とある夜のTea time --不二家の場合--




 外はすっかり夜の帳が落ち、漆黒の空には下弦の月が控えめに輝いている。もっとも、その様子は室内にいる二人からは見えないが。
 風呂から上がり、ほんのり淡く染まった頬をしたはリビングに顔を出し、ソファで本を読んでくつろいでいる周助に声をかけた。
「周助、紅茶を淹れようと思うんだけど、あなたの分も淹れていい?」
「うん、ありがとう」
 にこ、と微笑む周助に頷いて、は紅茶を淹れるべく、リビングから続くカウンターキッチンへ足を運ぶ。
 ケトルに水を入れて火にかける。その間に戸棚からベージュでレース柄のティーカップをニ客と、紅茶の箱を取り出す。
 そのうちに蒸気でケトルの蓋が小さな音を立て始める。火を止めて沸騰した湯をティーカップに注いで、ケトルを再び弱火にかけた。カップが温まったのを確認してから中の湯を捨て、密封してある紅茶の箱からティーバッグを二つ取り出す。カップに沸騰している湯を注ぎ、ティーバッグを入れてソーサーで蓋をした。ティーバッグでもこうしてきちんと淹れることで美味しく飲める。それでも紅茶で譲れないが淹れるのは、オーガニックダージリンだ。
 一分半蒸らしてティーバッグを軽くゆすって取り出す。そして用意した紅茶をトレイに載せて、リビングへ持っていく。一旦トレイをテーブルに載せ、周助の分を彼の前に置いた。
「はい」
「ありがとう、
 は自分の分もテーブルへ移し、周助の隣に座った。
 周助は一口飲んでに視線を向ける。
「今夜のは何?」
「オーガニックダージリンだけど、ティーバッグなの」
「ティーバッグでもオーガニックっていうのが君らしいね」
 クスッと柔らかく周助は微笑んだ。ティーバッグの種類は山ほどあるのに、その中でもオーガニックで、しかもダージリンを選ぶのが彼女らしい。
「寝る前だし、洗い物が少ないほうがいいなって思って」
 言ってカップを口元に運ぶを見ていた周助は、良い案が浮かんだかのように色素の薄い瞳を細めた。
「夜は僕が洗うよ。もうハンドクリーム塗っちゃったでしょ?」
 いつもが洗ってくれているから、周助が洗い物をすることは少ない。だから夜くらいはと思った。
「え、いいの? じゃあお願いして、いい?」
 は黒曜の瞳を瞬いて、首を傾げて言った。
「クス、勿論。の役に立てるのなら、喜んで」
 瞳を細めて微笑む周助には嬉しそうに笑う。
「ありがとう」

 それから、飲み終わったカップを周助が洗ってくれるという言葉に甘えて、は彼より一足先に寝室へ行った。
 二人でも寝ても充分な余裕があるダブルベッドに寝転がる。
 は周助が来るまで起きているつもりだったのだが、いつのまにか眠ってしまっていた。
、起きて待っていてくれたっていいじゃないか」
 数分後、寝室へ来た周助はがすでに眠ってしまっているのを見、拗ねた顔をした。




END

佐伯家の場合
越前家の場合

BACK