PROMISE

 

 

 

 仕事を終えて会社を出たら、午後6時半過ぎだった。
 うん、今日は早い方。上出来かな、なんて思っていたら グッドタイミングで鳴り始める耳慣れた着メロ。私は急いでバッグから携帯を取り出してそれに出た。

「もしもし」

?僕だけど。仕事、終 わった?」

 そう言うのは、私の目下の恋人・不二周助。まだ高校3年生だったりする。

「うん。今会社出たとこ」

「・・・そうみたいだね。今 日は珍しくタイトスカートのスーツなんだ」

「へっ!?」

 ちょっと待ってよ。どうして周助が私の服装まで知ってる訳?

「・・・どうして知 ってるの!?」

 私が慌てると、クスッという笑いが耳元で聞こえた。

「・・・そのまま視線前にして。十数メートル先に本屋があるでしょ」

 言 われるままに視線を移動させると、そこにいつもの笑顔の彼がいた。

 私は電話を切ると、彼に向かって走り出す。

「・・・どうしたの、周助。今日 って、約束はしてないよね?」

「うん、してないよ。僕が に会いたくなったから来たんだ。それに、報告したいこともあるし」

「報告したいこ と?」

「うん。とりあえず、夕飯まだでしょ。どこかで食べない?」

 周助の提案を聞いた途端、私のお腹がくぅ、と小さく鳴る。全く、正直なん だから・・・。でも、その音は周助には聞こえてなかったみたいでとりあえずホッとした。

 秋が深まってくるこの時期は、日が暮れるのが早い。
 日が落ちると気温も下がるから、ちょっと寒かった。そろそろ冬物のコートを出さないとまずいかなぁ。
 そんなことを考えていると、周助が一軒の 小さなレストランの前で立ち止まった。

「ここでいいかな?姉さんに勧められたんだけど」

「由美子先輩のお勧めならいいんじゃない?」

「じゃあ決まりだね」

 私と周助は店に入って向かい合って座り、店のおすすめディナーをオーダーした。

「・・・報告って、何?」

「・・・おおかた10日 ぶりに会えたのに、そんなに急がなくてもいいんじゃない?それとも、 は僕に会いたくなかったの?」

 はっきり言って、私は周助の笑顔に弱い。 特に、こんな風にやさしく微笑まれると、それだけで何でも言うことを聞いてあげたくなっちゃう程。でも、そんなこと、口が裂けても言わないけどね。


「ううん、そんなことないよ。会えて嬉しい。昨日まで、仕事で頭がヘンになりそうだったから」

 そう。実際ここ一週間ほどは忙しくて、周助に 会うどころか、メールを送る気力もなかった。だから、こうやって会えたことが嬉しくない筈がない。

「僕も会いたくてたまらなかったんだけど、 の 仕事の邪魔をする訳にはいかないから我慢してたんだ。だけど、何となく、今日は会えるかもしれないなって気がしてね」

 うーん、周助の勘って凄いかも。

「・・・いい勘してるね、周助は」

のことに関しては、ね。やっぱり好きだから、でしょ」

 ストレートに好きって言う周助に、私は内心で ドキッとしながら、悠然と微笑んだ。

「ふふふ。周助がそう言ってくれるのって、やっぱりいいわねー」

「それはどういう意味かな?」

「あら、 そのまんまの意味だけど?」

「・・・もっと好きだって言って欲しいの?何なら言い続けようか?」

「それは意味が違うでしょー。ただ無意味に好きっ て言われたって嬉しい訳ないじゃない」

「・・・クス。冗談なのに」

「・・・・・」

 もしかして、見抜かれてるのかなぁと思うことが時々ある。私が、 実はこの年下の恋人にかなり入れ込んでいること。ちょっとした言葉や仕草にドキドキさせられて、余裕なんてまるでないことも。
 片や周助の方はニッ コリとした笑顔で。高校3年生とは思えない程の落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「・・・周助って、私で遊んでない?もしかして」

 そう言うと、 彼はまたクスッと笑った。

「そんなつもりはないんだけどな」

 なんて話してたら料理が運ばれてきたのでとりあえず中断。
 まずはお互いのお 腹を満たすことに専念する。合間に話すのは料理の感想についてとか、今日一日のお互いの行動の報告とか。
 デザートとコーヒーが運ばれてきたところで、 私は最初の話に戻した。

