逢いたくて
 
 逢えなくて

 どのくらい眠れない夜を過ごしただろう

 あなたに触れて欲しいと

 優しい温もりに触れたいと

 願っていた


 ―――ずっとあなたに逢いたかったの




 大切な人〜 you still love 〜 17




「愛してる」
 熱く掠れた声が愛を囁く。
 色素の薄い切れ長の瞳は、真っ直ぐにだけを見つめている。
 柔らかな笑みを浮かべて自分を見つめる恋人に、は微かな笑みを浮かべた。
「私も…」
 その言葉に周助は幸せそうに瞳を細め、桜色に染まった頬にそっと触れた。
 柔らかな唇に優しいキスを落とす。
 触れるだけの優しいキスは、少しずつ深くて熱いキスに変化する。
 周助はの服を脱がせ、一糸もまとわない姿にする。そして自分の服も脱ぎ捨て、裸になった。
 体に触れる手が優しくて、愛しくて、もっと触れて欲しくて、縋るように周助の背中へ腕を回した。
「んっ……しゅ……しゅう…く……」
 うわ言のように恋人の名を呼ぶと、目元にキスが落とされた。
 周助は瞳を細めて、小さくクスッと笑う。
「可愛い」
 細い首に唇を這わせきつく吸い上げると、赤い花が咲いた。
 所有の印をつけた唇は、の胸元に同じようにいくつも赤い花を咲かせていく。
 ほんのりと桜色に染まった柔らかな肌の上を、周助の大きな手が優しく這う。
「……っ、ン…ッ…だ、め……しゅ、すけぇ…」
 下肢に向かって這う熱い手と唇に、赤く色付く唇から甘く震えた声が溢れる。
 周助は愛おしそうに瞳を細めて、の耳元へ唇を寄せた。
…もっと声、聴かせて…」



 小さく身じろぎしたの瞼がゆっくり上がる。
 周助の熱いネツを避妊具越しに最奥に感じた瞬間、気を失って眠ってしまっていた。
 は前髪をしなやかな指で優しく梳く周助に気がつき、目元を淡く染める。
「大丈夫?」
「…ん、平気」
 小さく頷くと、甘くて優しいキスが唇に落とされた。
 周助は優しい笑みを浮かべて、細い体を愛おしく抱きしめる。
 の視界に彼の首にかけられた十字架のペンダントが飛び込んだ。窓から差し込む光に僅かに反射している銀色のそれは、伝えられなかった想いを、彼への愛を託したもの。
 の視線に気がついた周助は、フッと色素の薄い瞳を細めた。
「片時も離した事ないんだ。さっきも言ったけど、の気持ちはちゃんと受け取った。だから僕はここにいる」
 その言葉にの黒い瞳が潤む。
 ちゃんと気持ちをわかってくれていた。それがとても嬉しい。
 愛して、愛されて。心が満たされていく喜びを噛み締めた。
「僕はだけを愛してる。これから先もずっとね」
 甘く囁いて、涙で潤んだ瞳で自分を見つめる恋人を少し強く抱きしめなおす。
 周助は艶やかな黒髪を撫でるように梳きながら、言葉を紡ぐ。
「君に逢ったら返そうと思ってたけど、それはやめるよ」
 不意に投げられた言葉の意味がわからなくて、周助の腕に包まれながらは問うように首を傾けた。
 すると周助は意味ありげにフッと微笑んだ。
「傍にいられなくても君の愛を感じていたいから、持っていていいよね?」
 は瞳を瞠って、ついで花が咲くようにふわっと微笑んだ。
「持っていてくれたら嬉しい」
 そう言うと、周助は幸せそうに微笑んで柔らかな唇に再び甘いキスをした。
 そして、腕の中に閉じ込めた恋人を熱い視線で見つめる。
「……二年後、君が演劇学校を卒業したら結婚しよう」
 細い指を絡め取って、周助はの左手の薬指に誓いのキスを落とす。
「卒業式の日、僕はをさらいにいく」
 周助のしなやかな指がの頬に優しく触れた。
 真っ直ぐに向けられた熱い視線と、頬に感じる指の温かさが夢ではないことを告げている。
「周くん…」
「僕は本気だよ。本当なら今すぐ君を僕だけのものにしてしまいたい。でも、君には夢がある。だから二年は待つけど、それ以上は待てない」
「……はい」
 は無駄なく筋肉のついた胸に甘えるように顔を埋めた。
 周助は宝物を扱うように大切に、を優しく包み込む。
「ねえ、もう少しを愛したいな。ダメ?」
 耳元で囁くと、細い肩が僅かに震えた。
「………ダメじゃない…」
 耳に届いた小さな声にクスッと笑って、周助は赤く色付いた可愛い唇に口唇を重ねた。


