一緒にいる時間の割合




 薄闇が迫る刻限。
 空は濃いオレンジ色に染まっている。
 いつものように、練習に使ったテニスボールやネットを1、2年生の部員たちと手分けして片づけていたは、これで終わりと軽く手を叩いた時、声をかけられた。
 が向けた視線の先で、にこにこと菊丸が笑みを浮かべている。
 菊丸が「ちゃん」と呼んだあとに続いた言葉に、彼女は黒い瞳を何度か瞬いた。
 言われた言葉を頭の中で反芻し、マネージャーは顔に大きく聞き間違いよね、と書いて問い返す。
「ごめん、もう一回言って?」
「ゲームでさ、俺と不二とどっちと恋愛する?」
 聞き間違いではなかったらしい。
 がしかし、突然すぎてどう答えたらいいものか。
「そんなこと突然言われても…」
 が困惑しながら答えた時、不意に割って入る声があった。
「何を話してるの?」
 と菊丸の二人は声がした方へ視線を向けた。
 そこにいたのは優雅に立つ不二だった。
 菊丸は不二に笑顔で答える。
「俺と不二と付き合うならどっちがいいかっていう話」
 それに驚いたのはだった。
 そんなことを聞かれてはいない。
「恋愛ゲームがどうのって話じゃなかったの?」
 ゲームで、菊丸と不二と恋愛するのがどちらがいいかと解釈したのだが。
 頭が混乱する。
「へえ。それは僕も聞いてみたいね」
 不二は楽しそうに笑いながら言った。
「や、だから、」
「クスッ。この際だから君の好みを知りたいな」
「ねねっ、俺だよね」
 は菊丸と不二に詰め寄られて、困り果ててしまう。
「も、もうっ!こういう時ばっかり協力するんだから!」
 困った顔で怒鳴っても、二人はにこにこ笑っている。
 菊丸と不二と一緒にいる時間の割合は、ほかの部員に比べると多いような気がするけれど、いまだにわからないことばかりだ。
 彼らが一人の時はからかわれることなんて少ないけれど、二人がそろうと決まってからかわれる。
「ねえ、どっち?」
 楽しそうに言われても、選べるわけがない。
「もうっ!明日の朝練のドリンクは二人のだけ新作乾汁にしちゃうわよ!」
 テニス部員がちらほらいる部室近くで、の声が夕闇に響き渡った。




END


スクールライフ7題[7.一緒にいる時間の割合]Fortune Fate様(http://fofa.topaz.ne.jp/)

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