Sweet home

 

 

「あ・・・もうそろそろ起こさなきゃね。」



 私、『 』 が 『不二 』 になってから2週間が過ぎたある朝のこと。
 今日の私は珍しく周助よりもずっと早起きをしていた。
 それは愛しいだんな様のためにお弁当を作るため。
 結婚式以来、毎日ずっと一緒に過ごしていた周助と私も、今日からは別行動。
 式の数日前からもらっていた周助の会社の3週間の休暇が終わり、今日から仕事に復帰するためだ。




 寝室のドアをそっと開けると、周助はまだベッドの中にいる。
 窓際に沿って置かれているベッドにそっと近づいて顔を覗き込んでみると、周助はまだ眠っているみたいだった。


「・・・周助?」


 その瞳は閉じられていて、口元には微かに笑みが浮かべられている。
 カーテンの隙間から漏れてくる陽射しに薄茶色の髪が反射して綺麗だった。
 ・・・周助の寝顔をこんなにじっくり見るなんて、初めてかもしれない。


「・・・周助?ねえ、まだ寝てるの?」


 声をかけてもまだ起きる様子はない。
 いつもは起こされなくても起きるのに、今日はどうしたんだろう?


 それにしても。・・・なんて、綺麗・・・見ているだけで、思わずため息がこぼれてしまう。
 このままずっと、周助の寝顔を眺めていられたらいいのにな・・・


 閉じられた瞳にかかったさらさらの前髪に引き寄せられるようにそっと触れると、周助がクスリと笑ってゆっくりと瞳を開いた。


「・・・あっ・・・!」

「クスっ・・おはよう、 。」

「あ・・・お、おはよう。やだ・・・起きてたの?」

「フフっ・・どうやって起こしてくれるのかなって思って。もう少し待つつもりだったんだけど、我慢できなくてね。」

「もう、いっつもそうやってからかうんだから・・・!」

「ははは・・・ がそうやっていちいち素直に反応してくれるからだよ。」

「もう、知らないっ!・・・朝ごはん、できてるわよ?」

「はいはい。」




 一緒に朝食を済ませると周助はスーツを着てネクタイを締め、会社に出かける準備をする。
 今日から私は1人家にいて、周助が仕事を終えて帰ってくるのを待つことになる。
 昨日まではずっと一緒だったから、それが少し寂しい。




「・・・じゃあ、行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい・・・」

「クス・・なんて顔してるの? ?」

 寂しい気持ちを表に出さないよう精一杯気を使っていたつもりだったのに、周助が笑って顔を覗き込んできた。

「・・・え?顔・・・?」

「すごく深刻な顔してるよ?」

「う、うそっ!?」

「本当だよ、フフっ・・・まるでこの世の終わりみたいな顔だね。」

 周助が茶化すように言う。

「だ・・・だって・・・!(寂しいんだもん・・・)」

 聞こえないようにそっと呟いた言葉。
 けれどちゃんと周助には届いていたようで・・・次の瞬間私は周助の腕の中にいた。

「ボクだって寂しいよ。でも にそんな顔されちゃったら会社に行けなくなっちゃうよ。」

「そうよね、ごめんなさい・・・周助が仕事に行くのなんて、当たり前のことなのに。可笑しいよね、私」

「なるべく早く帰ってくるから、ね?」

「うんっ!あ・・・あ、そうだ、忘れ物ない?」

「大丈夫。 がちゃんと準備してくれたから。」

「お弁当持った?」

「持ったよ。」

「お財布は?」

「うん、大丈夫。」

「・・・ハンカチは?」

「クス・・子供じゃないんだから。」

「そ、そうよね。じゃあ、お仕事頑張ってね?」

「うん、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


 私が差し出したカバンを受け取ると、周助は手を振りながらドアのノブに手をかけた。
 そしてドアを開けて出て行こうとしたところで、思い直したように振り返った。

「あ・・・そうだ。」

「?」

「思い出したよ、『忘れ物』」

「え、なあに?」

「・・・何だと思う・・・?」

「何って・・・え!?」

 考える間もなく背中に腕が伸びてきたかと思うと、私はあっという間に周助に抱きすくめられてしまった。
 顔がどんどん近づいてきて、お互いの鼻が触れ合うかと思うくらいの至近距離で一旦止まる。

(うわ・・・キス、される・・・?)

 ・・・そう思って目を閉じた次の瞬間、周助はクスリと笑って少し顔を離した。
 まるで私の反応を楽しんでいるかのように笑いながらじっと見つめてる。
 至近距離でからかうように見つめられて、悔しいのにどうしても胸のドキドキが止まらない。

「な・・・なに?」

からの行ってらっしゃいのキス」

「・・・なっ・・・何言って・・・」

「フフっ・・・ねぇ、早くしてくれないと遅れちゃうんだけどな?」

「あ、朝からそんな・・・んんっ・・」

 言いかけた私の唇を周助の口が塞いだ。
 その唇はだんだんと熱を帯びてきて・・・脚に力が入らなくなる・・・

「ちょっ・・ちょっと!ダメっ・・・もう!」

「クスっ・・残念。そろそろタイムオーバーだね。でも明日からは からしてくれるよね?」

「そっ・・そんなこと!ね、ねぇ・・・それより早く行かないと遅刻・・・」

「ダメ。約束してくれるまで離さない。」

「も、もうっ・・冗談言ってないで、早く行かないと!」

「う〜ん、 に『うん』って言ってもらうには・・・そうだね。」

 周助のもう片方の手が私の胸元に伸びてきてブラウスのボタンを一つ外した。

「・・・ちょ・・っ・・・!?」

「今日は会社に行くの、やめちゃおうかな? のせいだからね?」

 そう言ってまたもう一つボタンを外す。

「や・・・もう!わかった!わかったからやめて!」

「・・・じゃあ約束だよ?」

 満面の笑みを浮かべ、楽しそうな周助。
 悔しいけど・・・負けた・・・。

「・・・約束・・・します・・・」

「フフ・・もう降参なんだ?ちょっと残念な気もするけど。ま、今回はこれで勘弁してあげようかな?」

 耳まで真っ赤になっているであろう私を見てクスクス笑うと、耳元に甘い囁きを残して、周助は満足気な顔をして出かけていった。

『続きはまたあとで・・・ね?』


「もう・・・周助ったら・・・」

 リビングに戻った私はソファに座ってクッションをぎゅっと抱きしめながら一人ごちた。
 全く・・・先が思いやられちゃう。




 でも・・・
 本当は幸せで胸が弾んでる。


 こうやっていつも幸せなドキドキをくれる周助のために、私も頑張らなくちゃ。




 周助がこの家に帰ってきて幸せだと思ってくれるように。周助が疲れたときに思い浮かべる場所が、いつもここであるように。





 Sweet Sweet home


 愛する周助のために

 

 

 

fin

 

 

 

Thank you for 10000hit !!
Les heureux moments
10000hit記念フリードリーム2003.11.17
nao matsuno

 

 

【Les heureux moments】松野なお様より頂きました。
なおさん、10000HITおめでとうございます。
毎朝こんなふうだと、心臓が持ちませんね(笑)
甘々の新婚ドリームをありがとうございました。

 

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