最愛の女性の誕生日。
僕が彼女にしてあげられることは、あまり多くはないと思う。
けれど・・・僕にしか出来ないこともある。
だから、綾瀬。
今日は、君に・・・・・
逢いにいくよ
今日、4月19日は僕の大切な年上の恋人・綾瀬の誕生日だ。
高校生の僕と、OLの彼女。
日常生活は随分環境もリズムも違うけど、僕は綾瀬といる時間が大好きだ。
年の差なんて感じないくらい、彼女の隣は居心地がいい。
それに、綾瀬は凄く可愛いんだ。
腰まで届く程の綺麗なストレートの黒髪に、少し潤んだような黒曜石の瞳。柔らかな唇に、滑らかな肌・・・抱きしめるととてもいい匂いがする。
声も可愛くて、僕は彼女の話す声が大好きだった。そう、心地よい音楽を聴いているようなものだから。
勿論、それだけじゃないけどね。
綾瀬の声は、時に僕を酔わせてしまう。
上気した頬で、少し甘えたように「周助ぇ・・・」って呼んでくれる時なんて、堪らないよ。
出来ることなら、毎日でも聴いていたい声。
ここで、障害になってしまうのが、僕がまだ高校生だってこと。
僕が1人暮らしでもしてるならまだしも、僕は自宅通学。
高校生の間は、家を出て1人暮らしなんて出来そうもない。
そして、夏までは部活中心になってしまって、綾瀬に会うことすらままならない。
綾瀬は綾瀬で、シフト制の仕事をしている関係上、平日が休みで、休日は出勤、なんてのもザラ。
結局、すれ違いが多いのが現実だ。
だけど、やっぱり、誕生日は『特別』な日だから。
今日だけは、手塚に睨まれたって、大石に恨まれたって綾瀬に逢いに行く。
明日「グランド20周」と言われようと構わない。
綾瀬が大切だから。
誰よりも。
部活は早退して家に帰った。
綾瀬は甘いものが苦手だから、いつもケーキの類はナシ。でも、それはそれで寂しいから、僕は昨夜姉さんに作り方を習って、甘くないワインゼリーを作っておいた。
砂糖は一切使わず、自然なワインの味だけのもの。これなら、綾瀬でも大丈夫な筈だ。
それと、綾瀬が大好きなブランドのダージリン。そして、清楚なイメージの綾瀬に合わせて、クリームホワイトのバラをメインにした、白の花束。
それだけを持って、僕は綾瀬の部屋に向かった。
定時に終われば、そう待たずに済む筈だけど、綾瀬は人がいいから、よく他の人の分を被って残業したりする。そうなると、かなりの時間待つことになるかもしれない。
それでもいい。
今日、綾瀬に逢えたら、それで。
こうして逢いにいくことは、綾瀬には話してない。
だから、残業は充分にある可能性で。
最近、特に忙しいって聞いてるから。
出来れば、今日くらい、早く帰って来てくれると嬉しいけど。
疲れてる綾瀬を出来るなら癒してあげたいからね。
綾瀬の部屋に着くと、やはり、まだ帰ってないらしい。
僕はそのまま、扉の前で待つことにした。
通常ならそろそろ帰ってくるはずの時間。
でも、しん、と静まり返った廊下は待ち人がまだこの空間には存在していないことを示している。
目を閉じて綾瀬を思い浮かべた。
可愛い声。やさしい笑顔。華奢な身体。
今すぐ抱きしめてその温もりを確かめたいよ。
そして、君の耳元で伝えたい。
今日だからこそ、価値のある言葉を。
そう思いながら、僕はそのまま綾瀬のことを考えていた。
多分、ここに立ち始めて1時間近く経っていたと思う。
軽い靴音が響いてきて、僕は視線を上げる。
「・・・周助?」
待ち望んだ、少し驚きを含んだ声が聞こえる。
僕はごく自然に笑顔になった。
「お帰り、綾瀬。お疲れ様」
「どうして・・・練習は?」
練習をしていたら、確かにこの私服姿はおかしいかもしれない。今の時期は地区予選に向けて、かなり遅くまで練習がある時期だということを、綾瀬はよく理解してくれている。
「今日はね、半分にした。残りは自主練ってことでね」
「どの位、待ってたの?」
