと、 は軽く溜息をついた。 「許してあげるわ。…私は周助といられて幸せだから」 は囁いて、周助の首に腕を回す。それを証明するように、愛しい人の唇に自分の唇を重ねた。 そっとキスをして が唇を放すと、周助は嬉しそうに微笑んでいた。 「僕も幸せだよ。… 。愛してる」 周助は の細い身体を優しく抱きしめて、桜色の唇に熱いキスをした。 「ねえ、 」 「なあに?」 「 からの手紙はなんて書いてあったの?」 「 ね、来年の4月に結婚するんだって」 「へえ、そうなんだ。で、他には?」 「え…う、ん」 「なにか良くないことでも書いてあったの?」 「そうじゃないけど…」 「けど?僕には言えないことなの?」 言える訳ないじゃない、と は胸の内でつぶやいた。 親友からの手紙の最後に書かれていた言葉は―― 『追伸 子供ができたらまっさきに教えるように』 だったのだから。 END 【森の遊歩道】森島まりん様に相互記念に献上。 『ヒロインは同級生、黒不二で新婚もの。周助さんは策士で甘く。ヒロインに「周助」と呼ばせる』 というリクエストをいただきました。 私も新婚ものは大好きです。もちろん策士な周助くんもv 書いていてとても楽しかったですが、甘さが微妙に足りない気も・・・。 BACK |