とある夜のTea time --越前家の場合--




「何か飲む?」
 まだほんの少し乾ききらない髪でパジャマの肩が濡れないようにタオルをかけ、リビングに行くとそう訊かれた。
 は瞳を瞬いて、思わずリョーマの顔を凝視してしまう。
 風呂上りにお茶を淹れるのはの役目で、今夜もそのつもりだった。ましてリョーマが自分から茶を淹れてくれることなど、片手で数えられてしまうほどしかない。だから不意のことに驚いた。
「どうしたの?」
「どうって何が」
 は彼我を縮めて、リョーマが座っているカーペットの向かいに腰を下ろした。
「だって、珍しいことを言うから」
「別に理由なんてない」
 なんとなく拗ねたような言い方をするリョーマは、明らかに理由がある表情をしている。けれど、は追求しなかった。
 昼間、二人は懐かしい人たち――青春学園時代の仲間たちと会合した。そして途中で自分が席を外して戻った時、リョーマは不機嫌そうだった。彼の近くにいたのは、菊丸と不二だった。その時、二人から何か言われたのかもしれない。それもリョーマにとっては面白くないことを。
「紅茶がいいわ。ティーバッグでいいから」
 せっかくの機会だから、普段はしてくれないことを言ってみた。
「ん、わかった」
「ホワイトティーがいいな」
 立ち上がったリョーマの背中に言うと、彼は顔だけをに向けた。
「それ、さっき買ってたやつ?」
「うん。他のと同じところに入れてあるわ」
 了解、とリョーマはキッチンへ向かった。

 五分程して、マグカップを片手に持ってリョーマはリビングへ戻ってきた。

「ありがとう。あれ、リョーマくんの分は?」
 差し出されたマグカップを受け取ったは、彼の手にひとつのマグカップしかないことに気がつき訊いた。
「オレはいい」
「でも、一人で飲むんじゃつまらないじゃない」
のをもらうからいい」
「……どうして二人分淹れてこなかったの?」
「オレが淹れたって美味しくないじゃん」
「は?」
 どういうこと?と顔に書いては首を傾げる。
「飲むなら美味しいのがいいってこと」
 それはこれが美味しくないと暗に言っているようなもので、淹れてきてくれて嬉しいのに、喜んだままでいられないのが複雑だ。
 けれど、冷めないうちにとはカップに口をつけた。
「……十分美味しいと思うけど」
 はい、とマグをリョーマに差し出す。
が飲ませてくれるんじゃないの?」
「な、何言って…!」
 真っ赤になってうろたえるにリョーマはククッと笑って、「冗談だよ」と彼女の唇に掠めるようなキスをした。




END

不二家の場合
佐伯家の場合

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