仕事中かな?邪魔してごめんね。
 今度の日曜日の約束覚えてくれてるよね?
 って案外そそっかしいから確認しておこうと思ってさ。
 ――なんてね。冗談だよ。
 日曜日が待きれなくて、つい…ね。
 二人きりでゆっくり過ごそうね。楽しみにしているよ。


「うん。私もとても楽しみよ、周助」
  は幸せそうに笑って、そう呟いた。

 誕生日を一緒に過ごそうと言ったのは、不二だった。
 そう言われた時に驚いたら、彼は可笑しそうに笑っていたのを、ふと思い出した。
 先月の中頃に の家で夕食を一緒にした時に、不二が言ったのだった。
「ねえ、 。来月の10日、空けておいてね」
「え?どうして?」
「クスッ、 の誕生日じゃない。だから二人きりでゆっくり過ごそう」
  は驚きに黒い瞳を瞬きさせた。
 すると不二はクスクスと笑いながら。
「そんなに驚かなくてもいいんじゃない?恋人の誕生日を一緒に祝いたいって思うのは当然でしょ」
「え…でも、部活に顔を出さなくていいの?」
 記憶が正しければ、不二は月に1〜2回ほど、部活に顔を出していた。
 それも決まって日曜日。
 だからは不二と一緒には過ごせないだろうと思っていた。
 夜だけ――少しの時間だけでも一緒にいられたら、それで十分だった。
 は学生である彼には、友人との時間を大切にして欲しいと思っている。
「部活に顔を出す日は皆の予定を合わせて決めてるから、大丈夫だよ」
 優しい笑顔で不二はそう言った。
。君からの返事が欲しいな」
「周助と一緒に過ごしたい」
「フフッ、ありがとう」



 日曜日の朝早い時間に は起こされた。
 朝早いと言っても、平日会社に行く時間などとうに過ぎているのだが、休日はゆっくり起きることが多いので、そう感じただけだ。
 まだ眠気の残る瞳をなんとか開いて覚醒した は、驚きに絶句した。
 彼女の目の前に、いるはずのない人がいた。
 夢かと思い、瞬きをしてみる。だが、その人はまだ見える。
「クスッ。おはよう、
 にっこりと笑って言う周助に、 はベットから飛び起きた。
「しゅ…周助?」
「なに?」
「ここで何をしてるの?」
の可愛い寝顔を見たいなって思って、早めに来たんだよ」
「…悪趣味」
 眉を顰めて言うと、不二はクスッと笑った。
「でも、そういう悪趣味な僕も好きでしょ」
「そんなこと言った覚えはないわ」
 訝し気な瞳を恋人に向けると、彼は不敵に微笑んだ。
「君は覚えてないだろうね。どんな周助も好きって告白してくれた時、君の意識はほとんどなかったから」
 その言葉に は顔を真っ赤に染め上げた。
 なんとなく思い出してきた。
 あれは確か5月の初めで、不二と付き合い始めてちょうど半年が過ぎた頃。
 この部屋に初めて恋人が来た日の夜のこと――。
 徐々に克明になってきた記憶に恥ずかしさが頂点に達し、 は思いきり布団を頭から被った。
「フフッ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。可愛いくて食べたくなっちゃうよ」
 言いながら、不二は布団ごと を抱きしめた。
 するとくぐもった声が聞こえてきた。
「それ以上言ったら嫌いになるからね」
 不二が腕の力を緩めると、 は布団の隙間から顔を覗かせた。
 黒い瞳でじっと不二の秀麗な顔を睨み付ける。
 これには不二もやりすぎた、と思った。
「ごめん、
「ホントに反省してるの?」
「してるよ」
「それなら特別に許してあげるわ。今日は私の誕生日だし?」
「ありがとう、 。大好きだよ」
「だから、そういうことを――」
 不二は の柔らかい唇をかすめ取って、フフッと微笑んだ。
 いつまでたっても年下の恋人に勝つことはできないと は再確認し、諦めたように顔に苦笑を浮かべた。


