「巨大迷路に挑戦したいわ」 白い指でマップを差しながらが言った。 ジェットコースターやスライダーなども楽しそうではあるが、今日はワンピースを着ているので躊躇がある。 けれど、そこに行くまでにある『巨大迷路』なら問題なさそうだし、面白そうだ。 「ここからだと…あっちの方だね」 マップで位置を確認して、二人は『巨大迷路』に向かった。 しばらく歩くと、赤い壁のようなものが見え始めた。 入口から列が出来ていたので、その最後尾に二人は並んだ。 列に並び話しながら待っていると、ほどなくして順番になった。 「お待たせしました。どうぞお入りください。頑張ってくださいね」 笑顔で対応するスタッフにちょっと頭を下げて、二人は迷路の中へ進んだ。 「始めから分かれてるね。、どっちに進む?」 「んー…右、かしら」 右に曲がりしばらく歩いていくと、また道が分かれていた。 今度は左に曲がり歩いていく。途中で分かれる道がなく、右に曲がったり左に曲がったりとした道で、ようやく分かれ道についた頃には、どう進んできたのかほとんどわからなくなっていた。 一本道はどこまで続くのかと思った時、今度は左右と真っ直ぐと三方向へ道がわかれていた。 「…出られるのかしら…」 勘で右の道を選んで曲がり、途中で立ち止まったが心配そうに呟く。 彼女が不安に思うのも仕方がない。 自分たちの前にいた人達が迷路に入っている筈なのに、誰にも出会わないのだ。 いくら間隔を空けて案内していると言っても、入ってから15分以上経っている。誰かとすれ違ったり、姿が見えたりしてもおかしくない。 「そう簡単には出れないだろうけど、無理だったらエスケープドアから出ればいいよ」 まあ君のコトだから、出れるまで頑張ってみるって言うだろうけど。 不二は心の内で呟いて、を安心させるように微笑んだ。 「どうしても無理そうだったらそうする。いい?」 「もちろん。じゃ頑張ろう」 「ええ」 そして再びゴールに向かって歩き始めた。 突き当たりを左に進み、その先の分かれ道を左、進んだ先の分かれ道を右、次は真ん中、次を左、次は右、その次を左に曲がると、右手側に壁がない場所が見え始めた。 「ね、周助。あれってゴールじゃないかしら」 「ああ、どうやらそうみたいだね」 やっと見つけたゴールに自然と早足になる。 かなりの距離を歩いて、二人はようやくゴールにたどり着いた。 「おめでとうございます!記念にどうぞ」 「あ、ありがとうございます」 は礼を言って、迷路の出口にいたスタッフがゴールの記念にと差し出した品を受け取った。 「記念品なんてもらえるのね」 記念の品は厚紙で出来たコースターで、高価な物ではないが、ご褒美を貰ったみたいで嬉しくなる。 「迷路を抜けられた人だけもらえるみたいだね。よかったね、」 「ええ。はい、周助にも」 貰ったコースターが二枚だったので、一枚を不二に差し出した。 不二はそれを「ありがとう」と受け取って、ジャケットのポケットにしまった。 「遅くなったけど、お昼にしようか。足も疲れてるだろうし」 迷路の中を歩いている時は夢中で意識していなかったけれど、言われてみると確かに歩き疲れた。 歩けないほどではないけれど、無理をして歩いても楽しめないだろう。 「ええ」 頷いたを連れて、不二は食事券が使える園内のレストランへ向かった。 由美子がくれた食事券はランチコース招待券だったので、スープ、前菜、メイン、パン、ドリンクの豪華なコース料理を堪能することができた。 美味しい食事を楽しんだあと、行き先は決めずに歩いて見ることにした。 「わ、すごい水飛沫…」 ジェットコースターの横を歩いていると、水面に近づいたコースターを囲むように水飛沫が跳ねた。 しかしこのアトラクションは水面すれすれをレールが走っているのではなく、水中に向かってレールが走っている。 穴に吸い込まれるように入っていくコースターには唖然とした。 「へえ、面白いね。まるで消えたように見える」 「変わったものがあるのね」 「他にもありそうだね。変わったアトラクション」 入園の際に貰った園内マップには詳しいことは書かれていないのでわからない。 けれど、『アイスハウス』という変わったものがあったのだから、他にあっても不思議ではない。 ミラーハウス、大観覧車、丸太のコースター、園内を一周する汽車、コーヒーカップ、3Dシアターなどを遊びつくした頃には、陽が落ち始めていた。 暗くなり始めた園内が、少しづつライトアップされていく。 「もう一回、観覧車に乗ろうか」 「私もそう思ってた」 不二の提案にがふふっと微笑む。考えていたコトが同じで少し嬉しい。 昼間の観覧車は遠くまで風景が見渡せてキレイだ。 そして夜は昼間と同じ風景でも違って見える。なにより、ライトアップされた周囲は幻想的だろう。 大観覧車は昼よりも夜の方が人気があるのか、昼よりも列が長い。 順番を待っている間にも夜が更けていき、ライトアップが一層美しく見える。 「どうぞ」 スタッフに案内され、不二が先にキャビンに乗り、に手を差し出す。 が不二の手を借りてキャビンに乗ると、スタッフが扉を閉めた。 席に座るとすぐに、はキャビンの外へ視線を向けた。 「クスッ、まだ早いんじゃない?」 「だって15分なんてあっというまじゃない」 「まあね」 そうこうしている内に、地上から遠ざかっていく。 ビルの屋上から見るのとまた違った夜景が眼下に広がっている。 「…キレイ」 「どのあたり?」 近くで聴こえた声に驚いて視線を向けると、向かいに座っていたはずの不二がいた。 「どうしてこっちに?」 「が夜景ばかり見て僕に構ってくれないから」 にっこり微笑む不二の言葉はどこまで本心なのだろう。 困惑するに気づいた不二は色素の薄い瞳を細めた。 「僕はいつでも本気だよ」 不二はの細い身体を包み込むように抱きしめて、柔らかな唇へ甘いキスを落とした。 それから空中散歩が終わりに近づくまで、夜景を見ながらの甘い時間が続いた。 END 「AN」 BACK |