「そんなに長い時間じゃないよ、綾瀬。それより、これ」
僕は花束を差し出す。
「綾瀬、誕生日、おめでとう」
「周助・・・」
綾瀬は僕の大好きなやさしい笑顔でそれを受け取ってくれた。
「ありがとう、周助・・・覚えててくれたんだ」
「当然でしょ。誰よりも大切な君の誕生日を僕が忘れる訳ないじゃない」
「だから・・・来てくれたのね」
「うん。どうしても今日、君に言いたかったし、暫く会えてなかったから、会いたかったんだ」
「周助・・・」
綾瀬ははにかんだ笑みに変わり、花束を抱きしめながら鍵を取り出した。
「寄っていってくれるんでしょ? 周助」
「うん。今日は英二のところに泊めてもらうって言ってきたから、帰る必要はないんだけど」
「えっ・・・」
綾瀬の色白の頬がさっと朱に染まる。
ふふ、こういうところがまた可愛いんだよね、綾瀬は。
部屋に招き入れられ、見慣れたテーブルの側に荷物を置いた。
「周助、夕食は?」
「綾瀬は? 食べてきたの?」
「ううん、まだ。残業だったから」
「・・・なら、何か作ろうか。僕もまだだし」
「やっぱりまだだったの? ごめんね、周助。うーん、簡単なパスタくらいなら作れるけど・・・それでいい?」
「充分だよ、綾瀬。デザートは僕が作ってきたから。それに、手伝うよ、支度」
「え・・・いいの?」
「勿論。綾瀬と一緒に料理するのも楽しいし」
「ありがとう、周助」
僕と綾瀬は協力してトマトソースのパスタと簡単なサラダを作って一緒に食べた。
綾瀬特製の、唐辛子の効いたトマトソースは美味しかった。
僕が作ったワインゼリーも、甘くなくて美味しいって言ってもらえた。
洗い物も2人で協力して片付け、僕はお茶を入れようとお湯を沸かし始めた綾瀬を呼んだ。
「綾瀬、これ、誕生日プレゼントだよ」
「え? 花以外にもあるの?」
「うん。開けてみて」
差し出した紙袋の中を覗いて、綾瀬は包みと小さめの紙袋を取り出した。
「2つ・・・?」
「袋の方から開けてみて」
僕が言う通りに紙袋を開けた綾瀬は、中身を見てびっくりしていた。
「え、あ、これ・・・! 私の好きなダージリン。しかも、これ、今年のファーストじゃない」
「忙しくて買いに行けないって電話で行ってたでしょ、綾瀬」
「うわー、ありがとう、周助。早速今、入れてみるね」
「うん。もう1つのも開けてみて?」
「今、開けるね」
綾瀬の細い指先が細めのリボンを解いていく。淡いピンクの包装紙も解かれ、中から出てきたケースの蓋も開けられた。
「周助・・・」
綾瀬の目が見開かれる。
中身は、指輪だ。僕の小遣いで買えるものだから、全然いいものじゃないけど。
「今はまだ、そんな安物しかあげられないけど。いつか、もっとずっといい本物をあげられるよう、頑張るよ、綾瀬。
だから、綾瀬の誕生日、これからも僕に祝わせて?」
「・・・ありがとう・・・周助・・・」
綾瀬の笑顔が、僕には何よりだよ。
僕は綾瀬の細い身体をそっと抱きしめ、やさしくキスをした。
香りのいい紅茶を飲んで、指輪を左手の薬指にはめてくれた綾瀬を、僕は抱きしめる。
こうして逢えた喜びと、生まれてきてくれたことへの感謝を込めて、熱いキスを贈るよ。
僕の腕の中にある、やさしい温もりを離しはしない。
来年も、その次も。ずっとずっと。
またこうして君の誕生日を祝いたい。
君を抱きしめながら過ごしていたい。
愛してるよ、僕の綾瀬。
誕生日、心からおめでとう。
END
大好きな綾瀬ちゃん、お誕生日おめでとうv
拙い、ささやかなものですが愛を込めて贈ります。
2006.4.19 森島 まりん
【森の遊歩道】森島まりんさんから誕生日祝いをいただきました。
まりんちゃん、とっても素敵な贈り物をありがとうございますv
私もまりんちゃんが大好きですv
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