一年前に見つけた私のお気に入りの場所。
 二年生に進級してからはクラス委員に指名されてしまったから、そこへ行く機会も減ってしまっていた。
 昼休みは委員の打ち合わせやテニス部の手塚部長と竜崎先生と部活の練習の打ち合わせ。
 そして放課後はとうぜん部活。
 委員の仕事もそれなりに楽しいし、男子テニス部のマネージャーの仕事はとても好きだから、不満なんてない。
 だけど、ちょっとしたことで落ち込んだり、気分転換をしたい時にそこへ行くのは学校生活の一部になっていた。

 4月下旬になって、ようやく委員の仕事が落ち着いてきて、昼休みを有効に使えるようになった。
 今日はとても天気がいい。
 それならば、と私は教室をあとにした。

 鈍い音をさせて屋上へでる扉を開けた。
 そよ風が頬を撫でる。
 うん、やっぱりここは心地がいい。
 ゆっくりしようと屋上へ一歩踏み出した。

 あれ、誰かいる…というか寝てる?

 寝るのは別にいいんだけど、そこは私の特等席なんだけどな。
 あそこに座って空を眺めるのが好きなのに。
 せっかく久しぶりに屋上に来ることができたのだから、教室に戻る気は更々なかった。
 あの人には悪いけど、別の所に移動してもらおう。
 そう考えて、その人に声を掛けようと近付いた。
 すると突然その人はムクリと起き上がった。
 丁度いいから声を掛けようと思った時、その人影がこっちを見た。
「あれ?越前君?」
「ん?…あ、先輩じゃないっスか」
「えっ?いつも私のこと苗字で呼ぶのに、珍しいね」
「桃先輩や英二先輩たちが先輩のことちゃんって呼んでるから、うつったんスよ」
 あの二人は人懐っこいからなあ。
 気がついたらいつのまにか名前で呼ばれていたし、別にいやじゃないからそのままにしている。
 越前君は桃城君や菊丸先輩と仲がいいから、理由がわかる気がする。
「そうなんだ」
「気ィ悪くしたっスか?」
「そんなことないよ」
「なら、オレも先輩のこと名前で呼んでもいいっスよね?」
「いいよ。…ところで越前君。よくここに来るの?」
「まあまあかな。先輩は?」
「私も最近はまあまあ、かな。そこから見る空が最高に好きなの」
 私は『そこ』と言いながら、越前君がいる場所を指差した。
 すると越前くんはちょっと不敵に笑った。
「それなら一緒に見ましょうよ、先輩」
 越前君の不敵な笑みが気になったけど、別に断る理由なんてないし、話し相手はいないよりいる方がいい。
 だから私は頷いた。
「うん、いいよ」
 そう答えて、私は越前君の隣に足を崩して座った。
 すると私が座った瞬間、私の膝の上に越前君がポスンと頭を乗せてきた。
 そうするのが普通みたいな行動を取られて、さすがに私も驚く。
「ちょっと、越前君!?」
「少しの間でいいから膝枕してよ、先輩。この方が空がよく見えるんだよね」
「もう、仕方がないわね。5分だけよ?」
「うぃース」

 私は午後の授業の予鈴が鳴るまで空を眺めていた。
 越前君と一緒に・・・とは言えないけど。
 私の膝枕で彼は寝てしまったから。
 余りにも気持ちよさそうに寝ているから、起こすのは忍びなくて。
 真っ青な空と越前君の寝顔を交互に見ていた。




END



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