そうして不二に連れられて着いたのは、遊園地だった。
 日曜日ということもあり、家族連れや友達同士、カップルなど大勢の人で賑わっている。

「ねえ、周助」

「ん?」

「周助はこういう場所ってよく来るの?」

 遊園地の入口へと歩きながら、不二を見上げてが訊いた。
 不二はどちらかというと静かな場所を好んでいると思っているので、不思議に思った。
 自分が行きたいと言えば、彼はどこでも一緒に行ってくれると思うけれど、進んで行くタイプに見えない。
 なにより、不二と付き合ってから遊園地に来たのは今日が初めてだ。

「誘われたら来るけど、自分からは来ないかな」

 それならどうしてだろうと顔に書いて、が首を傾ける。
 そんな彼女に不二はフフッと微笑む。
 
「実は姉さんがフリーパスをくれたんだ」

「由美子さんが?」

 黒い瞳を驚きに見開くに、不二は「うん」と頷く。

「姉さんも人から貰ったらしいけど、4枚あるからってね。食事券なんていうのも一緒にくれたよ」

 は恋人の姉・由美子の容姿を思い浮かべた。
 あれだけ美人だったら周りが放っておかないだろうな、と思う。
 それに美人というだけでなく、優しくて、お菓子作りが得意で、女性から見ても羨ましいほどだ。
 フリーパスを4枚、更に食事券も貰ったというのも頷ける。

「ねえ、周助。由美子さんに『今度お礼に伺います』って伝えてくれる?」

 律儀なに「そんなのいいよ」と言える筈もなく、不二は「伝えておくよ」と言った。


 入場待機している列に並んで、二人は園内に入った。
 
「どこに行く?」

 不二が園内マップを開いてに見せる。
 都の名前を関した有名なテーマパークほどの広さはないが、ここはそれの三分の二程の広さがある。ゆえに、乗り物や見て楽しむ場所がたくさんある。

「えーっと…アイスハウス」

「じゃあ向こうだね」

 不二は「はぐれるといけないから」ともっともなコトを言い、有無を言わせずの手を取った。
 そして二人はアイスハウスへ向かった。

 アイスハウスの中へ一歩足を踏み込むと、一面の氷世界だった。

「息が白いわ」

 それもそのはず、ここはマイナス30度を体感できる場所だ。
 氷の柱や氷の彫刻があり、場所によってライトアップされていて、ファンタジックな世界が演出されている。

「キレイね…」

 氷で出来た噴水の中から光が零れている。

「うん、面白いね」

 照明がなく、氷と光だけの空間を楽しんで、二人は外に出た。
 冷えてしまった肌が太陽の光によって暖められていく。

「…生き返った気がするわ」

「クスッ、確かにね」
 
「でも面白かったわ」

 楽しそうに笑うに、不二も顔に笑みを浮かべた。

「次はどうしようか?」

「次は周助の行きたいところにしましょ」

「じゃあ、お化け屋敷にしよう」

 不二の楽しそうな声に、の顔が引きつる。

「お、お化け屋敷?」

「うん。僕の行きたいところでいいんだろ」

「う…うん」

 決まりだと言わんばかりににっこり微笑む不二に、は力なく頷いた。
 不二の言葉に甘えて、行きたいところを言えばよかった。
 そう後悔しても、すでに遅い。
 不二は「大丈夫。手は絶対に離さないからね」と言って、を『お化け屋敷』へ連れて行った。


「周助のイジワル!」

 お化け屋敷を出て開口一番、は叫んだ。
 お化け屋敷の中で、確かに不二は手を離さずに、ずっと握ってくれていた。
 けれど、が恐がって悲鳴を上げて縋りつくように歩いているのに、「あ、あそこにも」とわざわざ言うのだ。
 たまに彼がイジワルだと思うコトがあるけれど、今日は今までで一番イジワルだったのではないかと思う。

「ごめん。が恐いのを知ってたけど、あんなに恐がるなんて思わなかったんだ」

「…そのわりに、一々お化けがいるって教えてくれてたじゃない」

 黒い瞳を潤ませ、頬を膨らませて怒るに、さすがにやりすぎたと不二は思った。

「でも、恐くない方のお化け屋敷を選んだから、ね?」

 不二の言葉にの表情がぴっきんと音を立てたように固まる。
 やっとのことで出てきたお化け屋敷以上に恐いお化け屋敷など、冗談ではない。

「本当にごめん、。反省してる」

 不二が申し訳なさそうに顔を曇らせる。
 
「…仕方ないから許してあげる」

 の言葉に不二が心底ホッとしたような息をついた。

「お詫びに今日はの言うコトをなんでも聞くよ」

「そ、そこまでしなくても…」

「そう?まあがそう言うなら僕はいいけど。でも、の行きたいところを回ろう」


 どこがいい?と不二に訊かれたは、彼が開いた園内マップを見て――。  




『巨大迷路に挑戦したいわ』   『歩きながら決めていい?』