熱愛宣言




 放課後のテニスコートに張りのある声が響く。
「練習を始める。一年は球拾い、二年はCコートでサーブ&ボレー、レギュラーはA、Bコートでカラーコーン練習を行う。 ただし、不二はグラウンド30周だ!」
 手塚のセリフに男テニ部員の視線が不二に集まった。
 不二は瞳を鋭く細めて、手塚を見据える。

「手塚。なんで僕だけ走り込みなの?」
 いつもより幾分か低い声で、けれど何かを楽しんでいるかのように言った不二に、手塚は眉間の皺を増やした。
「無断で一週間もクラブを休んだ罰だ」
「ふぅん。それなら も同罪なんじゃない?」
 不二は手塚の斜め後ろに控えているテニス部の臨時コーチであり、自分の恋人である に視線を合わせた。
「えっ?私?」
  は自分の顔を指差して目を見開いた。
「コーチは関係ないので走らなくて結構です」
 手塚は後ろを振り返り用件だけを言って、視線を不二に戻した。
「規律を乱す奴は許さん。それはレギュラーでも例外ではない。 練習を始めるぞ!」
 その声で解散し、練習を始める青学男子テニス部員たち。
 不二は小さく舌打ちして、自分にグラウンドを走るよう指示した手塚に近付いた。
「ねぇ、手塚。せめて10周にしない?」
 不二の言葉に手塚は怪訝そうに顔をしかめた。
「何を言っている。30周と言ったら30周だ。走ってこい!」
 まるで頑固親父が言うように、手塚は一喝した。
 すると不二はにっこり笑って。

「でもさ、僕、腰がだるいんだよね」
「・・・は?」
 手塚にしては珍しく、間抜けな声が溢れた。
 不二はそれを気にするような素振りもなく、もう一度言った。

「だから、腰がだるいんだってば」
「何故だ?」
 顔に『わからない』と書いている手塚に、不二は口元を上げて不敵に微笑んだ。
「昨夜と無理しすぎたみたいでさ」
 不二が手塚に小さな声で耳打ちすると、手塚は顔を赤く染めて硬直した。
 お堅い部長もここまで言われれば、意味がわかったらしい。
 その様子に不二はクスクス笑うと、硬直している手塚を放ってレギュラー陣が練習をしているA、Bコートへ向かった。



「あれ?不二、もう走り終わったのか。早いな」
 コートへ入ってくる不二をいち早く見つけた大石が声をかけた。
「うん。手塚が走らなくていいって言うからさ」
「そうか。突然どうしたんだろうな?」
 大石は不二の言った事を真に受け納得していたが、大石以外のレギュラー陣は信じていなかった。
 それは、数メートル向こうで顔を赤く染め硬直を続ける手塚を見れば一目瞭然だ。

  不二(先輩)一体何を言ったんだ…。
 口に出せず、心の中で異口同音に突っ込みをいれたのが数名。
 そして、それをあえて口にしたのは、いつものメンバーだった。

「不二先輩。部長に何言ったんスか?」
「クスッ。気になる?越前」
「オレも気になるっスよ、不二先輩」
「桃も?仕方ないな。じゃあ二人とも耳かして」
 そう言われて、二人は素直に…というより後で起こる出来事より好奇心が勝って、不二の側に寄った。
 不二は妙に真剣な顔をして話しだした。
 もっとも言っている内容は話題として相応しいかどうかは疑問である。

「実はさ、・・・を・・・・て、腰が・・・いんだよ」
「なっ…ふっ、不二先輩〜〜〜?」
「桃先輩うるさい。騒ぎすぎ」
「あれ?越前は驚かないんだね?」
「そんな狂言には騙されないっスよ」
「そう。それなら証拠、見る?」
 そう言うと不二はCコートでボール出しをしている に呼びかける。
ー!英二が足を挫いたってー」
「不二!?俺はどこもケガしてにゃ――」
「英二。僕たちドリームペアだよね」
 言葉は柔らかだが、不二の微笑みはどこか恐い。
「…にゃ…」
 菊丸は不二に凄まれ、その場に座り込んだ。
 そうこうしている間に、 がCコートから駆けてきた。
「英二君、大丈夫?ちょっと足診せて」
  が菊丸の正面に身を屈めた。
 それを見計らい、不二は越前に耳打ちする。

「ほら、 の首のところよく見てごらん?」
 言われるままに の首筋に越前は目を遣った。
 彼女の束ねられた長い髪の隙間から、白い首筋に散る幾つもの赤い花が見えた。
 虫刺されではなく、明らかに情事の名残とわかる赤い痕。
 これには生意気ルーキーも硬直した。
 いくらアメリカ帰りの帰国子女と言っても、まだ12歳である。彼には刺激が強すぎたようだ。

 不二は自分達を傍観していた残りのメンバーに手招きした。
 それに首を傾げながらも、不二の周りに集まるレギュラー陣。

「何だ、不二」
「乾、 をよく見てごらん。いいデータがとれるかもよ」
コーチのデータか。…悪くないな」
「ねぇ、大石。いいこと教えてあげる」

「いいこと?」
「うん。実は って・・・・・・・なんだよ。クスッ」
「タカさん。 の弱点、知ってる?」
「コーチの弱点?いや知らないけど。それがどうかしたの?」
の弱点は・・・・と・・・・・・なんだよ。可愛いよね」 
「海堂」
「何スか。不二先輩」
「あのね、 って・・・・・・にホクロがあるんだよ。見られるのは僕だけだけどね」
 レギュラーたちに向けられた不二の声は には届いていないが、レギュラーの耳にはしっかり聞こえていた訳で。
 菊丸以外は硬直して動けなくなった。

「特に何ともないようだけど、痛む?」
「大丈夫。たいしたことにゃいから」
「そう?でも無理はダメよ?」
「にゃ〜。 ちゃん優しいにゃ〜〜」
 ここぞとばかりに菊丸は に抱きつこうとしたが、独占欲の強い恋人に邪魔された。
 菊丸が に抱きつくより早く、不二が彼女の後ろからしっかり抱きしめたのだ。

「英二。 は僕のだよ」
「ちょっと周助。離してよ」
「ダメ。もう少しこうしていたい」
「ヤダってば。この姿勢、腰が痛いんだから」
  の口から溢れた言葉に、菊丸は瞳を見開いたまま硬直した。
 そして、 レギュラー陣の硬直時間が長くなったのは言うまでもない。





END

【Love*Junction】椎名あやちゃんに捧げたドリーム「Darling Darling」の続編。
黒不二VSレギュラー陣と言い切っていいのか微妙だけど、あやちゃん貰ってくれてありがとう。
表なのにウラっぽくなってごめんね。


BACK