 しばらくして、甘い余韻が残ったの体から周助が離れた。
 どうしたの?と訊くより先に、周助が口を開く。
、キッチン借りていい?」
「キッチン?」
「お腹空いてるでしょ」
 言われて気がついた。
 紅茶を淹れようとしていて、淹れることなく肌を重ねた。だからとうぜん食事もしていない。
 かあっと身体が火照る。
 恥ずかしくて、上目遣いにチラリと視線を彼に向けた。
 すると周助はそれにクスッと微笑んだ。
「無理させちゃったお詫びに僕が作るよ。ほど上手くできないけどね」
 周助の言葉には頬を真っ赤に染め、顔を隠すようにブランケットで顔の半分を覆った。
「うん」
 周助はの返事に笑みで答え、床に散らばった服を着てキッチンに足を向けた。
 周助が用意してくれた昼食は、アスパラとベーコンのパスタ、グリーンサラダ。
 上手くできないと言っていた周助だが、出来上がったパスタは美味しそうだ。
 飲み物は周助のリクエストでがダージリンを淹れ、それらをキッチンのテーブルで二人で楽しく食べた。
 そのあと周助は恥ずかしがるをバスルームへ抱き上げて連れていき、蕩けるように甘いバスタイムを過ごした。

 窓から見える空が、明るいオレンジ色から闇色へと次第に変わっていく。
 わかっていた。理解していた。限られた時間であることを。
 けれど、理性ではわかっていても、感情とそれは違う。
 淋しさは消えなくて、は寄り添って座っている周助に抱きついた。
「……待ってるから」
 呟かれた言葉に込められた意味を正確に読み取って、周助は細い体をギュッと抱きしめた。
 周助は自分と同じシャンプーの香りがする柔らかな黒髪を、しなやかな指で優しく梳く。
「僕が嘘ついたことあった?」
 訊くと、涙で潤んだ黒い瞳が優しく微笑む恋人の顔を捕らえた。
 周助の言葉を否定するように、はゆっくりと頭を振る。
「ない、わ。いつも約束を守ってくれるもの」
 微かに震えた声で言って、は微笑んだ。
 黒い瞳の縁から涙が一筋溢れる。それを周助は唇で優しく拭った。
「長い休みの時は、可能な限りに逢いに来るよ。君が望むなら電話するし、メールもする。手紙を書いてもいい」
「無理しないで。プロテニスプレイヤーって忙しいんでしょ?あなたに無理して欲しくないの」
「無理なんかじゃないよ。誰よりも大切なにだから、そうしたい」
「周くん…」
、君の望みは?」
「…周くんと一緒に過ごしたい…声が聴きたい」
 周助はを抱きしめる腕に力をいれた。
 そして揺るぎない真摯な瞳で、腕の中の大切な人を見つめる。
「愛してる、
 色素の薄い瞳を愛おし気に細めて、可愛い唇に熱く深いキスを繰り返した。
 触れあう唇から、お互いを想う気持ちが伝わるようなキスを。



 どんなに離れていても

 温もりに触れられる時間が僅かでも

 確かな約束があるから

 あなたを愛してるから

 迎えにきてくれるって信じて待ってる




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