あなたが好き

 泣きたいほど好き

 何度言っても足りない

 あなただけが大好き




 大切な人〜you still love〜 5




 真っ青な空の下、草の波間に咲き乱れるマーガレット。
 そこは現実ではない空間のようだった。
 でもそれが現実だと実感できたのは、周くんの温もりがあったから。
「……ここに咲いてる花全部僕の気持ちだから、受け取ってくれる?」
 嬉しくて泣きそうだった。
 彼はいつも私を想ってくれる。
 優しくて、強くて、守ってくれる。
 何も言葉にできなくて、彼の腕の中で温かな温もりをただ感じていた。
「君を愛してるよ。ずっと…」
 柔らかくて優しい声が耳元で囁いていた。


 昨日あれからどうやって家に戻ったのか覚えていない。
 頭に靄がかかってしまったように不鮮明で、よく思い出せない。
 周くんと何を話したのかもわからない。
 けど、ひとつだけはっきり覚えてることがある。
 それは周くんの笑顔。優しくて温かい笑顔。
「頭痛い…」
 泣きながら眠ってしまったようだった。
 コンパクトミラーで顔を見ると、目が真っ赤に充血していた。
 このまま下に降りたら泣いていたのがわかってしまう。
 ……今日は日曜日だし、お昼近くになってから降りていっても大丈夫かな。それまでには腫れが引くだろうし。
 パジャマのままでいても仕方がないから着替えようとクローゼットを開けた時、ノックの音がした。
、まだ寝てるの?」
「起きてる」
「じゃあ降りていらっしゃい。ごはんできてるわよ」
「うん」
 顔を見られないように一階に降りて、洗面所に直行した。
 蛇口を捻って冷たい水で顔を洗う。水で洗顔したからか、鏡を見ると充血していた目が少し和らいでいた。
 これなら気にされないかな、と安堵する。

 お父さんは休日出勤で朝早く家を出たとお母さんが言っていた。
 私はお母さんと二人で朝ごはんを食べた。
 いつも美味しいはずの料理は何故か味気なかった。だけど残したりしたら心配をかけるから、残さずに食べた。
 そして、部屋に戻った。


「ごめんなさい」
 書き終わった手紙を封筒に入れて封をして呟いた。
 留学することを言えなくて、でも黙ったまま行くこともできなくて、彼に手紙を書いた。
 彼の瞳を見て真実を言うことは、どうしてもできなかった。
 きっと私は泣いてしまうから。
 ……違う。
 周くんにどう思われるのか、それが恐いんだ。
「……好き…大好き……」
 だけど、もし本当のことを言ったら、彼はどんな顔をするだろう。何て言うだろう。
 直接言えないから手紙でなんて…私は弱い。ううん、ずるいのかもしれない。

 手紙を鞄に入れた。
 明日の朝ポストに入れれば、明後日には彼のもとへ届くだろう。
 手紙が届いた頃、私は日本にいないかもしれないし、いるかもしれない。

 これは賭け――。

 ほかにどうしたらいいのか、わからない。


 それから私は留学の準備を始めた。
 準備といっても、手荷物を少し大きめのバッグに詰めるだけ。
 大きな荷物はすでに向こうの寮へ送ってある。
 何気なく視線を向けた先、机に飾ってある一枚の写真が目に飛び込んだ。
 それは高校一年生の秋、周くんに頼んで撮らせてもらった写真。彼はテニス部レギュラーの証である青いユニフォームを着て、爽やかに笑っている。
「……周くんの写真が欲しいな…」
「え?僕の写真?」
「……ダメかな?」
「クスッ、いいよ。じゃあ明日なんてどうかな」
「明日?」
「うん。明日の放課後の練習前とか」
「周くんが先輩に怒られない?」
「大丈夫だよ。始まる前は部活中じゃないんだから」
 夕焼けの中を周くんと手を繋いで歩きながら、そんな話をしたことを急に思い出した。
 気づくと涙が溢れていて、止めることができないまま、私は微笑む周くんを見て泣いていた。

 
 どうして好きなだけじゃダメなの?
 想うだけじゃダメなの?
 彼の傍にいたいのに
 こんなにも彼の温もりを覚えているのに
 優しいキスも
 抱きしめてくれる腕の強さも
 何もかも私の身体が覚えてる
「おはよう」
「大好きだよ」
「ずっと一緒にいようね」
「君を愛してるよ。ずっと…」

 私以外好きにならないで…

 身勝手なのはわかっている。
 でも、そう願わずにはいられなかった。




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