ハロウィン珍騒動 (プロローグ) 「雪村君、後生だ!どうかこの近藤勇の一世一代の頼みを聞いてやってくれ!!」 パンッと両手を合わせて頭を下げる近藤は、非常に申し訳なさそうでありながらも、 もうこうするしか道はないと物語る、切羽詰まった表情を浮かべていた。 京の町にその名を轟かせる新選組の局長に、ここまでされては嫌だとも言えようはずがない。まして人の良い、それも食客の身である千鶴には到底断れる話ではなく、抱え持った風呂敷の中身を抱き締めた彼女は大きく頷いた。 「わ、わかりました! それで近藤さんたちのお役に立てるなら、喜んでお受けします!」 むしろ本望です!任せて下さい!と意気込んで答える千鶴の言葉は実に頼もしい。頼もしいのだが。 そんな力強い発言とは裏腹に、その顔と声は今にも泣き出しそうなくらい、情けなく震えていた……。 「ちょっ、土方さん!コレっていったいどういう事!?」 どたどたどたと廊下を荒ただしく駆け抜ける足音が近づいてきたかと思えば、スッパーンと、勢いよく襖が開く。 部屋の主、おまけに彼にとっては上司に当たる男の許可もなく、室内にずかずかと踏み込んだ少年の、無遠慮極まりない行為に、部屋の主である土方は眉を大きく跳ねあげて怒鳴りつけた。 「くぉら平助ぇ!!だぁれが部屋に入っていいっつったあ!! 上司の部屋に無断で上がりこもうなんざイイ度胸してんじゃねえかてめえ!!」 「うわっ、やばっ!!すんません、別に悪気があったわけじゃっ!! ………つか、……土方さん、似合いすぎ」 鬼の副長の渾身の怒号に、己の失態を瞬時に悟った藤堂が急速に青ざめ、謝罪を繰り出すが、その際目の当たりにした土方の姿に、思わず複雑そうな感嘆の言葉を漏らした。 「てかさ、土方さん。俺らが着せられてるのって、間違いなく洋服ってやつだよな」 「それ以外のなんに見える」 投げやりに答える土方に藤堂は気まずそうに頬を掻いた。 「佐幕派の新選組が洋装姿ってのは……何かと拙いんじゃないの?」 「おおいに拙い。んだけどよ、これが局長命令って言うんじゃ仕方がねぇよ」 「はあ!?これって近藤さんの指示なのっ!?」 この国に脈々と受け継がれてきた“和”を、こよなく愛する男からの発案。 思わぬ人物の名を挙げられ、声を裏返して仰天した平助に土方は「ああ」と重苦しい溜息を吐いた。 「今朝、何を思い立ったか。突然この仮装を提案してきてな。 しっかもご丁寧に衣装まで、幹部の人数分一式、揃えて持ってきたんだ。 いったいどこで調達したんだか、出所聞いても吐いてくんねえし。 しゃあねえから、今晩一夜限りの余興ってことで、納得してもらった」 肩を竦める土方と藤堂が身に纏っているのは外国の礼服だ。 縦一列の等間隔に釦がついた襟の高い白シャツに、光沢のある漆黒の外套を肩から羽織っている。 「ったく、窮屈でかなわねえよ」 首元を締める赤いタイがよほど気に入らないらしい。指を引っ掛けて無造作に襟元を緩める土方の仕草は、鬱陶しげに吐き捨てるその端正な貌も相俟ってか、嫌に艶気がある。 顔がいい男と言うのは何かと得だ。見慣れないという違和感こそあれど、似合わないとは欠片も思わせない。まったく同じ服装を纏っているにも関わらず、苦もなく着こなせるこの男に、ちょっとした敗北感を感じるのがまた癪だ。 「事情はわかったよ。けどさ、なーんーでっ、仮装をすんのか! その理由がまだ分かんねえんだけど? これっていったいなんの意味があってやってるんだよ」 不貞腐れた面持ちで外套の裾を摘み、ひらひらと揺らす藤堂が「第一さあ」と、次の質問を繋げようとしたところ、廊下の方がまたも、がやがやと騒がしくなる。 