理由 秋風が吹き、長い黒髪をさらう。 ふわりと香った香りに不二はクスッと笑った。 「周助?どうしたの?」 それに気がついたが黒い瞳に疑問を乗せ、見上げてくる。 少し無防備なそれに不二は緩く首を傾げて、穏やかな微笑みを秀麗な顔に浮かべた。 「愛用してくれてるんだと思って」 「あっ…」 彼の言葉が示す意味を読み取ったの白い頬がほんのりと赤く色づく。 「…いい香りだし…周助からのプレゼントだから」 「フフッ、嬉しいよ」 不二は繋いだ手をぎゅっと握って微笑んだ。 彼の微笑みに心臓がドキドキして止まらなくなる。 どうして? いつもと同じ笑顔なのに。 穏やかな声と優しい瞳もいつもと変わらないのに。 それなのに、すごくドキドキする。 「僕の顔、何かついてる?」 不二が顔を覗き込むように見つめてくる。 色素の薄い瞳に吸い込まれてしまいそう…。 そう思った瞬間。ほんの数秒だったが、唇に何か温かいものが触れた。 キスされたと認識し、頬がかっと熱くなる。 「…ッ」 「そんなに見つめられたらキスしたくなるよ?」 もうしたじゃないの!と突っ込む余裕などない。 「だっ、誰かに見られてたらどうするの?周助、制ふ――」 言いかけて、気がついた。 ドキドキしている理由に。 恋人が制服だから、だ。 それともうひとつ。 制服姿の不二と歩くのは初めてだった。 「僕はかまわないよ。は僕の恋人だから」 「周助…」 「は困る?僕といるのを見られると困る?」 訊かれて、は首を横に振った。 「…周助だから」 それだけ言うのが精一杯だった。 本当なら、周助が好きだからとか、一緒にいたいから、と言いたい。 けれど真剣な瞳で真っ直ぐに見つめられて、言いたいことが言えない。 「ねえ、。予定を変更してもいいかな?」 今日は久しぶりに映画を観に行こうと話していた。 チケットはこれから行く劇場で購入する予定なので。変更しても問題ない。 観たい映画だが、どうしても今日観たいと思うほどではないし、上映期間は来月中旬までだったはずだから、今夜じゃなくてもいい。 「いいわよ」 そう返事をすると不二はにっこり微笑んだ。 「サンキュ。じゃあ、お邪魔させてもらうよ」 「えっ?」 は驚きに黒い瞳を見開いた。 「何を驚くの?あなたがいいって言ったんだよ?」 「それはそうだけど…」 「が可愛いことを言うから――」 キスだけじゃ足りないよ。 耳元で囁かれて、は顔を真っ赤に染めた。 END BACK |