「どうしたの?」 周助が声をかけると恋人はハッとし、わずかに視線を外した。 彼女の頬がほんのり赤く染まっている。見惚れていたのかもしれないと思わせる表情だ。 か、かっこいいなって……、と消え入る寸前に等しい声が耳に届いた。 柔らかく微笑んだ周助の色素の薄い瞳には愛しさが溢れている。 「ってほんと可愛い。時々食べちゃいたくなるくらい」 「――っ?!」 甘い甘い声に顔が熱くなって、声が出ない。 「ねえ、キスしてもいいかな?」 恥ずかしくて周助の顔を見られない。 けれど、嫌なわけはないから小さく頷くと、周助にそっと抱き寄せられた。 ◇◇ 「今度の日曜日、部活が休みなんだ」 学校を出たところでそう言われ、もしかして…、との胸が期待に膨らむ。 そんな彼女に周助はクスッと笑った。 「植物園にバラを見に行かない?」 「行きたい」 即答したの手を捕まえてぎゅっと握ると、頬を赤く染めてはにかむように微笑んだ。 ◇◇ 「もうすぐだね」 「えっ?何が?」 首を傾げるに周助は色素の薄い瞳を細める。 「本気で言ってる?それとも…僕の愛を試しているのかな?」 は首を横に振った。 「周助がチョコレートを催促するとは思わなかったから」 だからわからなかったのだ、と言外に告げたの唇に周助は口づけた。 ◇◇ 青空が広がっている。 先程までざあざあ降りだったとは思えないほどだ。 その空の下、アジサイとその葉に残っている雨の滴が陽光に輝いている。 「わー、きれい」 足を止めたにならい、周助も足を止めた。 「周助くん、ちょっと待ってね」 言って、はバッグから携帯を出してアジサイをカメラ撮影した。 「うーん…」 小さく唸って、は写真を保存せず、もう一度撮影した。が、それも小さく唸った末に保存しない。 三回目のシャッターを切って、取れた写真を見、しばらく悩んだ末にしぶしぶといったていで保存した。 「ごめんね、周助くん。お待たせ」 「僕も撮ろうかな。 君とお揃い」 周助はスマートフォンでアジサイを撮って保存し、それを添付したメールを送信した。 メールの着信をつげる音がの手の中からする。 それが周助からのメールであると気が付いたのは、メールフォルダを開いてからだった。 「アジサイ…」 「余計だったかな?」 心配そうな周助の声には首を大きく横に振った。 携帯ではこれ以上綺麗に撮れないか、と断念したのを周助は気がついてくれたのだ。 「ありがとう」 「よかった」 嬉しそうに微笑むに周助も柔らかな微笑みを返した。 ◇◇ 「と出逢って今日で12年だね」 「うん。干支が一周しちゃったね」 ふふっと微笑む彼女に、周助も笑みを浮かべて頷く。 「いまでも覚えているよ」 「え?」 「初めてと逢った日のこと」 「私も覚えてるわ。一生忘れない。こんな人が旦那様だったらなって思ってたし」 周助は驚きに色素の薄い瞳を瞠って、ついで幸せそうに微笑んだ。 「僕もだよ」 「えっ」 「フフッ、お互い叶ったね」 周助は愛しい妻に優しく口づけた。 BACK |