カーテンの隙間から月の光が細く差し込んでいる。
 音は何も聞こえない。
 静かすぎて、早鐘を打つ心臓の音が相手に聞こえてしまいそうだ。
「緊張してる?」
 リョーマはの頬に触れながら訊く。
 彼の声はいつもと変わらないように思えて、けれど黒い瞳の中には優しさが見える気がした。
 絡めあった手をそっと握り返して、は小さく頷く。
「少しだけ。…リョーマくんは?」
 気になって訊くと、彼は一度だけ瞬きした。
 答えてくれないだろうかと思ったとき、小さな声が届く。
「…どういうふうに見える?」
「え…」
 わからないから訊いたのにと困惑するに、リョーマはわずかに瞳を細めて笑った。
 を初めて抱くのに緊張しないわけないじゃん、とキスの直前に囁くように告げ、彼女が何か言うより先に柔らかな唇にキスを落とす。
 甘くて、熱くて、頭の芯が蕩けそうなキスに、瞳を閉じているのに眩暈がする。
 唇が離れていく感触に瞼を開けると間近にリョーマの顔があって、鼓動が更に速さを増す。
 が冷静であれば、リョーマの鼓動も同じくらいなことに気がついただろう。けれど、彼女は口では少しだけと言ったが、実際かなり緊張しているから気がつかなかった。
、顔赤い」
 顔をそらそうとすると、大きな手のひらに両頬を包まれて阻まれてしまった。
「どんなも知りたい」
 掠れた熱い囁きには気絶しそうに恥ずかしくなった。
「い、いじわるだわ」
にだけだからいいじゃん」
 そういう問題ではないのだが、抗議する間もなく再びキスが落とされた。




 重なる鼓動



「……ぅん…」
 瞳を開けたはびっくりして、布団の中で後ずさった。けれど思うように距離をとることができず、そのときになってリョーマに抱きしめられていることに気がついた。
 リョーマの顔が目の前にあったのは、夜を一緒に過ごしたからだと思い出すと、顔が熱くて火が出そうになった。
 結婚式を挙げたからには自分たちは夫婦だし、いけないことではないのだと自分に必死に言い聞かせるが、熱さは収まりそうにない。
 もう、どうして先に目を覚ましてしまったのよ。
 などと考えていると、不意に抱き寄せられた。
「リョーマくん?起きてるの?」
 驚いて彼の顔を見たけれど瞳は閉じていたから、そっと呼びかけてみた。
 けれど、リョーマの反応はない。
 がリョーマの頬に指をそっと伸ばして触れると、彼の瞼が僅かに震えてゆっくりと瞳が開いた。
 リョーマは小さなあくびを噛み殺して口を開く。
「おはよ」
 の華奢な肢体を更に抱き寄せて、赤く色づく唇にキスをする。
 二人の距離がなくなって、鼓動が重なる。と同時に、は動揺した。
「リョ、リョーマくん、あの、ちょっと離して…」
 は顔を真っ赤にして、リョーマの胸を手で押すが隙間は少しもできない。
「やだ」
 答えるリョーマは少しだけ楽しそうに見えた。
「お願い、は、恥ずかしいから…」
「恥ずかしくなければいいの?」
「え?」
 どういう意味か理解するより早く、気がつくとリョーマを見上げていた。
が朝から可愛いことを言うからだよ」
 もう一度オレと重ねてよ、鼓動。
 耳朶を甘噛みしながら囁かれて、ぞくりと体が震える。
 首にキスが落ち、の唇から吐息が零れた。
「っ、…リョー…マ…く」
「嫌?」
 リョーマは優しい手つきでの前髪を梳きながら訊ねる。
 は白い腕をリョーマの首に回して抱きついた。心臓がドキドキしていて口から飛び出そうだ。
 けれど、恥ずかしいけれど嫌ではないから。
 好き、とリョーマの耳元で囁く。
「オレは愛してるだけどね」
 ぎゅっと抱きしめられて、鼓動が重なった。




END

【君と二人で】5のお題[2.重なる鼓動]starry tales様( http://starrytales.web.fc2.com/ )

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