Morning




 柔らかな光がカーテンの隙間から差し込み、白い波に横たわり微かな寝息を立てている愛しい人の長く艶やかな黒髪を照らす。
 夜空色をした髪は光の加減でブラウンにも見える。
 サラサラと流れるような真っ直ぐな黒髪が白い波に映えて、彼女の寝顔はまるで天使のようだ。
 すやすやと可愛い寝息を立てている の前髪を梳いて、形のいい額に軽くキスをする。
、朝だよ?」
 耳元で囁くと、くすぐったいのか細い身体を捩ってブランケットを顔まで引き上げた。
 可愛い仕種にクスッと笑みが溢れる。
「無理させちゃったから仕方ないか」
 僕は仕事の関係で一週間、東北へ出張していた。
 そして昨日ようやく東京に戻ってきたばかりだった。


 5つの歳の差というハンデを乗り越えて、僕は彼女と結婚した。
 そして新居に越して一緒に暮らすようになってから、まだ半年過ぎたばかりで、僕たちは毎日ふたり一緒に休んでいた。
 だからかもしれない。一週間触れ合えなかっただけで、僕は昨夜、激しく彼女を求めた。
 何度求めても足りなくて、ようやく彼女を解放してあげられた頃には、真夜中をとっくに過ぎていた。


 お詫びに僕は朝食を作るために寝室を後にした。
 彼女の几帳面な性格をあらわすように、キッチンはいつも整理整頓されている。
 おかげでたまにしかキッチンに立つことのない僕でも、迷わずに料理ができる。もっとも、彼女の料理の腕はプロ級で、知っていても使ったことがない調味料がある棚に手を触れたのは、片手で数えるほどしかない。
 冷蔵庫の野菜室を開けて、レタスと胡瓜、林檎を取り出してサラダを作った。
 メインは彼女の好きな浅葱入りのオムレツ。彼女が作っているのを思い出しながら仕上げて、真っ白な楕円皿に盛り付け、さっき作っておいたサラダを添えた。
 そして、バスケットにオーブンで温めたロールパンを数個用意した。
 これでだいたいの準備はできた。
 あとは を起こさなきゃね。
 どうやって を起こそうか考えながら、寝室へ戻った。
 扉をそっと開けてベッドを見ると、先程とかわらずに彼女は寝息を立てていた。
 薄緑色のカーテンを引くと、眩しい光が室内を照らした。それと同時に、小さなうめき声が上がる。
「・・う・・・んぅ・・・」

 耳元で名前を呼ぶ。
「・・・ん・・・もう・・すこし・・」
 呟いて、 は再び夢の中へ戻ろうとした。
 寝ぼけてる君も可愛いけど、そろそろ僕を見て?
「起きないと、キスしちゃうよ?」
「…ん…」
 聴こえてないのかな?
「仕方ないな」
 僕は のほんのりとピンク色に染まった頬を両手で包みこんで、柔らかい唇に軽くキスをした。
 でもまだ起きる気配がないから、次は少しだけ深くキスをした。
 桜色の唇を割って舌を絡めると、微かに動く気配がした。
「…ッん」
 完全に目が覚めたらしい から甘い吐息が溢れる。
 僕は彼女にニッコリと笑いかけた。
「おはよう 。目が覚めた?」
 訊くと、真っ赤な顔でコクンと頷いた。
 その仕種が可愛くて、細い身体を抱き寄せて再び彼女にキスを落とした。


「これ、周助が?」
 テーブルの上を見た が驚いたように声を上げた。
「昨夜のお詫びだよ」
 言うと、昨夜のことを思い出したのだろう。
  は頬はもちろん、耳まで赤く染めた。
「さ、冷めちゃったら美味しくなくなっちゃうね」
 誤摩化すように言って、 はイスに腰掛けた。
 こういう可愛い行動をされると、もっとからかいたくなってしまう。
 だけど、拗ねた顔より笑顔の を見ていたいから、からかうのはやめた。
 昨夜、ちょっといじめてしまったしね。
、何飲みたい?」
「えっ、あ…グレープフルーツジュース」
「わかった。ちょっと待ってね」
 冷蔵庫から紙パックのグレープフルーツジュースを取り出して、グラスに注いだ。それを の前へ置く。
「ありがとう、周助」
 そう言って、嬉しそうに笑った。
 そして僕たちは、今日の予定をどうしようかと楽しく話をしながら、一緒に朝食を摂った。





END

ラム様へ

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