冷たい風が吹き抜けていく。風に攫われた黒髪が宙に舞う。
 頬についたそれをは白く細い指ではらった。
 木々にカラフルなイルミネーションが輝く中を足早に歩いて、待ち合わせ場所へ急ぐ。
 駅前にクリスマス期間だけ飾られる大きなモミの樹。そこが彼との待ち合わせ場所。
 イヴである今日は土曜日で、週休二日の仕事をしているは本来なら休みであった。
 けれど、急遽片付けなければいけない仕事が入って出勤となったのだ。
 黙々と仕事を片づけ同僚より一足先に上がったので、約束の時間には間に合う。
「…まだ来てないのね」
 カップルで溢れかえるツリーの前を見回して呟いた。
 時刻は18時23分。
 時間丁度か少し前に来ることが多いから、もう少しすれば来るだろう。
 彼が見つけやすいようにツリーから僅かに離れた所には移動した。
 それからほどなくして、待人の姿が見えた。
「た…」
 彼の名前を呼んで手を挙げようとした瞬間。
 黒曜の瞳に映った光景には動きを止める。
 動くことも目を逸らすこともできなくて、近付いてくる人影をただ見ていた。
「へえ…あなたがさん?」
 20歳くらいだろうか。まるで品定めをするかのような視線がに向けられた。
 彼に妹はいなかったはず。




 聖夜の恋人




 半年付き合っててキスもさせないオンナには飽きたんだ 

 可愛げないな

 普通はもっと取り乱したり縋り付いたりするもんなんじゃねえの?


 頭の中で壊れたレコードのように、同じ言葉が何度も響く。
 は聖夜に相応しくない盛大な溜息を吐いて、窓の外に視線を向けた。
 店内に流れるホワイトクリスマスを一緒に聴くはずだった人はいない。
 三週間振りのデート、しかもイヴに振られるなんて世界で自分くらいかもしれない。

 キスしたことがなくても、彼が好きだったのは本当だ。
 「飽きた」そう言われたから「わかったわ」と答えただけなのに。
 極め付けに「可愛げない」の一言。

 本当に俺のこと好きだったのか?

 …好きでもない男と付き合うほど暇じゃないわよ
 それでも泣きもしないオンナは可愛げないと言われても仕方ないかもしれない。
 今となっては彼が本当に好きだったのかどうかわからなくなってきた。
 付き合ったのは半年でも、お互いの仕事の関係でデートは両手で数えられる程度。
 連絡をくれるのは向こうで、自分からしたことはほとんどない。
 考えてみれば別れる理由など多すぎるくらいだ。
 でも…キスしたいと思う相手じゃなかったってことは、私は本気で好きじゃなかったのよ
 そう結論を出して、は残り少なくなったコーヒーを飲み干した。


