行く年も来る年も君と一緒に―――。 南天 「ね、周助?どうしよう?私、天才かも。 やっぱり、天才と一緒にいるとお嫁さんも自然と天才になっちゃうものなのかな?」 がご機嫌な声でそう言いながら、差し出す小皿に手を伸ばして。 そこから田作りを一本つまんで、口に運ぶ。 「うん、おいしい」 僕がそう一言感想を言うと、 は嬉しそうに表情を輝かせた。 「でしょ?市販品じゃ、こうはいかないの」 「お店のは甘いだけだからね」 「そうそう、あと無駄に苦いの。あれじゃ、子供が嫌って当然。 だから、子供はおせちが嫌いになっちゃうのよね。本当は美味しいものなのに」 今日は12月31日。あと数時間で今年も終わろうというそんな時間。 結婚してから気が付いたんだけど、僕のお嫁さんは随分とおせちにこだわる人らしい。 しかも、 は「周助の味覚は壊れているから、私が正しい味を覚えさせたい」なんて言って かなり躍起になっているようで。我ながら、迂闊だったなと思う。 僕が辛党なのは仕方ないけど、新婚家庭の旦那様としては 料理よりも奥さんにじっと傍にいて欲しいものだから。 新年のおせちに2日以上も を拘束されているのは、さすがに大きな痛手だった。 「何も、全てを1から作らなくても買えばいいのに」 「仕方ないでしょ。私の旦那様は市販品が口に合わないんだから」 「そんなこと―――」 「なくはないでしょ?前、食べなかったじゃない」 「・・・そうだった?」 「そうです。こういうのは縁起物だから、きちんと食べてもらわないと」 はそこまで言って一瞬言葉を止めると、次の瞬間悪戯っぽく笑う。 「それに、私たちの子供まで味覚オンチになったら嫌だもん」 そう言われてしまえば、返す言葉も見つからない。 もっとも、僕の味覚は壊れてないと思うんだけど。 「周助、市販品の甘いのは黒豆1つでギブアップしたでしょう?」 「・・・言われてみれば」 「本当、奥さんの心、旦那知らずなんだから」 そう言って笑う背中に、それは僕の言葉だよと話しかけて。 多分、 は僕の言葉なんて、ちっとも聞いてはいないんだけど。 僕の家はどちらかというと、いつも洋風の料理が主体だったから の作るおせち料理は新鮮で。 「あのね、田作りは昔の人が豊作を願って作ったものなんだよ」 そんなマメ知識を聞きながら、料理が出来上がる姿を見ているのも楽しいんだけど。 やっぱり、見ているだけなんてつまらない。 だから、 に教わった知識で対抗。 「僕は田作りより、数の子のいわれの方が好きなんだけど。試してみる?」 「・・・ば、バカじゃない!?」 「だって、人として子孫繁栄は―――」 「いいから!そんな真顔で語らなくていいから!!」 どうして、そんなに照れるのかな。 新婚である僕たちにぴったりだと思うんだけど。 でも、確かにまだ早いかな。 もっと、 と2人だけの時間を楽しみたいから。 子供に を取られたくない。 不意にそんな言葉が一瞬頭に思い浮かんで、僕は微かに自嘲する。 藁すら掴むことが出来ないくらい、見事に溺れきっている僕。 そんな僕たちの傍らで、時計の針は少しずつ過ぎ去っていく今年を伝える。 「ねえ、 ?そろそろ見てるのも飽きてきたんだけど」 わざと不機嫌そうな声でそう言うと、 は慌てて僕を振り返る。 これで僕を構ってくれるかと思ったのに 「あ!そこの花瓶から南天を取ってくれる?」 僕より南天? 僕以外何も見えないように。
+++---------------------------------------+++ 【cerise sucre】桜野雪花菜様に頂きました。 おせちにやきもちを妬く周助くんが可愛らしいですv |