とある夜のTea time --佐伯家の場合-- お風呂から上がると、虎次郎が紅茶を持ってきてくれるというので、はリビングのソファに座って待っていた。 が好んで飲むのはジャワティーだ。ただし、ペットボトルに入ってコンビニやスーパーで売られているもの。だから紅茶を持ってきて飲むことはあっても、淹れて飲むことはない。紅茶よりコーヒーが好きなこともあるけれど、自分で淹れる紅茶は美味しいと思えない。ゆえに紅茶は店で飲むに限る。 「はい」 目の前に差し出されたものには瞳を丸くした。彼女が待っていたのは、ペットボトルのジャワティー。けれど、虎次郎が持っているのはティーカップだった。 「あれ?今夜は違うの?」 「たまにはいいだろ」 嫌ではないから頷いて、カップを受け取りながら応えた。 「それはもちろん。ありがとう」 カップを口に運んで一口飲んだ。 「…え、これ、ジャワティーじゃない」 喉を潤してくれた紅茶の味は、まぎれもなくいつも飲んでいる、舌が覚えている味だった。 「そうだよ」 あっさりとした口調で言う虎次郎にはかすかに眦を吊り上げた。 「だって今たまにはいいだろって言ったじゃない。だからてっきりジャワティーじゃないのねって思ったのに」 今思えば湯気が立っていない時点で気がついてよかったはずだが、気がつかなかった。 「違うとは言ってないよ」 にっこりとどこか楽しそうな顔で虎次郎は言った。確かに彼の言う通りなのだが、が釈然としないのは当然だった。 「ずるい!」 抗議するに虎次郎は緩く首を傾ける。 「ペットボトルからカップに入れるだけで雰囲気違っていいだろ?」 「それはまあ……」 彼の言うように、ペットボトルから直接飲むのと、こうしてカップに注がれたのを飲むのと、同じ飲み物なのに雰囲気も含めてどこか違う気がした。 「で、お礼は?」 言われて、は首を傾げた。 「なんでお礼?」 「不二のところが羨ましいって言ってただろ」 そういえば二時間程前、夕食を取りながら確かに言った覚えがある。 ――不二の家ではティーバッグの紅茶でもティーカップで飲むんだってさ ――そうなんだ。いいな…羨ましい それでカップにジャワティーなのか、とは胸の中で呟いた。 「ありがとう」 少しだけ背を伸ばして、隣に座っている虎次郎の頬へお礼のキスをした。 「そこじゃないところにして欲しかったな」 のキスが頬だったことに納得がいかず、虎次郎は瞳をわずかに眇めた。 END 不二家の場合 越前家の場合 BACK |