「おーいたいた、土方さん」 部屋の入口に立ち、藤堂の後ろからひょっこりと顔を出したのは、見慣れた顔の、見慣れぬ服装をした男たち。部屋の奥にいた土方に声をかけたのは原田である。 「あんたに言われた通り、一応着替えてみたんだが……」 「ぶっ!!あはははっ!左之さん、何その恰好、似合いすぎじゃんっ!!」 その先の言葉を濁した原田を指差し、藤堂は遠慮なく爆笑し始めた。 彼の指が示した場所は原田の頭頂部。頭の上に生やした猫……いや犬の耳である。 ぴょこんと、縦に立った、原田の地毛より色濃い赤茶の犬耳。 ふさふさとした毛並みはとても肌触りが良さそうで、ついつい触れたくなってしまう誘惑を耐えるのに一苦労だ。 本来なら触りまくって愛でたいところなのだが、原田の機嫌はあまり良さそうには見えない。今、下手に近寄れば後が怖い。ここは自重するより他選択肢がないわけだが、あのさぞ心地よいであろう犬耳の柔らかさを思えば実に惜しいことだ。 しかし、一番注目すべき箇所はそこではない。問題は頭に装着した犬耳ではなく。 「……こいつあ、一体なんの真似だ」 指に絡めて土方へと突き出した鎖が、じゃらりと鳴る。 怒っているような困っているような、険しくも複雑な顔を浮かべた原田の首元には何故か、首輪。しかもご丁寧に鎖付きだったりするのである。 「なに左之さんのって、犬の仮装なわけ!? 鎖つけとかないと危険って!? それって要するに狂犬注意って事じゃん!! ぶっ、あははははっ!!」 「……平助、お前その辺にしとかねぇとマジでぶっ飛ばすぞ…?」 「あははっ、左之さんが狂犬ね。そりゃあ傑作だ」 おどろおどろしい、冷えた声音で激高しかけた原田の背後から、飄々とした朗らかな笑いが場に割り込んできた。 原田達が後ろを振り返ると、いつからそこにいたのか、気配を殺すことに慣れきった新選組の一番組組長と三番組組長が、彼らの背後に陣取っていた。 「でも犬に例えるなら、やっぱり斎藤君が最適じゃない? ねえねえ、斎藤君。君もあの仮装してみたら?」 「生憎と、いま俺に用意された衣装はこれだ。遠慮しておく」 「………それ、命令されたら、鎖付きの首輪をつけられても全然構わないってこと?」 「それが任務ならば、従うまでだ」 「……うん、君、犬だよね。絶対。誰がなんと言おうとも、絶対」 乾いた笑いを洩らす沖田と、至極冷静な顔で目を伏せ淡々と答える斎藤は、藤堂や土方たちと同じ、黒の外套に白シャツ姿だ。 「っていうかよお! なんで俺だけ、包帯でぐるぐる巻きなんだよっ!!」 彼らに後ろで喚き散らしているのが、言葉通り、包帯で全身ぐるぐる巻きにした永倉だ。 肌蹴られた胸元も、太い腕も首も、白く細長い布が幾重にも巻きつけられている。 鍛えられた無駄のない筋肉に覆われた逞しい体つきも、包帯まみれではいまいち恰好がつかない。目元も片側だけが遮られ、まるで眼帯でもつけているかのようだ。 「おっかしいなあ。今日の仮装は西洋の衣装を着るって、さっき土方さんに聞いたばっかなんだけど?」 「……重病人の仮装に何か意味はあるのか?」 全身黒ずくめの礼装に犬耳、そして全身包帯巻き。 この衣裳が、いったいどういった法則に従がって選ばれているのか、本当に、謎である。 「これ、なんの余興なんですか、土方さん」 沖田の尤もな疑問に、全員が土方の方へと一斉に向き直る。 物言いたげな5対の眼を注がれた土方は鬱陶しげに溜息を吐き、渋々と答えた。 「近藤さんの発案でな。今夜一夜限りの“はろうぃん”だそうだ」 腕を組み、土方は近藤から聞いた祭りの概要を語り始める。 「なんでも諸外国の祭りらしい。