想い出の場所で 〜その後〜




 そっと離れた唇に淋しさを感じて、黒曜石のような瞳が切な気に揺れた。
 こんなに近くにいるのに。
 手を伸ばせば届く距離に彼はいるのに。
 淋しく思うのは、今夜が七夕だからだろうか。

「僕はあなたを離したりしない。 言ったよね?ずっと離さないって」

 その言葉とともに、彼の胸元にあった細い指が、しなやかな指に絡め取られる。
 不二は恋人を安心させるように、柔らかく微笑んだ。
 その微笑みは幼い頃から変わらない、優しい微笑み。
 彼の微笑みの中に、彼の愛が見えるような気がした。

「周助…」

 愛しい人の名前を紡いで、甘えるように身体をあずけた。
 そんな彼女の仕種に不二はクスッと笑って、空いている手を細い腰に回して抱きしめる。
 耳に届く鼓動が心地いい。

「昔よりも一緒にいられる時間は少なくなったけど」

 耳元で囁きながら、不二は恋人を抱きしめる腕の力を僅かに強めた。
 顔は見えないが、きっと彼はとても真剣な表情をしているだろうと思う。
 だから口を開くことなく、彼の言葉を静かに待った。

「近い将来、ずっと一緒にいられるように頑張るから」

「うん」

 彼の言葉の意味がわかったから、しっかり頷いた。



 約束の成就する日は、そう遠くない未来―――。




END



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