不意打ちなキス




「周ちゃん」
 名前を呼ばれると同時に、頬に柔らかな唇が降って来た。
 デートで訪れた公園で、珍しくがクレープを食べたいと言い出した。
 それなら、と行こうとしたら「周ちゃんは待ってて」と言われた。ゆえにベンチに座り、おとなしく彼女の帰りを待っていたところだった。
 クレープを買って戻ってきたは目の前で立ち止まり、不意打ちでキスをしてきた。
「わーい、成功ー」
 ふふっと楽しそうに笑って、は持っているクレープを不二に差し出した。
 不二はクレープに手を伸ばし――たように見えたが、の華奢な腕を掴んで引き寄せた。
 を自分の膝の上に乗せ、横抱きに腕の中に閉じ込めてしまう。
「しゅ、周ちゃんっ」
 頬を紅潮させて慌てるに不二は不敵な笑みを秀麗な顔に浮かべた。
「なに?」
「な、なにじゃなくてっ。そっ、そう、クレープ買ってきたよ」
「うん」
「周ちゃんのはこっちね」
「うん。じゃあ、食べさせて」
 にこにこと微笑みを浮かべたまま、とんでもないことを不二は言う。
 は恥ずかしくて黒い瞳を潤ませた。
「不意打ちなキスなんて可愛いことをするがいけないんだよ」
「だ、だって由美子お姉ちゃんが周ちゃんの意外な顔を見たいならって教えてくれたんだもん」
 確かに驚いたから、曰くの”意外な顔”をしただろう。現には成功したと喜んでいた。
 無邪気に笑うは可愛いけれど、それとこれとは別問題だ。
 …姉さん、無邪気なになんてことを提案してるのさ。
 不二は胸の内で呟いて、盛大な溜息をついた。
「周ちゃん?」
 首を傾げるに顔を近づけて、不二は彼女の頬に音を立ててキスをした。
 の顔が瞬く間に赤く染まる。
「不意打ちのお返し」
 不二は楽しそうに微笑んだ。
「でも、は不意打ちじゃなくても真っ赤になるから、いつもと変わらないね」
 そう言って、不二は何事もなかったかのように涼しい顔をして、の手から「いただきます」とクレープを取って、それに口をつけた。




END



無邪気な君へのお題 [08. 不意打ちなキス]
恋したくなるお題 http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/

初出:2012バースデイ企画【Very Special Birthday】Web拍手 書き下ろし

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