君がいるから僕の世界は色がある

 君が傍にいて笑ってくれるから

 だから僕は強くなれる

 君がいるから―――




 大切な人〜you still love〜 4





 部屋のカーテンを開けると青い空が視界に飛び込んだ。雲はないから今日は一日晴れているだろう。
 そのことに安堵した。
 もし雨が降っていたら、僕の大好きな可愛い笑顔はきっと曇ってしまう。

 玄関でスニーカーの靴紐を結んでいると、軽い足音が近づいてきた。
 振り向くと姉さんが立っていた。
「周助、でかけるの?」
「うん」
ちゃんとデート?」
「そうだよ」
「ここのところ毎日ね」
「うん。最近の元気がないから、傍にいないと心配なんだ」
 昨日のことが脳裏に甦る。
 倒れたは顔が青白かった。
 考えたくないけど、もし僕が同じ時間に登校していなかったらと思うと、背筋が凍る。
「ねえ、周助」
 姉さんが妙に緊張した声色で僕を呼んだ。
「なに?姉さん」
「もしかしてちゃん――」
 口を噤んだ姉さんの目は、言うべきかどうか悩んでいるように宙を彷徨っている。
 その様子に僕はなんとなく姉さんが何を言いたいのかわかってしまった。僕たちが肌を重ねているのに、姉さんは気がついてる。の元気がないと言ったから、もしかしてが妊娠をしているんじゃないかと心配になったのだろう。
「それはない。断言できるよ。僕がを傷つけることするはずないだろ」
 自分自身より大事で大切な恋人。
 その彼女を傷つけるようなことは絶対にしない。
「そうね。ちゃんによろしくね」
 そう言って、姉さんは微かに微笑んだ。
「わかった。 いってきます」



 家を出ての家に向かった。
 家に着くと、彼女は玄関前で僕を待っていた。
「おはよう、周くん」
「おはよう。家の中で待ってていいのに」
 家に迎えに行くと言ったけど、まさか門前で待っているとは思わなかった。
 こんなことは初めてだ。
「ごめんなさい。ちょっとでも早く周くんに逢いたかったの」
 は心配そうな顔で僕を見上げて言った。
 そんな顔をしなくても怒ったりしないのに。
「僕も早く君に逢いたかったよ」
 そう言うとは花が咲いたようにふわっと微笑んだ。
「よかった」
「クスッ、僕が怒るとでも思ったの?」
 あまり可愛くされると、思わず意地悪をしたくなる。
 もちろんそれは限定だけど。
「あのね、周くん呆れたかなって思った」
「呆れる?どうしてそう思うの?」
 訊くとは恥ずかしそうに頬を桜色に染めた。
「…だって、こどもみたいじゃない?」
 その言葉を聞いた途端、僕はを抱きしめていた。
 どうしてそんなに可愛いことを言うのだろう。
「しゅ、周くん?」
「呆れる訳ない。すごく嬉しいよ」
 そう言ってから華奢な体を解放した。
 彼女に手を差し出すと、細い手が重ねられた。離れないようにぎゅっと手を繋ぐ。
「じゃあ行こうか」
「うん。 どこに連れていってくれるの?」
「まだ秘密だよ」
「ふふっ」
「どうしたの?」
「なんだかこういうの、ドキドキする」
 楽しそうに微笑むに微笑み返した。
「これから行く場所、きっと気に入ってくれると思うんだ」
 そこは去年の春に撮影に出掛けた時、偶然見つけた場所。
 その風景を見てまっさきに浮かんだのは だった。
 君に見せたらきっと喜んでくれる。そう思った。



 青学から20分くらい歩くと小高い丘がある。それは青学に通っている生徒なら誰でも知っている。
 けれど、その丘にある林を抜けた先にある場所を知っているのは、ごく限られた人だけだろう。
 丘にある桜は地元では有名で、桜が咲く時期には大勢の人が花見に来る。けれど、その時期以外ではあまり人を見かけない。
 今日はよく晴れていていい天気なのに、僕たち以外に人影はない。
「こっちだよ、
 は「うん」と頷いて、空を見上げた。
「あっ…あそこ見て」
 細い指が差す場所を見ると、紅色の花をつけている大きな樹があった。
 蕾の数が多いが、所々に八重の花が咲いている。
「きれいな色ね」
「そうだね。あれは、桃の花だね」
 桃の花を見ていたの瞳が僕に向けられる。
「私あんずの花かと思ったわ」
「クスッ。あんずと桃は似ているからね。どっちもバラ科サクラ属だから」
 説明するとは一瞬驚いた顔をして、でもすぐに微笑んだ。
「詳しいのね。…なら、花言葉は知ってる?」
「さすがにそこまでは知らないなあ」
 彼女は楽しそうにふふっと笑った。
「私はあなたの虜です」
 その言葉に鼓動の早さが増した。
 は花言葉を教えてくれただけなのに、まるでが僕の虜だと、そう言っているような気がして―――。
「僕は二年前のあの時から、ずっと君に捕まってるよ」
「しゅ――」
 彼女が僕の名前を呼び終わるより先に、柔らかい唇を奪った。
 吐息を奪うほどに深いキスをしてそっと唇を離すと、は頬を桜色に染めて恥ずかしそうに俯いた。
「……私も捕まってる…」
 小さな声が耳に届いた。
…」
 愛しい名前を呼ぶと、は顔を上げてはにかむように微笑んだ。


 小路を歩いて10分くらいした頃、僕たちは目的の場所へ辿り着いた。
 目の前に広がった芝生の中、白い花がいたる所に咲いている。その花々は微風に揺られて、踊っているように見えた。
「きれい…夢の中にいるみたい」
 は黒い瞳を輝かせて目の前に広がる光景を見つめている。
 とても嬉しそうな笑顔に、連れてきてよかったと思った。
 僕の顔にも自然に笑みが浮かぶ。
「気に入ってくれた?」
「うん、とっても」
「……ここに咲いてる花全部僕の気持ちだから、受け取ってくれる?」
 訊くとはびっくりしたように黒い瞳を瞠った。
「マーガレットの花言葉知って…?」
 頷くと、黒い瞳から涙が零れた。
「…嬉しい」
「僕も嬉しいよ」
 彼女の背中に腕を回して、華奢な体を抱きしめた。

 マーガレットの花言葉は、真実の愛――。

「君を愛してるよ。ずっと…」
 耳元で囁いて、抱きしめる腕に力を込めた。



 この幸せがいつまでも続くように

 君が笑っていられるように

 僕は強くなる――




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