分かちあう喜び




「きゃー、すごい、きれい」
 目の前に広がる光景にがはしゃいだ声を上げる。
 無邪気に喜ぶ彼女に周助はクスッと微笑んだ。
 可愛い、と胸中でつぶやき、別の言葉を唇に乗せた。
「うん、きれいだね。時間はたっぷりあるし、ゆっくり見て回ろう」
 周助の提案には「うん!」と嬉しそうに頷く。
 いつでもどこでも仲が良い二人は、今日もしっかり手をつないで歩き出した。


 緩やかに風が吹き抜けていく。
 梅雨の晴れ間のよい天気は貴重で、それが休日と重なったのは幸運だった。
 おかげで、青空の下できれいな花々を鑑賞することができる。
 水辺に咲く花菖蒲は、紫、白、赤紫、青紫、白に紫の絞りなど、少しづつ色合いが異なる。
 数ある花菖蒲の中には、薄紫や薄桃色、白に紫色が散っているものなどもあり、それらにはそれぞれ名前がつけられていた。
 たとえば、白い花は『江戸錦』、薄桃色は『五月晴』といった具合だ。
 それらの中で、が一番惹かれた花菖蒲があった。
「周ちゃん!すごいの発見!」
 周助はが指差すほうを見て、色素の薄い瞳に驚きの色を浮かべ、ついで楽しそうに笑った。
「雲間不二、か。確かにすごいのかもね」
 花の中心は古代紫で、花弁の外側は薄紫をしていて、絞り風な色合いだ。
 ただ、今まで見たのもそうだが、なぜこの名前にしたのだろうという疑問がある。
 けれどは、それについてはどうでもよかった。
「優雅な感じが周ちゃんみたい。あ、でも、周ちゃんのほうがずっと優雅だよ」
 周助を見上げ、は緩く首を傾げて笑う。
 その可愛い笑顔に周助は色素の薄い瞳を細めて嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、
「周ちゃんと一緒に見られて嬉しいな」
「僕も嬉しいよ」
 二人は幸せそうに笑いあった。



END


君と二人で5のお題[1.分かちあう喜び]
starry tales (http://starrytales.web.fc2.com/)


二人のデート場所は東京にある堀切菖蒲園がモデルです。
『雲間不二』も行った当時実際にあった花菖蒲ですが、今の情報はわかりません。

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