「どうしようかな」
 店を出たは一人ごちて、腕時計に目を遣った。
 時刻は午後7時を少し回っていただけで、さほど時間は経過していなかった。
 長い夜ね…、と心の中で呟き、駅前広場へ歩き出す。
 あの人が別れを切り出してすぐに、は公園をあとにしていた。
 だから、ゆっくりとツリーを見ていない。
 カップルや家族連れで溢れているだろうけれど、せっかくのイヴだ。
 家に帰っても一人なのだし、何もすることがない。
 それなら少しくらいクリスマスの余韻に浸っていこう。
 ただそれだけでツリーを見に来ただけなのに、こういう時に限ってタイミングが悪い。
 悪酔いした三人連れの男には声をかけられた。
「きれーなおねーさん。俺達と飲み行こーぜ」
「そそ。イヴに一人じゃつまんねーだろ?」
「人を待っていますので」
 無視するに限ると思っていたが、あまりにしつこいのではっきり態度に示した。
 だがこの手の輩がそれだけで引いていかないのは、古今東西共通だろう。
 二人ならなんとか逃げられそうだが、むこうは三人。分が悪い。
「そんなこと言っちゃってホントは一人なん――」
「僕の恋人に手を出さないでくれる?」
 後ろから声が聴こえて、気がついた時には腕に抱きしめられていた。
 は驚きに黒曜石のような瞳を丸くし、男性の顔を見つめる。
「大丈夫?」
「え…ええ」
 状況が理解できないまま頷く。
「よかった。僕が遅れたからだね、ごめん」
 言って、優しい微笑みがに向けられた。
 そして青年はに向けた視線とは別の冷たい視線で男達を見遣る。
「チッ。マジで待ち合わせだったのかよ」
「つまんねー」
「おい、行こうぜ」
 口々に文句を並べ立て、男達は人波の中へ消えていった。
「あの…」
「あ、ごめん」
 抱きしめられたままの状態に声をかけると、謝罪の言葉と同時に腕が解かれた。
 は、いいえ、と緩くかぶりを振る。
「ありがとうございます。助かりました」
「いいえ。大丈夫ですか?」
「ええ、あなたが助けてくれたから。本当にありがとう」
「そういう意味じゃないんだけど…気づいてない?」
 困ったように笑う男性に、は不思議そうに首を傾けた。
 大丈夫かと聴かれたから平気だと答えた。
 これで会話は成り立っているはずだ。
「…さっき見てしまったんだ」
「見てって…?」
「声は小さかったけど、僕は近くにいたから会話が聴こえた」
「だから…助けてくれたのね。私が一人なの知ってたから」
 偶然にしては出来過ぎていると思った。
 小説やドラマみたいに、素敵な男性がピンチを助けてくれる。
 そんな夢みたいなことが現実にある筈ない。
 なにもかも知っていて助けてくれた。ただそれだけ。
 それなのにどうして―――。
 胸の奥がズキンと痛むのだろう。
「こ…恋人が待ってるんじゃない?早く戻ってあげて。私はもう平気だから」
 あれから30分は経過している。
 それなのに男性が駅前広場にいるのは、人を待っているからだろう。
 そうでなければ寒空の下にずっといるはずがない。
 淡く微笑むに、色素の薄い瞳が細められた。
「残念ながら恋人はいないんだ。部活が忙しくてね」
「ご、ごめんなさい。私勝手に…」
 優しくて男らしくて、落ち着いた口調で話す人。
 こんなに素敵なら恋人がいるだろう。
 そう思って思わず口にしてしまったが、そうではなかったようで。
 悪いことを言ってしまったと後悔する。
「気にしないで。好きな人はいなかったからさ」
 そう言って、フフッと微笑む。
 その笑顔にの顔にフッと影が落ちた。
 だがそれは刹那で、は口元を僅かに上げて無理に微笑んだ。
「あなたが素敵な聖夜を過ごせるように祈ってるわ。助けてくれて本当にありがとう」
 礼を述べては立ち去ろうとした。
 だが。
「一人じゃ素敵な聖夜にならないよ。だから、一緒に過ごそう」
「……私と?」
 言われた意味を理解するまでに、僅かに時間を要した。
 ほんの少しの期待が生まれたが、はそれをすぐに振り払った。
 都合のいいように考えたらいけない。
「そうだよ。僕の前には君しかいないでしょ。それとも僕と一緒は嫌かな?」
 嫌じゃない。
 でも振られるところを見られているし、別れて数時間も経たないうちに別の男性についていくのはどうなのだろう。
 軽い女だと思われたくない。強くそう思った。
「そういう訳じゃないけど…」
 曖昧に返事をすると、冷たくなった手が温かいものに包まれた。
「じゃあ行こうか。 夕食はまだだよね?」
 それに反論する間もなく言われて。
 考えることなく、は頷いていた。
「ええ、まだだけど」
「何かリクエストある?」
「特にないからあなたに任せてもいい?」
 相手の好みがわかればいいのだが、初めて逢った相手の好みがわかるはずもない。
 それなら彼に任せるのが無難だろう。幸いにしてに嫌いなものはほとんどない。
「少し歩くけど、美味しいイタリア料理の店があるんだ。そこでどうかな?」
「それってもしかして、ラビーノ?」
「あ、知ってたんだ」
「知ってるっていうか、美味しいって同僚が言ってたから、お店の名前だけ。まだ入ったことがないから、ちょっと楽しみかも」
 ふふっと微笑むに青年はクスッと柔らかく笑う。
「やっぱり君は笑っている方が可愛いよ」
「え?なに?」
 小さな囁きは耳に届かず、は首を傾けた。
「なにが?」
 そう返されて、はなんでもないと頭を振った。
 気のせいじゃない…よね。
 そう思うのだが、確かめるのは恥ずかしいような気がしてやめた。
 彼の言葉は心に留めておけばいい。
「あ、そうだ。忘れてた」
「なにを?」
「僕のことはあなたじゃなくて、周助って呼んで欲しいな」
 その言葉には驚いた表情で、黒い瞳を瞬きさせた。
「呼び捨て?」
「うん。今夜君と僕は恋人。だから名前で。ね、
「そうね…周助」
 周助の優しい笑顔に答えるように、は花が咲くように微笑んだ。

