何をしてるの?




「何をしてるの?」
「うわっ!?」
 背後から肩を叩かれて飛び上がるほど驚いた神尾の目に映ったのは、活発な印象を受けるショートカットの少女。
 きょとん、と不思議そうに首を傾ける少女に、神尾の頭の中は瞬時に真っ白になっていた。
 酸素の足りない魚のようにパクパク口を開くが、声が音になっていない。
「……新しい遊び?」
「…なわけねー!」
 訝しげに眉を寄せるに神尾はようやく我に返った。
「あ、元に戻った。で、何をしてるの?」
 再び訊かれて、神尾は力なく笑うしかなかった。
 ここでお前が来るのを待ち伏せていた、とは口が裂けても言えない。
 更に、驚かすつもりが自分が驚かされてしまったとは、もっと言えない。
 自分でも柄ではないと思うが、が相手だとどうも調子が狂う。
 神尾はチッと舌打ちして左手で長い前髪をかきあげた。
 今更取り繕ってもカッコ悪さが増すだけだ、と真正面からの黒い瞳を捕らえる。
「ほら、これ」
「…私に?」
 目の前に突き出された小さなオレンジ色の袋と神尾を交互に見て、は瞳を瞬いた。
「俺の前にはお前しかいないだろ」
「そうだね。ありがとう」
 ぶっきらぼうに言い放つ神尾からがオレンジ色の袋を受け取ると、神尾の瞳に安堵の色が広がった。
「でもどうして?」
 至極もっともな問いかけに、神尾はから少し視線を外す。
 気恥ずかしくて、とてもじゃないが目を見て言えそうにない。
「今日は……だろ」
「え?」
 耳に届いた声は小さ過ぎて聞き取れない。
「誕生日おめでとうって言ったんだよ」
 そっぽを向いたまま言って、その言葉が終わると同時に神尾が走り出す。
 スピードのエースと呼ばれる彼の姿が、夕闇の中へ吸い込まれるように消えた。
「…ありがとうくらい言わせなさいよ」
 ふてくされたような言葉と裏腹に、は嬉しそうに笑っていた。
 神尾がくれたバースデイプレゼントを胸の前で大切に包み込んで。




END



BACK