Someday... 住宅街から離れた静かな場所に、乳白色の石を積み上げて造られた建物がある。 外観の全てが煉瓦程の大きさの石で組まれており、天辺に白い十字架が立っている。 本来ならば乳白色の建物と緑が相まって美しいと言えるのだが、今はお世辞にも美しいとは言えない状態にあった。庭は草が生い茂り、建物の壁には蔦が絡みつき、荒れ放題となっているので。 なんでも、この教会の神父が故郷であるフランスに諸々の事情で帰国しなければならず、後任者が決まらないままなので今のような状態らしい。 それが真実かただの噂話なのかはわからないが、誰も住んでいないということだけは確かだった。 「・・・ねえ、周助。本気なの?」 「そうだけど?、もしかして恐い?」 「こっ…恐くないわよ」 顔に大きく、少し恐い、と書いてあるような表情では反論した。 そんな彼女に不二はにっこり笑って。 「僕が一緒だからね。それにここに来たいって言ったのはだし」 そう言われては言葉に詰まった。 昨日学校からの帰り道で不二から聞いた話が気になったが、部活が休みだという不二に付き合ってもらってここに来ている。 だから言い出した自分が帰りたくなったとは言えない。 「・・・だって気になるんだもの」 半ば意地になる恋人に不二はクスッと笑って、の頭を大きな手でくしゃりと撫でた。 「大丈夫だよ。もし何かあっても僕が守るから」 その言葉には今度は素直に頷いた。 大きな鉄柵の門は鍵がついておらず、少し力を入れただけで簡単に開いた。 不二が前を歩き、は彼の茶色いジャケットの裾を掴んで後ろを歩く。 それに気づいた不二はの細い手を取って、安心させるようにぎゅっと握った。 「周助・・・」 ありがとう。 風に溶けてしまう程の小さな声に周助は瞳を細めて微笑んで、繋いでいる手の力を少し強くした。 不二の姉の友人が言っていたという通り、門と同様に入口の扉には鍵がかかっていなかった。 扉の開く音がやけに大きく響く。 「・・・っ」 教会の中へ足を踏み入れたは、瞳に飛び込んだ光景に息を呑んだ。 聖堂の正面にある大きなステンドグラスが陽光に輝き、プリズムを創っている。 荒れ果てた教会などと誰が言ったのかわからない噂は嘘であることを証明する光景が目の前にある。 「、おいで」 手を引かれ、は条件反射で歩き出す。 「周助?なに?」 そう訊くと、不二は振り向いて自分の唇に人差し指を当てた。 「静かに」 不二の囁く声には眉を顰めかけて瞳を瞠った。 何か聴こえる・・・。 そう思った瞬間、身体が一瞬にして凍りつく。 教会なのに幽霊が出るなんて、と。 「違うよ、」 不二の柔らかな声が耳に届き、の緊張がほぐれる。 先入観の取れたの耳に、澄んだ音色が聴こえた。 「これって…オルゴール?」 「うん。ステンドグラスに近づくとオルゴールの鳴る仕掛けになってるんだ」 「すごい。そんな仕掛けが――」 あるなんて、と続く筈の唇の動きが止まる。 聞き間違いでなければ、彼は今「なっている」と言った。「みたいだ」ではなく、「なっている」と。 その言葉が示す意味はひとつしかない。 「知ってたの?」 それなのに黙っているなんてひどい、と抗議しようとするの耳に、不二の僅かに沈んだ声が届く。 「、覚えてないんだね」 「えっ?」 「11年前、僕たち一緒にここに来てるんだよ」 「5歳の時に?」 そう言われてみれば、このステンドグラスを見たことあるような気がする。 今見ているより大きかったと思うのは、まだ幼い子供だったからかもしれない。 そして、このメロディも聴いたような覚えがある。 にっこり微笑みあって、その時になにか大切なことを約束した―――。 うっすらとしていた記憶が鮮明になっていく。 「・・・思い出した?」 不二の声にはハッとなり、首を横に振った。 だが不二はの一瞬の瞳の動きを見逃さなかった。 「嘘吐きだね、。それとも、もう一度言わせたいのかな?」 その言葉とともに抱きしめられ、の耳元へ不二の唇が寄せられる。 「世界で一番、を愛してるよ」 甘くて少し掠れた声に、心臓の鼓動が増す。 顔が赤くなっていくのがわかるが、止める術などない。 「私も…周助が大好き」 『せかいでいちばん、ちゃんがだいすきだよ』 『もしゅうすけくんがだいすき。おっきくなったらしゅうすけくんのおよめさんになるの』 『やくそくだよ』 『やくそくね』 あの日、約束をした時と同じように、不二はの可愛らしい唇に甘くて優しいキスをした。 END 【as yet】千波矢様の素敵イラストにつけさせていただいたSSです。 千波矢さん、イラスト提供ありがとうございましたv きっかけとなった周助さんの素敵イラストを提供してくださった千波矢様のサイト【as yet】では、 イラスト付き(加工版)で掲載してくださっています。千波矢さん、いつもありがとうございます。 BACK |