 一夜の―――聖夜限りの恋人。
 真夜中を過ぎたら魔法は解けてしまうけれど、今だけは。
 25日に変わるまでは、周助の恋人でいられる。

 気紛れでも同情でも、理由はなんでもいい

 ほんの僅かな時間でも、周助の傍にいられるのなら


 心の中に生まれた感情に名前をつけるなら

 それはきっと―――


『恋』



 しばらく歩くと、赤茶色のレンガ造りの店が見えた。
 入口にツリーが飾られ、クリスマスのイルミネーションが輝いている。
「ここだよ」
 周助は扉を開き、どうぞ、レディと聞こえてきそうな顔で優雅に微笑む。
 その姿には様になってると思った。そして、女性の扱いに慣れているのかもしれない、とも。けれど、はそれをすぐに否定した。なんとなく、周助はそうではないような気がしたから。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「はい」
「こちらで少々お待ちくださいませ」
 周助の返事を聞いて、スタッフは店内の奥へ姿を消した。
 ほどなくして、先程の男性スタッフが戻ってきた。
「お待たせいたしました。店内奥の席とカウンターがご案内できますが、いかがいたしますか?」
「奥の席でお願いします」
「かしこまりました。では、お席へご案内いたします」
 そうして案内された席は、店内奥の角の席だった。
 だが、窓際の席だったので窮屈さは感じない。さらに、大通りに面した窓際ではなく、店の中庭に面した窓際だった。
「お決まりになりましたら、お呼びくださいませ」
 ワイングラスに注がれた水をクランベリー色のクロスを敷いたテーブルに置き、二人の手にメニューを渡し、スタッフは一礼してテーブルを離れた。
「………私、クリスマスディナーにしようかしら」
 しばらく黙ってメニューを見ていたが呟いた。
 前菜、メイン、パン、デザート、ドリンクとフルコースのような内容だが、値段はリーズナブルな上に、メニューに掲載された写真は色鮮やかに盛り付けがされていて、とても美味しそうだ。
も?フフッ、僕もそれにしようと思ってたんだ。 美味しそうだよね」
「ええ。他のも美味しそうだけど、量が多そうで…」
 苦笑を浮かべるに、周助はクスッと笑って小さく頷く。
「うん、女性もだけど男性でもちょっと多いと思うよ。はドリンク何にする?」
 ソフトドリンクかアルコール。好きなドリンクを選べるコースらしい。
 メニューに当店お薦めと書いてあるのに頷ける。
「周助はどうするの?」
「僕?僕はコーヒーにするよ」
「紅茶じゃなくて?」
 思わずそう言ってしまい、は慌てて口元を抑えた。
 周助にはコーヒーより紅茶の方が合いそう。
 そう思ったら、声に出してしまっていた。
「フフッ。確かに僕はコーヒーより紅茶の方が好きだよ。でも、この店はコーヒーが格別に美味しいんだ」
「そうなの?それなら私もコーヒーにしようかな」
 周助はきっと学生だろうとは思っている。
 だからアルコールでなく、ソフトドリンクを頼もうと決めていた。
 彼の口調からすると、何度か来店しているのだろう。
 その彼が美味しいと言うコーヒーをも飲んでみたくなった。
 オーダーをとりにきた女性のスタッフに、クリスマスディナーを注文をした。
「……テラスがきれいね」
 は左側の窓に目を遣って、黒曜石のような瞳を細めた。
