「・・・とうとう車買ったんだ。」

私の目の前で紅茶を飲んでいる周ちゃんが嬉しそうにニコニコしながら言った。

「え〜っ!本当?周ちゃんだけの車なの?」

「うん、そうだよ。」

 

 

a private talk

 

 

周ちゃんと私、 は同い年の恋人同士。付き合ってもう3年になる。
周ちゃんは大学へ入ったと同時に教習所へ通い始めて、すでに免許を持っていた。
これまでにも何度か周ちゃんの運転する車に乗せてもらったことがあったけど、
いつもお姉さんの車を借りていることもあって、一度も遠出をしたことはなかった。

「・・・だから今度の日曜日、ドライブに行かない?」

「うんっ!行きたい!」

そして、日曜日
私と周ちゃんは二人でドライブに出かけた。
ウキウキ気分で出かけた、楽しいはずのドライブ・・・

でも、私は周ちゃんとドライブに来たことをちょっぴり後悔しかけていた。

と、いうのも・・・

「あ、可愛い!あのお店。」

素敵なお店を見つけても・・・

「そうだね。」

チラッと見ただけですぐに前に視線を戻す周ちゃん。

「あ、あんなところにあんなものが!」

面白いものを見つけても・・・

「ホント?僕も見たかったな・・・。」

やっぱり前を見て運転し続けてる、周ちゃん。
きりっとした顔をして運転する周ちゃんのキレイな横顔をじっと見つめていても・・・
やっぱり周ちゃんは前だけ見てる。
こんな時に限って道路は空いていて・・・
信号はなかなか赤にならなくて。
仕方がないことなんだけど・・・ね。
気づかれないようにそっと小さくため息をついた私に、周ちゃんはクスッと笑った。

・・・どうしたの?」

「え?何にもないよ?」

「・・・つまらない?」

「ううん、そんなことないよ。楽しいよ?」

「僕はちょっとつまらないんだけどな・・・」

「え?」

の顔が見れなくて・・・ね?」

「・・・周ちゃん!」

いつもならこんな時、嬉しくて周ちゃんに飛びついちゃうんだけど、
今は運転中だから、がまんがまん・・・。



周ちゃんは右手でハンドルを操作しながら、あいている左手でわたしの手をそっと握った。
それだけでわたしの心はじわっと温かくなって、ドキドキする。
どうしてだろう。普段はこんなこと、日常茶飯事なのに。
運転席の周ちゃんと助手席の私。
見つめ合いたいけど、見つめ合えない。
触れたいけど、触れられない。
なのにここには私と周ちゃんの二人だけしかいなくて。
そんな空間だからなのかな・・・ドキドキしちゃうのは。
ドキドキして何も言えなくなっている私に周ちゃんはまたクスッと笑って、
そして私の右手を周ちゃんの脚の上に載せた。

「こうしていて?」

「・・・うん・・・」

周ちゃんの脚・・・とっても温かい。
触れるだけで、なんだかドキドキしてふわふわした気持ちになる。

(・・・ちょっとだけ、手を動かしてもいいかな?)

チラッと周ちゃんを見ると何事もなかったように前を見てる。
その時私の中の悪戯心がそっと目を覚ました。

(―くすぐってみちゃったりして?)

少しだけくすぐってみたけれど、まったく反応なし。

(―それならもう少し・・・これでどう?)

「あ・・っ?!」

いきなり周ちゃんの左手が私の右手を掴んだ。
・・・と思った次の瞬間、周ちゃんの顔が目の前に近づいてきた。
吐息が顔にかかるくらいの至近距離。

・・・そんなことしたらどうなるか・・・わかってるんだよね?」

「はっ・・・あ、あの・・・いえ、わかりません・・・」

「僕のお返しを期待してるって、思ってもいいよね?」

「そっ、それは〜・・・」

気がつくと、車は路肩に停められていた。
周ちゃんはシートベルトをはずしていて、私の座っている助手席のシートに身を乗り出し、
満面の笑みをたたえて私をじっと見てる。

「ご、ごめんなさい・・・」

「クスッ・・・こめんでは済ませられないよ?」

「だ、だって・・・。」

「僕をその気にさせて、逃げられるとは思ってないよね?」

周ちゃんはわたしの首の後ろに腕を回して・・・そして・・・

『・・・ぐう〜・・・』

・・・絶妙なタイミング・・・

私のおなかがなんとも情けない泣き声を上げた。
やだっ・・私ったら・・なんでこんな時に!

