風に舞う艶やかな長い黒髪 僕の名前を呼ぶ桜色の唇 背中に回された細い腕 君の全てが愛しくてたまらない 大切な人〜you still love〜 6 「君を愛してるよ」 そう言ったら、は涙で濡れた瞳で僕を見つめた。 愛しくて華奢な体を抱きしめると、彼女は僕に体を預けてくれた。 温かなぬくもりと小さな声で繰り返される愛の言葉に、時間が止まったような錯覚がした。 を家まで送って、僕はまっすぐ自宅へ帰った。 「ただいま」 「あら、周助。早かったのね」 玄関のドアを開けると、新聞を手にした姉さんがいた。 何か言いたそうに微笑む姉さんに溜息をつく。 「何が言いたいの?」 「別になんでもないわよ」 「そういうふうには見えないけどね」 「あら、そう?」 姉さんは僕が持っている紙袋を一瞥すると、にっこり笑ってリビングへ入っていった。 なんだかんだ言っても、姉さんは姉さんなりに僕に気を遣ってくれてるみたいだ。 もっとも僕の心配と言うより、の心配をしていると言った方がいいかもしれない。 姉さんは彼女を実の妹のように可愛がっていて、とても気に入っているから。それは母さんにも言えることで、母さんは「もうひとり娘ができて嬉しいわ」なんて言ってるし。海外に単身赴任している父さんもを紹介した時から素直な彼女を気に入ったみたいだし、裕太の彼女への印象もいいみたいだから。 あとは僕がプロになって生活力を身につければ、を僕だけの花嫁にできる。 ――と結婚するよ 家族に報告できるように、前に進むだけだ。 翌日、いつもより少しだけ早い時間に目が覚めた。 部屋の中は薄暗く、カーテンを開けても僅かな光が差し込むくらいの時刻だった。 着替えてリビングに行くと、母さんが朝食の準備をしていた。 「あら、早いのね」 「目が覚めちゃってね」 「まだ何もできていないけど、何か淹れる?」 「ダージリンが飲みたいな」 座って待っていると、母さんが紅茶を持ってきてくれた。 「はい、ダージリンよ。それからこれね」 ロイヤルコペンハーゲンの白磁のカップに注がれたダージリンと、マフィンを乗せた皿が目の前に置かれた。 「昨日周助がちゃんに頂いたものよ。みなさんで召し上がってくださいって言っていたらしいけど、私たちが先に頂いたらあなた怒りそうだから」 楽しそうに笑った母さんに、僕は苦笑するしかなかった。 甘いものが苦手なだけど、彼女は料理は勿論のこと、お菓子作りも上手い。 けれど甘いものが苦手なだけに、お菓子はほのかに甘い程度だ。でも僕もそれほど甘いものが好きな訳ではないから、丁度いい甘さだ。 マフィンの中にはブルーベリーとクルミが入っていて、甘味がおさえてあるけど、とても美味しい。 …の愛情がこもっているからかな。 「周助。そのマフィンよっぽど美味しいみたいね」 「姉さん」 「幸せそうに食べてる周助を見るのは久しぶりだわ」 「そんなことないと思うけど」 「嘘おっしゃい。自分でも自覚はあるんでしょ。まあ、好きな子が作ったものが美味しいのは当然よね。ちゃん可愛いし、早く義妹にならないかしら……」 僕の隣に座った姉さんのぼやきを聞きながら、残り一口になったマフィンを食べて紅茶を飲み干す。 「ごちそうさまでした」 立ち上がって食器を片付け、僕は部屋に戻った。 あのままあそこにいたら姉さんの餌食になるだけだ。 部屋のドアを開けると、の笑顔が目に飛び込んだ。 正確に言うなら、机の上のフォトフレームの中で僕の恋人が可愛く笑っている。 高校一年の秋、文化祭の時に彼女を撮ったものだ。クラスの出し物は甘味喫茶で、ウェイトレス担当になった彼女は藍色の着物を着ていた。七夕祭りに浴衣姿を初めて見た時も思ったけど、 彼女は和装がよく似合う。 「」 「あっ、周くん。テニス部のほうはいいの?」 「うん、大石と交代したから。君の交代はいつ?」 「えっと…あと5分くらい」 「それならここで待ってるから、一緒に回ろう」 「うん」 嬉しそうに笑ったを僕は素早くカメラで撮影した。 「やだ。撮るなら撮るって言って」 「クスッ、大丈夫。可愛く撮れたたよ」 そう言うと、は頬を赤く染めた。 「フフッ。現像したら僕の部屋に飾らせてもらうよ」 「えっ?部屋に飾るの?」 「うん。だって僕の写真飾ってるだろ?これでおあいこ、だよね」 「そうだけど…面と向かって言われると恥ずかしい」 鮮やかに想い出が甦る。 写真のはもちろん可愛いけど、でも本物の彼女の笑顔には適わない。 僕はの笑顔にいつでも癒されてる。 どんなに辛いことがあっても、彼女がいれば乗り越えられる。 瞳を閉じると瞼に昨日の情景が浮かぶ。 「……好き…大好き…」 僕の腕の中で、何度も言ってくれた。 ねえ、君はいま何をしているのかな? まだ寝ているかな? それとも、僕のことを考えているかな? 早く明日になればいい。 そうすれば、の笑顔が見られる。 NEXT>> BACK |