 2メートルくらいのモミの樹に、色鮮やかなライトが輝いている。
 その光で、金色や銀色の球体が夜空の星のように輝いて見える。
 樹の頂には金色の星がついていて、とてもきれいだ。
「そうだね。駅前のような賑やかなツリーもいいけど、僕はこっちの方が好きかな」
「…時間がゆっくり流れているような感じね」
 それは錯覚に過ぎず、実際は一秒一秒、確実に時間は過ぎている。
 けれど、周助との時間はとても穏やかで楽しくて、時が止まっているかのように感じる。
 脈絡のないの呟きに周助は色素の薄い瞳を穏やかに細めて、ツリーを眺めるの横顔を何も言わずに優しく見つめた。
「お待たせ致しました。こちらが前菜でございます。そしてこちらがグラピヨンになります。グラピヨンはカップルでご来店くださいましたお客様へのサービスとなっております」
 二人の前に料理とグラピヨンを並べて、スタッフは一礼して下がっていった。
 グラピヨンという名を耳にしたことはあるが、実際目にするのは初めてだった。
 ゆえに、の目には白ワインにしか見えない。
「白ワインみたいね」
「グラピヨンっていうのは、ノンアルコールワインだからね。見た目はほとんど同じなんだよ」
 周助の説明には瞳を驚いたように瞬きさせた。
「周助って知らないことないんじゃない?」
「フフッ、って面白いこと言うね。前に姉さんがアルコールの飲めない母さんのために買ってきたことがあって、それで知ってるだけだよ」
 周助はワイングラスを手に取って微笑む。
「せっかくだから、乾杯しよう」
 ええ、と頷いてもワイングラスを手に取る。 
「でも、何に?」
 首を傾けるに周助はクスッと笑った。
と逢わせてくれた聖夜に」
 どちらともなく手を伸ばして、テーブルの中央でグラスを合わせ、二人は微笑み合った。
 タイミングよくテーブルに運ばれてくる料理を、小さな頃のクリスマスの思い出や料理の感想、この後どこへ行こうかなど、楽しく話をしながら堪能した。
 しかし、お互いの年齢や趣味という相手を知ることの話題には触れなかった。
 触れたら忘れられなくなると思っていたから。周助がのそれに触れようとすると、はそれを避けるように話を逸らした。それは周助もわかっただろう。けれど、周助は怒ったり呆れたりすることもなかった。
 それにホッとしながらも、ツキンと痛む胸の痛みを顔に出さないようには振る舞っていた。
 それが周助にはお見通しであったことなど、彼女は気がついていなかった。


 好きになるのに時間は関係ない


 けれど、それを口にしたらは逃げてしまうような気がした。
 近付くことを許してくれているようで、近付いたらそっと離れてしまう。
 触れるか触れないかの距離に、見えないラインを引いているように感じた。

 人と待ち合わせて駅前広場いたわけじゃない。
 部活の仲間と噂のツリーを見に行こうと話が持ち上がって、たまたまそこに居合わせた。
 周助はツリーを眩しそうに見つめているが気になり、彼女の傍へ近付いた。
 そして、あの場面に遭遇したのだ。
 泣くこともなく、喚くこともなく立ち去る姿が印象的で。
 そろそろ帰ろうと声をかける仲間に、もう少し見てから帰ると言った。
 ここにいれば、もう一度逢えるような気がしたから。
 昔からこういった直感がはずれたことはない。そして、その直感は当った。


