いつでも どんな時でも

 ずっとあなたが

 周くんだけが

 私の大切な人―――




 大切な人〜you still love〜 11




 ―――え?
 今のは…彼の声?

 私がいるのは空の上。
 彼がいるのは地上。
 だから、そんなはずはない。

 でも、彼の声を間違えるはずはない。
 今のは絶対に周くんの声だった。

 私も…
 いつでもあなたを愛してる


「お嬢さん、大丈夫?」
「え?」
 右側から聴こえた声に、顔を向けた。
 すると、隣の席に座っている品の良さそうな年配の女性が、私を心配そうに見つめていた。
「悲しいことでもあったの?」
 言われて、泣いていることにようやく気づいた。
 上手く言葉にできなくて、違うということを言いたくて、首を横に振る。
「違うのならいいけれど…。可愛いお嬢さんには笑顔が似合うわよ」
 そう言って、女性は優しく微笑んでくれた。
 私は頷きながら、目元に浮かんだ涙を拭った。
「きっとその指輪をくれたあなたのいい人も、そう思っているのじゃないかしら」
 言われている意味が解らなくて、首を傾けた。
 女性がにっこり微笑む。
「指輪には意味があるのよ。あなたがペンダントにしているピンキーリングは、【守る・願う】という意味があるの。それから、指輪についているダイヤモンドは、【永遠の愛】という意味があるわ。あなたはとても愛されているのね」
「……っ」

「僕の気持ちだよ。いつでも身につけて欲しくて、ペンダントにしたんだ。宝石はね、散々悩んだんだけど、やっぱりの誕生石がいいかなって。今の僕にはこれが精一杯だけど、いつかきっと――」
 私の誕生日に、彼は優しく微笑みながらこれをプレゼントしてくれた。
 あの時はただ嬉しくて、お礼を言っただけだった。
 深い意味なんて考えなかった。
 でも、そうじゃなかった。
 このリングには、周くんからの愛が込められていた。
 たくさんの想いが――。
 彼の深い愛に私はいつも包まれていたんだ。

 ………周助……

 指輪をギュッと握り締めると、彼の愛が伝わってくるような気がした。
 そしてそのまま瞳を閉じた。

 どんなに離れていても
 たとえ傍にいられなくても
 ずっと大好き
 ――あなただけ、愛してる



 朝起きて、窓を開ける。
 眩しい光の中に新緑が輝いていて、今日もいい天気になりそうだった。
「おはよう、周くん」
 大好きな人に声をかける。
 写真だから彼からの返事はないけど、それでも言っていないと耐えられないから。
 イギリスに来て二ヶ月ちょっと経ったけど、言わない日は一日だってない。
 朝起きたら「おはよう」を。
 学校へ行く時は「いってきます」を。
 学校から帰ったら「ただいま」を。
 寝る前には「おやすみ」を。
 着替えて朝ごはんを食べていると、玄関のチャイムが鳴った。
 今日はクラスメイトのエスターと遊びに行く約束をしているから、きっと彼女に違いない。
 一応開ける前にドアの覗き穴から外を確認すると、エスターが立っていた。彼女を招き入れるために、玄関を開ける。
「エスター」
「おはよう、。…っと、まだ食事中だったのね。ごめん」
「おはよう。 いいの。気にしないで」
 家の中を覗いて言った彼女に首を横に振った。
 私はエスターを部屋に招き入れた。入学式で友達になって約二ヶ月が経つけれど、彼女を部屋に上げたのは初めてだ。
 学校が始まったばかりで、落ち着くまで友達を招く余裕がなかったから。
「紅茶でいい?」
 食器棚からティーカップを取り出しながら訊く。
「うん、ありがとう。……あっ!」
「えっ?なに?」
 耳に届いた大きな声に振り向くと、ベッドがある部屋にエスターがいた。
 いつのまに? 
 そう問いかける前に、彼女は手に何かを持ってキッチンへ戻ってきた。
の彼?」
 周くんの写真が入ったフォトフレームをエスターが掲げてみせる。
 別に隠すことでもないから頷いた。
「かっこいい人ね。レイの次に、だけど」
 レイというのはエスターの恋人の名前らしい。
 直接会ったことはないけど、レイという名前の恋人がいることを聞いている。
「どういう人?」
 聞きたいと顔に書いてあるのがよく解る表情でエスターが訊く。
 それに苦笑しつつも、私は口を開いた。
 エスターになら話してもいいと思った。彼女はどんなに些細な事でも真剣に聞いてくれるし、口が堅い人だから。
「とても優しくて、温かくて…私のことを大切にしてくれる素敵な人よ」
 そう言うと、エスターがクスッと笑った。
の幸せそうな顔って初めて見たわ。この人の事とても好きなのね」
「ええ、大好きよ」
 エスターは微笑みながら、フォトフレームをテーブルの上に乗せた。
 そして何か思い出すように宙を見つめながら。
「この人見たことあるような気がするんだけど」
「えっ?」
「うーん、どこだったかな………あっ、そうだ!」
 エスターは自分のトートバッグを探り出した。
 バッグの中から雑誌を取り出し、パラパラとページを捲っていく。
「ここ見て。この写真の不二周助って人とそっくりよね?」
 目の前に広げられた雑誌を食い入るように見つめる。
 エスターの指先が示すところを見ると、それは周くんだった。
 色素の薄い髪が少し短くなっていて、顔立ちが少し凛々しくなっている。
 でも優しい笑顔は変わっていない。



 泣きたい気持ちになる

 周くんと逢えなくなって、まだ二ヶ月しか経っていないのに

 今度いつ逢えるかわからないのに

 彼の優しい笑顔を見ただけで、逢いたくてたまらなくなる

 幾度の夢を見れば

 どれくらい一人きりの夜を過ごせば

 あなたに辿りつくの?

「いつでも君を愛してる」

 優しい声を、甘い囁きを、彼の腕の中で聞きたい




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