橙色の馬鹿でかい野菜くり抜いて無気味な人の顔した提灯を作り、 奇天烈な化物の仮装で町を練り歩いて民家に押し入り、菓子をせびって出し渋る奴らには悪戯という名の制裁を加える行事、だそうだ」 あんまりな言い方である。 だが、 「そりゃまた……はた迷惑な祭りだな」 「つうか、なんで菓子限定なんだ? 酒とか金とかじゃダメなのかよ」 「新八、それではただの強盗だ。さすがに犯罪者を擁護する祭りなどあるまい」 「なんだよ、菓子ならいいのか? だが菓子だって、ものによっちゃー結構な値が張るぜ?」 真実を知るものがいないこの場において、土方の言葉を否定できるものはおろか、疑う者すら現われない。まして、新選組を裏で取り纏める鬼副長の言だ。頭の切れる彼の主張は冷徹で無情だが、常に理に叶っている。誰も彼もが、この説明をほぼ九割がた鵜呑みにしたし、唯一土方の言葉を疑(うたぐ)り、粗を探すであろう沖田も、局長命令だと言われれば、それだけで素直に受け入れてしまう。 「ちなみに、菓子をねだる際には特別な呪文だかなんだかが必要らしい。その呪文ってのがだなあ―――」 そうして、近藤から吹き込まれたであろう蘊蓄を一通り披露し、必要最低事項は語り終えた土方は、嘆息しつつ緩く首を振った。 眉間の眉がいつもより深いのは気のせいではあるまい。 「俺と平助、総司と斎藤が着てるのは“どらきゅら”の衣装だそうだ。吸血鬼っていう西洋の妖怪らしい」 「吸血鬼……」 「それって、僕らが着るとちょっと洒落にならないよね」 「少なくとも総司、お前には似合いだな」 「酷いな斎藤君。僕が常時血に飢えてる鬼だとでも言いたいの?」 「自分の胸に聞いてみろ」 「なあなあ土方さん、それじゃあ左之さんのは何の仮装なわけ?やっぱ犬男?」 「どぅわれが犬男だ平助っ、てめっ!!もっぺん言ったらぶっ飛ばすぞ!!」 血を吸う鬼と言われ、微妙な表情で互いの顔を見合わせる沖田と斎藤の会話を押しのけ、土方の方へと身を乗り出した藤堂が興味津津、嬉々として聞いてくる。 「ああ、原田のは確か」 腕を組んで原田を一瞥した土方が宙に視線を這わせ、記憶を掘り返した。 「“わーうるふ”とか言ったか。いわゆる、狼男だな」 「ぶっ!!!あははははっ!!け、けだものじゃん!女の敵!左之さんにぴったり!」 「好き勝手言ってんじゃねえ!誰がケダモノで女の敵だってえ?」 「ちょーっと待て!左之が狼ってんなら俺はなんだよっ!包帯男なんて芸のない答えはごめんだぜ!?」 「あー惜しいな。永倉のは“みいら男”だ」 「み、“みいら”って何だよ?」 「塩を目一杯つめ込んだ口を糸かなんかで縫い付けてから棺桶に寝かせて、約数十から数百年の月日をかけてじっくり熟成させた人間のことだ」 「数百年………って、おい待てよ、まさかそれって…!!」 わなわなと体を震わせる永倉に、土方は非常に冷静な面もちで頷いた。 「ま、簡潔にいえば、死体だな」 「ぶっ殺すっっ!!!」 「わーっ!!ちょったんま、新八っつあん!喧嘩はまずいって喧嘩はっ!!」 「落ち着け新八っ!誰もお前が死体だなんて言ってねえ!」 「そりゃそうだろ」 ちなみに塩は腐敗防止のためだ、といらん知識を披露し飄々とのたまう土方に向けて、頓所内にビリビリと響きわたる怒号をあげて激昂した永倉が、刀の柄に手をかけて抜き放とうとするのを、藤堂と原田が二人がかりで必死に宥める。 そして、一時騒然となった事態を鎮めたのは意外にも。 「ねえねえ。あれってなんだと思う?」 新選組で最も事件解決には向かない快楽主義者の沖田だった。 