First Date




 選抜合宿が終わって、数日が過ぎたある日。
 いつも寝る時間より一時間程早かったが、練習がハードで疲れていたは、そろそろ寝ようと部屋の電気を消そうとした時だった。
 枕元に置いてある携帯が鳴った。その着信音に嬉しそうに笑う。
 逸る心のままに届いたメールを開く。
『こんな時間にゴメン。
 突然で悪いけど、明日空いてるかな?
 さっき不二から電話があってね、明日は青学の練習が休みだって聞いたんだ。
 だから予定がなければ、と逢いたいと思ってね。 どうかな?』
 それを見るなり、は急いで返信をした。
『私も虎次郎さんと逢いたいって思ってました。
 心が通じたのかな…なんて。
 桜がキレイに咲いてますし、虎次郎さんとお花見したいなって思うんですけど、ダメですか?』
「送信…っと」
 ドキドキしながら彼からの返信を待っていると、すぐに返事が返ってきた。
『本当かい?嬉しいよ。
 こっちに桜の名所があるから、そこでいいかい?
 東京からだと遠いとは思うけど、に見せたいんだ。
 そっちまで迎えにいくから、どうかな?』
「え?迎えに来てくれるの?嬉しいけど、でも、悪い気がするなぁ…」
 佐伯が迎えに来てくれるのはすごく嬉しいけれど、東京に来て再び千葉へ戻るとなると、かなり時間もかかるだろう。
 彼の気遣いを無下にしたくはないけれど、簡単に返事はできない。
 そう考えると、躊躇してしまう。けれど、は千葉をよく知っているわけではない。
 それに東京に住んでまだ一年と少し。電車の乗り換えにもあまり詳しくない。
 だから、あちらの駅で待ち合わせというのも無理があった。
 どうしたらいいだろうと考えて、一人の顔が浮かんだ。
「…あっ!お姉さんにあっちの駅まで連れていってもらえないかな?」
 お姉さんと言っても、の本当の姉ではなく彼女の従姉だ。
 姉はより二つ年上で、同じ青学に通っている。の父の妹が姉の母で、小さな頃はよく一緒に遊んでいた。が引っ越してからはたまに手紙で連絡を取り合っていたのだが、とある事情でが東京に上京し、青学に通うようになって、そこで数年振りに姉と再会をした。
 とても優しい姉がは大好きで、青学に通うようになってからは、昔のようによく彼女と話すようになっていたのだ。
 彼女なら、きっと快く承諾してくれるに違いない。
 そう考えて、は番号を教えてもらっていた姉の携帯に電話をかけた。
『はい、もしもし?』
「こんばんは。姉さん。です」
『電話してくるなんて珍しいわね。何かあった?』
(お姉さん、鋭い。さすがは不二先輩の彼女だわ)
 実際の所、はさして鋭い訳ではない。
 彼女は滅多に電話をしてこないを不思議に思い、そう訊いただけなのだ。
 だがにそれがわかるはずもない。彼女もに負けず劣らず鈍い。
 もっとも大胆さで言えば、は何十倍もに勝っているが。
「実はお姉さんにお願いがあって」
『私にお願い?』
「明日、千葉へ行きたいの。でも、私あまり詳しくないから…その…無茶なお願いないのは分かってるんだけど、連れて行ってもらえないかな…って」
 段々と声が小さくなっているのが自分でもわかった。
 電話をかけるまではよかったが、実際に言葉にするとそれは重く思えて。
 返事には一瞬の間があった。けれど――。
『あ、もしかしてデートなの? 六角の…佐伯君って人と』
「えええ〜〜〜っっ!?ど、どうして知ってるのぉ?」
 驚きを隠せないで叫ぶの耳に、くすっと笑い声が聞こえた。
『ごめんね。さっきまで周助くんと電話してて、ちゃんの話がでたの。
周助くんがちゃんと佐伯君が付き合ってる、って言ってたから、そうかなって』
「そうだったんだ…」
『ええ。で、明日のことだけど、周助くんと先約があるの。
だから周助くんと一緒でよければ、ちゃんを千葉に連れていってあげられるんだけど。
それでもいい?』
「うん、大丈夫。ありがとう、姉さん。時間はまたあとで連絡するから」
『わかったわ。じゃあね、ちゃん』
 は電話を切ると、嬉々としてメールを打ち込んだ。
『虎次郎さんが迎えに来てくれるのは嬉しいですけど、でも、私がそっちへ行きます。
 だから、駅で待ち合わせしましょう?』
 少しして、佐伯から再びメールが届いた。
『そうかい?わかった。じゃあ、11時に待ってるよ。
 場所が分からなかったら、すぐに電話するんだよ、いいね?
 それじゃあ、おやすみ』




to be continue...R&D END



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