内緒の空時間




 心地よい風が吹いている屋上で、頭上に広がる真っ青な空に手を伸ばす。
 当たり前だけれど、捕まえられない。
 綺麗なスカイブルーだから手に入ったら素敵なのに。残念だ。
「…何をしてるんだ?」
 訝しげな声が背後からかかり、は驚いて振り返った。
 彼女の黒い瞳に不思議そうな顔で緩く首を傾げる手塚が映る。
「…空の欠片が手に入らないかなって思って」
 答えを迷ったのは一瞬。空に手を伸ばし握ったり開いたりしていたのを見られていたのなら、隠していても仕方がない。
 の答えを聞いた手塚は一瞬だけ瞳を細めて微かに笑った。
 呆れた笑みではなく納得したような笑みで、の心が温かくなる。
 どうしよう、嬉しい。
 頬が緩む。

 名を呼ばれ、手塚を見上げて首を傾げた。
「誕生日おめでとう」
「え…!」
 は不意打ちの言葉に驚いて、黒い瞳を瞠った。
「お前が気に入ってくれるといいんだが」
 そう言って、手塚は学ランのポケットから小さな包みを取り出した。
 手塚は更なる驚きに声が出ないの華奢な右手を取り、その掌に小さな包みを乗せた。
 は手の中に視線を落とし、恋人を見上げる。
「……ありがとう。 開けてもいい?」
「ああ」
 はドキドキしながら、プレゼントを開けた。
 包みの中には、細いシルバーチェーンのネックレスが入っていた。トップは中央のないハート型で、小さな石がついている。その石の色に彼女は目を奪われた。
「空色…」
 欲しいなと思っていたスカイブルーが姿を現し、の顔に笑みが広がる。
「ありがとう、国光くん。大切にする」
 手塚は返事の代わりに切れ長の瞳を僅かに細めて柔らかな笑みを浮かべた。
 はもらったプレゼントを大切に仕舞いなおし、制服のポケットに入れた。
 学校でなければ今すぐつけられたのに残念だ。けれど、手塚とデートする日に初めてつけるのも幸せでいいかもしれない。
「今日はよく晴れているな」
 手塚は空を見上げていた。その端正な顔に見惚れていると、気がついた手塚が視線を寄越した。
「国光くん?」
 じっとこちらを見たまま微動だにしない恋人の名を呼んだ。
 不意に彼の顔が近づく。
 ほんの一瞬、唇に触れたのが手塚の唇だとわかると、は瞬く間に頬も耳も首筋も赤く染めた。
「そろそろ帰るか」
「う、うん」
 差し出された大きな手を、は恥ずかしさに顔を上げられず俯いたまま取った。




END

屋上で5題「4.内緒の空時間」 / Fortune Fate様

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