「フ・・っ・・・クスクス・・・ ・・・」

周ちゃんも真っ赤な顔して笑いをこらえてる。

「ご、ごめんなさ・・・」

もう、やだ・・・!
恥ずかしくて周ちゃんの顔が見られない。
もう、情けなくて泣いちゃいそうだよ・・・。
周ちゃんは俯いてしまった私の頭をそっと撫でてくれて、ふんわりと優しい笑顔をくれた。

「ごめんごめん、お腹空いたよね? ?」

「うぅ・・・周ちゃん・・・ごめんなさい。」

「フフっ・・気にしなくていいよ。それより、 は何が食べたい?」

「・・・スパゲティ。」

「クスクス・・了解。」

周ちゃんはまたシートベルトをかけ直し、ウィンカーを出して車を発進させた。
そして、しばらく走ると素敵なイタリアンレストランの駐車場へと入った。

「このお店、姉さんのお勧めなんだ。穴場で美味しいらしいよ?」

「ホント?わ〜い!」

、車停めるまで降りちゃダメだよ?」

「は〜い。」

周ちゃんは助手席の肩に左手をかけて、前と後ろを交互に見ながら上手に駐車スペースに車を入れていく。

(うわぁ・・・カッコいい・・・)

私は周ちゃんの真剣な瞳にすっかり見とれてしまっていた。
するとそんな私に気づいた周ちゃんが、私に視線を移してクスッと微笑んだ。

・・そんなに見つめられると集中できなくなっちゃうんだけどな。」

「え・・・あ!ごめんなさい。」

「フフっ・・・嬉しいけど。」

周ちゃんはそんなこと言いながらも一発で駐車スペースに車を停めた。
さすが、周ちゃん・・・と思っていると、唇に突然の甘いキスが落ちてきた。

「・・・・・・!」

「・・・さっきのお返し・・・の、一部ね?」

「も、もう・・・」

「これだけじゃ済まないから、覚悟してて?」

「しゅ、周ちゃん!」

「フフっ・・・さ、行くよ? ?」

周ちゃんは車を降りると助手席に回り込んできて、私を横抱きに抱き上げて車から降ろし、
そして、私を抱えたまま歩き出した。

「ちょ、ちょっと・・・周ちゃん!」

「ん?どうかした?」

「あの・・恥ずかしいから・・・降ろして?」

「どうして?」

「み、みんな見てるし!」

「関係ないよ、そんなの。」

私のお願いなんかすっかり無視してどんどん歩く周ちゃん。
結局周ちゃんはレストランの入り口に着くまで私を降ろしてはくれなかった。

「ねぇ・・・もしかして、これもお返しの一つ?」

「フフっ・・・どうかな?」

「・・・周ちゃんの意地悪。」

「僕のどこが意地悪なの? のせいでしょ?」

「・・・知らないもんっ・・・」

そんなことを言い合いながら、私と周ちゃんは
由美子お姉さんお勧めの美味しい美味しいイタリア料理を満喫した。

そして・・・
美味しいイタリア料理を食べ終わった二人がその後どこでどうしたのかは、
・・・二人だけの秘密・・・。

 

 

 

fin
nao matsuno
2003.9.7
to Mori Ayase sama

 

綾瀬さん、相互リンクありがとうございます。
『不二くんとドライブ』というリクエストをいただいて、
思いつくままに書いたお話ですが、どこかへドライブというよりも
車の中で二人きりという意味合いの強い話になってしまいました(汗)
こんなお話で申し訳ありませんが、もらってくださると嬉しいです。
それでは、これからもよろしくお願いいたします。

松野なお

 

 

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【Les heureux moments】松野なお様より相互記念ドリームを頂きました。
周助くんは蕩けるように甘くて、優しくて。
でも、ちょっと意地悪で・・・。
読みながらPC前で悶えてしまいました(笑)
しかも、ドライブした上に御飯まで食べに連れていってくれるんですよ!?
もう〜〜、嬉しくて嬉しくて(以下省略)
ホントに周助くんとドライブデートしているようです(うっとり)
十分すぎるくらいに素敵ですよ、なおさん!
甘くて蕩ける素敵なドリームを有難うございました。
こんな私ですが、こちらこそ宜しくお願い致します。
 


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