「・・・・・・」
?立ってないでここに座って?」
 着替えてリビングに姿を見せた が無言のまま立っているので、不二は自分の隣の床を手で示して、恋人に座るように促した。
  は「うん」と頷いて、恋人の隣に座った。そして、恋人の秀麗な顔をじっと見つめた。
 不二がゆるく首を傾げる。
「どうしたの?」
「周助・・・朝から…なの?」
 テーブルの上には不二が作った朝食がある。
 こんがりと焼けたトーストに野菜のスープ。不二の友人菊丸直伝のふわふわオムレツ。
 どれも美味しそうで、空腹な胃を満たすに十分なものだ。
 だが、それはいいとして、問題はテーブルの中央に置かれたものだ。
 白くて丸くてイチゴがのっている。誰が見てもそれはショートケーキにしか見えない。
  が何を差して言っているのか理解した不二は、にっこりと笑って。
「夜までお祝いしないのもなんでしょ?」
 確かに不二の言うことは一理ある。夜でなければいけないと決まっているわけではない。
 現に が小学生だった頃、友達を誕生日会に呼んで昼間から祝って貰っていた。
 それに祝ってもらえるのは嬉しい。嬉しいけど、朝からケーキを食べるのか?と は言いたいのだ。
「ケーキがないと雰囲気がでないでしょ」
「それはそうだけど…驚いたわ」
 朝食を用意してくれるという言葉に甘えて、彼に作ってもらった。
 でもまさかケーキがあるとは思わなかったのだ。いや、恋人の性格から考えるとケーキを用意しないことなど考えられない。けれど、いきなり朝から出してくるとは思ってもみなかった。
「フフッ。でも、まだまだこれからだよ?」
 楽しそうに言った不二の真意が分からず、 は首を傾けた。
 黒い瞳は「何が?」と雄弁に語っている。そんな恋人に不二はクスッと笑って。
、誕生日おめでとう。いまもこれからも、ずっと僕の隣にいてね」
 そして、 の細い首にひんやりと冷たいものが触れた。
 細い銀色の鎖――ペンダントを不二は につけたのだ。
 鎖に通されたピンキーリングには、深い緑色の小さな宝石がついている。
  の誕生石であるグリーン・トルマリンだ。トルマリンには緑の他に赤やミックスカラーと呼ばれるものもあるのだが、不二は が一番好きな色を選んだ。
  はリングを掌にそっと乗せて見つめた。窓から差し込む光が宝石に反射して眩しいような気がした。
「ありがとう、周助」
 涙を目尻にたたえて は微笑んだ。
 いつでも自分のことを想ってくれている周助の気持ちが、とても嬉しくて。
「僕が の隣にいられない時でも、 を守りたいから――。いますぐに結婚できたらいいけど、僕はまだ学生だし、生活力もない。でも、必ず君を僕の花嫁にするから、それまで待っていて欲しい」
「・・・っ」
 言葉がでなかった。
 いままで見たことがないほど、真剣な瞳で、まっすぐに見つめられて。
 心が熱い――。
  は不二の広い胸に飛び込むように抱きついた。
 不二は細い身体を大切そうに抱きしめて、柔らかな黒髪を愛し気に梳きながら。
「近い将来、本物を贈るから」
 言うと、 は小さく頷いた。
 そして、ゆっくりと顔を上げて、恋人の顔を見つめた。
「待ってるから…だから・・・」
「うん。約束するよ、
 優しく甘い声で囁いて、不二は の桜色の唇にキスを落とした。
 そして、穏やかに微笑んで。
「君を愛してる」
「私も周助を愛してる」
 再び重なった唇は、とても熱くて眩暈がしそうだった。


 君の隣は僕だけのもの

 だから、誰にも譲らないよ――




END


【Sweet Cafe】玲様のお誕生日お祝いに献上。
Sweet Cafe様の三大王子様でお届けv 玲さんのお好きな色情報ありがとうでした、花音さん。


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