貴女を知ったのは春の桜の下だった。

 白のシャツに紺色のタイトスカートという、一目で教職員とわかる服装をした貴女は、舞い踊る桜の淡い花びらを見上げて微笑んでいた。

 長い髪が風に煽られて乱れるのをそっと抑える指先が綺麗で、僕はすい寄せられるように貴女を見つめていた。

 そこだけ、時間(トキ)が止まってしまったかのように。







 僕は、貴女に恋をした。











眠る君の横顔に微笑みを













「・・・ 先生」

 昼休みの保健室。
 僕はこの部屋の主に声をかけた、んだけど。

  「・・・いない、のか・・・」

 先生が座っている筈の机は左端にきちんと書類が積み上げられている。
 出張とか、そういうのではない筈。職員室の札は校内にいる職員のところに掛かっていたから。
 と、なると。

「・・・あそこ、かな」

 僕は呟くと、保健室を出て階段に向かった。





 屋上への重い扉を押し開けた。
 梅雨の合間の貴重な晴れ間の今日は、少し蒸し暑いけど気持ちがいい。
 だから、先生はここでお弁当を食べていたんじゃないかと思ったんだ。
 そうしたら。
 やっぱり、いた。
 日陰に当たる場所に、ちゃんと1人用のピクニックシートをひいて先生は座っていた。

「先、生・・・?」

 声をかけようとして、僕はそれを引っ込め、ゆっくりと近づいてみた。
 顔を覗き込んで、苦笑する。
 だって、先生は微かな笑みを浮かべたような表情で眠っていたんだ。




「・・・全く・・・無防備なんだから・・・」

 こんなところを他の男に見つかったらどうするの。
 明るくていつも元気な先生は、僕らの憧れの的、なんだよ?
 きっと、自覚はないだろうけど、ね。
 先生が保健医としてこの学校に来てから2年、何かと口実を作って保健室を利用する男子生徒の多いこと。
 それに、生徒だけじゃなくて、独身男性の同僚からも熱い視線を送られてる。
 それも、判ってないみたいだけど。



 かく言う僕も、今はまだ片思い、なんだろうな・・・。

 先生は、当然と言えば当然だけど、どんな生徒にも優しいし、保健室を訪れさえすれば気軽に話を聞いてくれる。僕も、きっとその中の1人にしか過ぎないんだろう。

 だけど、あの春の日、桜の下で見かけた時から、僕にとっては大切な女性(ヒト)なんだ。

 



「・・・ 先生・・・」

 僕は先生の頬にそっとキスする。
 ・・・ふふ、なんだかいけないことをしてるみたいな気になるな。
 でも、こんな可愛い顔で眠っちゃってる先生も悪いんだよ?

先生・・・起きて」

 今度は唇にキス。
 さすがに、先生もその感触には気づいたみたい。

「う・・・んん・・・」

 ゆっくりと開かれた綺麗な瞳が僕を捉え、覚醒していくのが判る。

「・・・お目覚めかな? 先生」

「ふ、不二くん!?な、何してるのっ」

「何って、先生にキスしてたんだけど?」

 ニッコリと笑って言う僕の顔を、先生は耳まで真っ赤になりながらあんぐりと見つめている。

「なっ・・・キ、キスって・・・どうして!?」 

「勿論、僕が先生を好きだから、なんだけど」

 そう言うと、先生の顔は赤いながらも真面目なものへと変わった。

「不二くん、大人をからかうんじゃありません。君には君に相応しい相手がいるでしょう」

「何それ。僕が冗談で言ってると思ってる?」

「普通そう思うわよ?あなたは生徒で私は保健医なんだから」

 そう言いながら、僕から微妙に視線を外すのはどうしてかな? 先生。

「・・・僕は本気だよ? 先生を1人の女性として好きなんだ」

 それは僕の本心。
 だからそれだけは疑って欲しくないな。特に、最愛の貴女にだけは。
 僕はじっと先生の瞳を見据えた。
 先生も、じっと僕を見つめてる。まるで僕の言葉の真意を確かめるかのように。

「・・・不二くん・・・だけど、私は君よりもうんと年上なのよ?もっと身近に、いるんじゃないの?お似合いのコが」

先生は年齢で恋愛するの?・・・それとも、誰か決まった男性(ヒト)がいるとか?」

 これだけは皆無だとは言い切れないな・・・この青学の関係者ではない男性なら、僕が知らなくても仕方ないし。当然、あってほしくないけどね。

  先生はむすっとした表情で、僕から完全に視線を外した。

「・・・悪かったわね。いないわよ、そんな男性(ヒト)」

「それは良かった。なら、何の問題もないよね」

 再び僕がニッコリ笑うと、先生は僕に視線を戻して、まじまじと見・・・・・やがて大きな溜息をついた。

「不二くん・・・仮にも先生が生徒に手を出せる訳ないでしょ・・・もしも、君が卒業するまで気が変わらなかったら・・・その、考えなくも、ないわよ」

 先生が微妙に頬を染めてる。それは、つまり承諾だと思っていいってことだよね。

「・・・ふふ。僕が心変わりするなんてありえないから、今日のところはそれで我慢しようかな。だけど、卒業まで大人しく待つなんて出来ないと思うから、覚悟だけはしておいてね?

「ふ、不二くんっ!?」

 再び耳まで赤くなった先生の横顔に、僕はもう一度キスをした。









 それから。
 僕と 先生がどうなったかは・・・またいずれ。
 でも、僕は絶対に諦めたりしないよ?
 当然でしょ。
 先生が僕を好きなことくらい、お見通しなんだから。

 貴女に好きだって言わせてみせるよ。
 覚悟しといてよね? 








END







2004.6.4

森島 まりん

 

【森の遊歩道】森島まりん様よりサイト二周年記念のフリードリームを頂きました。

まりんちゃん、二周年おめでとう♪
先生×生徒ですよ。設定だけで萌えですよね。
ヒロインの寝込みを襲うトコが周助さんらしいと思った私は危ないな(苦笑)
少年らしさの残る周助さんが何とも言えず、愛しいですv
まりんちゃん、素敵ドリームをありがとうございました。

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