「あそこの廊下を歩いてる、あの挙動不審な、黒いてるてる坊主みたいなのって何かな」 指さされた方向を皆一斉に振り返ると、確かに。 そこにいたのは全身黒ずくめの怪しげな人影。 先の尖ったつばの広い黒の三角帽子に、襟の高い、これまた真っ黒で長い外套。肩から掛けられた外套の前側は、内側から両手を使って縫い止めているのか、ぴったりと隙間なく閉じられている。外套から覗くのは、ふくらはぎ半ばの足元だけ。その足も、黒い長靴(ちょうか)に覆われているという徹底ぶりだ。 「……確かに怪しい」 すでに日も暮れた夜中に現れた黒ずくめの人物。外見のみならず、こそこそと周囲を窺う仕草も、極力音を立てないようにさささーっと小走りで移動するその姿も、何もかもが怪しい。観察していた幹部達の眉間にしわが寄る。 「土足は厳禁だ」 「いや斎藤、注目するべきはそこじゃないだろ。問題は奴の履きものだ」 「あれって西洋の靴ってやつだろ? 俺らも履いてる。てことは、あいつも“はろうぃん”の参加者なのか?」 真顔で咎める斎藤の生真面目さに、微苦笑を浮かべて注意の矛先を変えるように助言する原田の言を引き継いだ藤堂が、土方を振り返る。 「なあなあ土方さん。確かこの仮装してるのって幹部だけだったよな」 「ああそうだが、あいつは―――」 「例外的な人物、ってことだよね」 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた沖田が、廊下の角を曲がろうとした人間に向かって声を張り上げる。 「千っ鶴ちゃーーんっ!!」 「ッ!?」 ビクンッと毛を逆立てた猫のごとく、大きく跳ねあがり硬直する黒いてるてる坊主。 もとい、新選組の居候・雪村千鶴。 しばしの間硬直した後、彼女はぎぎぎっと、錆びついた音を立てて、ぎこちない動きで振り返った。黒い三角帽子の広いつばから、少し青褪めた顔が覗き、その黒い瞳が彼ら新選組の幹部達をとらえた、その刹那。 「ーーーーーーーッッ!!」 声にならない悲鳴が辺りに響き渡ったかと思えば、千鶴は勢いよく踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。 真っ黒い外套がたなびき、眼と鼻の先にあった曲がり角を越えて、あっという間に消えていく。ひゅうんと一陣の風が無人の廊下を吹き抜けた。 「………逃げた」 「逃げたね」 「逃げたな」 「なんでだ?」 「俺に聞くなよ」 上から藤堂、沖田、斎藤、永倉、原田と続く。 皆が皆、疑問に首を傾げるなか、「あー、そういえば」と思い立ったように呟いたのは土方だった。 「あいつも近藤さんに仮装するように指示されていたらしい。着てるのは確か“うぃっち”の衣装だったな」 「“うぃっち”ってなに?」 「魔女のことだ。不可思議な妖術を使って飢饉や災害を引き起こし、その人並み外れた美貌を駆使して男共を狂わせ堕落させる。西洋の…悪女とでもいえばいいか」 「「「悪女ぉ!?」」」 斎藤と土方以外の全員があげた素っ頓狂な大声に、庭先にいた鳥たちが一斉に飛び立つ。 「そりゃまた……近藤さんも配役間違えたな」 「災いを好き好んで引き起こすような奴じゃないだろ、あいつは。悪から一番遠い存在だよ」 「だいたい!男を骨抜きにする絶世の美女ってとこからまず無理じゃん!」 呆れ、脱力して緩んだ笑い声が周囲に広がる。 だが、何かしら考え込むようにして黙り込んだ斎藤と、嫌な含みをもった笑みを貼り付けた沖田がほぼ同時に踵を返した。 「総司? 斎藤君?」 「なんにせよ、彼女をあの姿のまま、うろつかせるわけにはいかない。即刻自室へ戻らせる」 「それが懸命かもね。