「・・・それで、周助?報告したいことって何?」

「うん。・・・実は、進学する大学が決まったんだ。推薦で一発合格」

「えっ、もう 決まったの?凄いじゃない!!おめでとう、周助!!」

 まだ本格的な受験シーズンには早いのに、もう決まったなんて。周助が出来るらしいとは聞いてはいた けど、秋の間に決まるなんて、気分が違うよね、これからの残りの高校生活の。

「・・・まだ、これから四年間、勉強して、それから就職して・・・先は長いんだ けど、とりあえずね」

「あー、ねぇ、合格祝い、何か欲しいものってある?私に出来るものなら、何でもあげるよ?」

 そう言うと、周助は急に真顔になった。 綺麗ですい込まれそうな青い瞳が私を捉えている。
 ドキンと鼓動が跳ね上がった。

「・・・本当に、何でもくれるの?」

「う、うん・・・だけど、私には 到底無理な要求は却下するよ?」

「・・・僕が欲しいのは、 なんだけど」

「え!?」

 わ、私が欲しいって・・・それって、やっぱりああいう意味だよね?

 確かに、周助が高校生のうちはなるべくそういう状況にならないようにと思って気をつけてきてるけど。勿論、私も、周助となら、異存はないけど。それにしても、 そういう要求が来るとは思わなかった。

「周助・・・それって、つまり、私とオトナのつき合いに進みたいってこと?」

「それもあるけど。それだけじゃないよ」

「それだけじゃない?・・・それこそ、どういう意味?」

「僕はまだこれから大学へ行って、就職して・・・一人前になるには時間がかかるけど、それでも、 と ずっと一緒にいたいと思ってる。だから、 のこれからの人生を僕に下さい、っていう意味なんだけど」

「!!!・・・・・」

 私は驚きのあまり、声が出せなかった。 今のって、今のって、まるでプロポーズじゃない!!
 周助の瞳はどこまでも真摯で、それだけ、彼が本気なんだということが伝わってくる。

「・・・まだ、ちゃん とした言葉は言えないけど・・・予約してもいいかな。僕が申し込むまで、他の男性(ヒト)からの申し込みは受けないって約束して?それが何よりの、合格祝いなんだけど」

「・・・・・本気なの?周助。私・・・周助より5つも年上だよ?それでも?」

 やっとの思いで出た言葉に、周助はふわっと包み込むような笑顔で答えてくれる。

「年上なのは関係ないよ。僕は   っていう女性(ヒト)だからずっと一緒にいたいって思うんだ。・・・ずっと君の隣にいる予約、させてくれる?」

 こ、こんなこと言わ れたら・・・嬉しいじゃないのよ。周助ったら・・・!!

「・・・約束したら、守ってくれるんでしょうね?」

「僕は守れないような約束はしないから」

 さらっと笑顔で 言ってしまう周助は、自信があるらしい。気の長い話ではあるけれど、それでも。
 一緒にいたいのは私も同じだから。

「・・・うん。約束する。・・・周助、早く一人 前になってね。期待してるから」

「ああ。 のために頑張るよ」

 周助の笑みに、私も笑顔を返す。
 やがて未来に。私が   から不二  になる日が来ることを信じて。
 これからも、この年下なのに少し大人びた恋人と過ごしていけたらいい。
 店を出て、そんなことを思った私に、周助はそっ と優しいキスを落とした。


 

 

 

END

 

 

森 綾瀬さまへ
年上ヒロインと白不二くんの甘い話、ということでしたが、ご期待に副えているでしょうか・・・(ドキドキ)
年上ヒロインは初書きですが、書いて いてなかなか楽しかったですv
今後とも、どうぞよろしくお願い致しますね。
2003.11  森島 まりん拝

 

【森の遊歩道】森島まりん様より相互記念に頂きましたv
想像以上に甘いお話でとっても嬉しいです。
わがままなリクに応えてくださってありがとうございました。
こちらこそ宜しくお願い致します。

 

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