 眼下に広がる街は、大きな宝石箱のようだ。
 一際輝く場所は、駅前広場だろうか。
 いつもは夜九時で閉館してしまうタワーだが、今日と明日だけは特別に閉館時間を延長している。
 色鮮やかに輝く夜景には瞳を奪われていた。
 そして周助はそんなの横顔を見つめて、小さくクスッと笑った。
「…周助?」
 周助の視線に気がつき、夜景から隣にいる人へ視線を移す。
「なに?」
「夜景きれいよ。見ないの?」
「見てたよ。でも夜景よりきれいなのがあるからね。僕はそれを堪能させてもらおうと思って」
 その言葉には後ろを振り向いた。
 けれど、黒曜石のような瞳に移ったのは、幸せそうな数組のカップルだった。夜景よりきれいと周助が言うとは思わない光景。
「フ…フフッ、って天然なんだね」
 が訝し気に周助を見ると、秀麗な顔が近づいた。
に決まってるだろ」
 微かな吐息が唇にかかる至近距離で囁かれて、鼓動が跳ね上がる。
 彼の顔は揶揄するようでもなく、笑ってもいない。
「お…お世辞でも嬉しいわ」
「僕は本気だよ」
 真剣な瞳で見つめられて、は呼吸も瞬きも忘れて周助を見つめた。
「周助…」
「…移動しようか」
 周助は動けないでいるの手を優しく引いた。
 タワーを出、近くの公園に向かった。点在する外灯がぼんやりと園内を照らしている。
 人気がほとんどないのは、夜遅いからだろう。遠くに人影がいくつか見えるが、男か女か区別はつかない。
 近くを誰かが横切らない限り、顔も会話もわからない。
「…今日はありがとう、周助。すごく楽しかったわ」
 タワーからここまで周助の顔を見れずにいたが、ようやく周助を見つめて言った。
 淡々とした口調が僅かに震えている。
 けれど、彼女の言葉は本心だと黒い瞳が鮮明に告げている。
 嘘も偽りもない、双眸。
 その奥に揺れる悲しみを隠して、は柔らかく微笑む。
「僕もすごく楽しかったよ。もっとと一緒にいたいって思ってる」
「周助…」
 赤い唇から溢れる声に、細い身体を腕の中へギュッと抱きしめた。
 白い頬に長くしなやかな指で触れる。

 熱く掠れた声に、鼓動が早さを増す。
 近づく唇に瞳を閉じると、羽のように軽いキスが唇に落とされた。
 触れるだけのキスは、やがて熱く深くなりの吐息を奪う。
 息もできない激しいキスに頭の奥が痺れて、周助以外なにも考えられなくなる。
 熱い抱擁と甘いキスに酔わされていく。
「…?」
 キスから解放すると、は周助から視線を逸らして俯いた。
 ゆっくり呼吸を整えて、周助を見上げる。
「今日のことは忘れて…」
 揺れる瞳で告げられた言葉に、抱きしめる腕の力が僅かに弱まった。
 周助の色素の薄い瞳が驚きに見開く。
「さようなら、周助」
 は周助の腕の中から抜け出し駆け出した。
 周助はを捕まえようと腕を伸ばしかけてやめた。
 衝動を堪えるように、その手で拳を作って握り締める。
 追い掛けて彼女を捕まえて腕の中に閉じ込めるのは容易い。
 だが、その後は―――。
 彼女に愛を囁いても、きっと淋しそうに微笑むのだろう。
「忘れられるはずない。僕は君を好きになった。この想いは本気だから、僕は諦めないよ」

 聖夜が願いを叶えてくれるなら、ひとつだけ望みがある。
 愛しい彼女にもう一度――。

…」
 愛しい人の名前を呟いて見上げた夜空には、無数の星が静かに瞬いていた。




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