もし隊士達に見つかって、うっかり襲われでもしたら、洒落にならないし」 「襲われるって、千鶴ちゃんがか?」 あの挙動不審な行動からして、不審者と間違われて斬り伏せられる可能性がある、という意味だろうか。 要領を得ず、疑問符を飛ばしながら互いの顔を見合わせた藤堂と永倉の鈍さに、あきれ果てたと溜息を吐いたのは原田だった。お前ら観察眼が衰えすぎだろと、首を振るたびにじゃらじゃらと鎖が鳴る。 「千鶴ほどの別嬪に、あんな大胆な格好で誘惑されて、手を出さない男なんざこの世にいるかよ」 「だよねー、この機を逃したらもう二度と見られないかもよ? 千鶴ちゃんの生足」 「なっ、生足ぃ!?」 過剰に反応したのは永倉だ。包帯を巻かれていない方の片目がくわっと見開かれる。 その瞳に分かり易い喜色を見てとった沖田は目に見えて呆れ、嬉々とする永倉とは対照的に、ぴしりと硬直した藤堂は咄嗟に言葉も出なかったようだ。 「なっなんでそんなこと分かるんだよ!」 「さっき外套翻ったときに見えたんだよね。千鶴ちゃんの色白で柔らかそ〜な素足」 慌てふためいて声を裏返した藤堂をおもちゃ認定した沖田がニヤリと笑い、「綺麗な肌だし、直に触ったらさぞ気持ちいいんじゃないのかなー?」と意地悪く、含みのある口調で言い添える。真っ赤になって口をぱくぱくと開閉させる藤堂の初心な反応に、原田は微苦笑を浮かべて沖田を窘めた。 「おいおい総司、その辺にしといてやれって」 「でもさ、左之さんだってそう思うでしょ?」 「そりゃあな、当然だろ」 面倒見の良い兄貴分も所詮は男である。 妖艶に笑う沖田と顔を見合わせ、ニヤッと含み笑う原田。 「まっ、ここは」 「早い者勝ち、って事で!」 そして二人同時に身を翻し、一目散に走り出す。 向かう方角は明らかに、今千鶴が消えた廊下の曲がり角だ。 「ああっ!!ちょっ、二人とも!!抜け駆け反対っ!断固反対っ!!」 「勝手に決めてんじゃねえよ!お前らなんぞに喰われたら千鶴ちゃんが可哀想だろうが!」 ぎゃあぎゃあと騒がしい言い争いと共に、どたどたと廊下を走る複数の男の足音が一斉に遠ざかっていく。 「結局どいつもこいつも煩悩の塊じゃねえか」 男の性に翻弄された、見苦しくも悲しい応酬に、眉間に皺を寄せて見送った土方は額を押さえながら、傍らにいる男に指示を出す。 「……斎藤」 「分かっています。雪村を隊士達から隔離しその安全を確保する。今回の任務は彼女の警護と取って差し支えは―――」 「ない。相当な面倒事になるだろうが、頼めるな?」 「それが命令とあらば、従うまで」 「なら頼むぞ。………健闘を祈る」 「御意」 そうして頭を下げ、見る間に遠ざかっていく部下の姿を見届けた土方もまた、自室を後にして歩き始めた。行き先は近藤の私室。こんな馬鹿げた宴を催した動機を聞くためにという理由だったが、面倒事が起こった今となってはもう、さして意味のない行動だが、まあ再発防止の予防策くらいにはなるだろう。 遠くに聞こえる喧騒に耳を傾け、今頃追いかけ回されて半泣きになっているであろう哀れな魔女に、密かな声援を送った土方であった。 (続) ------------------------------------------------ この続きは個人小説へ分岐するんです。 【落書き白書】様では土方、斉藤、藤堂、沖田、沖田さんルートの後日談が掲載されています。 ![]() 分岐小説は二人いただけるということで、迷った末に本命の沖田さん、土方さんと斉藤さんで迷って斉藤さんをいただきました。掲載許可をいただきましたので、素敵な続きをお楽しみくださいvv 沖田総司 ※年齢指定描写あり 斉藤 一 |