眠れない夜を数えて 〜 Prologue 〜




「…あなたは今、どうしてる?」

 さわさわと風に踊る桜花を見上げて呟く。
 けれど、問いに答える声はない。
 何度同じ問いを繰り返してきただろう。


 いつも一緒にいるのが当たり前だった。
 それがずっと続くと信じていた。

 早く大きくなって、守れるようになりたいと願っていた。
 誰よりも大切で、誰よりも大好きなあの人を――。


 右手を開いてじっと見つめていると、掌にふわりと桜の花弁が舞い降りてきた。
 まるで不二の手に導かれたかのように。
 不二は掌に花弁をそっと閉じ込めて、色素の薄い瞳を閉じた。



 ―――逢いに行こう

 学校が終わったら、すぐに

 あなたに逢いに行く



「好きだよ」



 あなただけを見つめてきた

 あなただけを愛してきた



 決意をして視線を巡らせた不二は、驚きに切れ長の瞳を瞠った。
 ずっと逢いたいと思っていたから、幻を見ているのではないかと。
 けれど、驚く彼女が本物だとわかったと同時に、不二は走り出していた。

 早く幻じゃないことを確かめたくて

 早く彼女に触れたくて

『周助くん』

 彼女澄んだ声で、名前を呼んで欲しい



 逸る胸の想いをあなたに―――




to be continue...【眠れない夜を数えて】

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