Sweet Time

 


 高等部の卒業式が終わって数日が過ぎたある日、青春台駅前を真剣な面持ちで歩く不二の姿があった。
 3日後のホワイトデーに恋人に贈る品を選ぶためである。
 アクセサリーショップをすでに5件回っているが、中々決めることができないでいた。
 いくつか候補はあるものの、どれがいいか不二はかなり真剣に悩んでいた。

  の好みの色、似合う色、何より彼女に似合うもの・・・

 彼女が喜んでくれるものを選びたい。


 かくして不二は、最終的に直感でお返しを決めたのだった。

 

 ホワイトデーの前日である13日、不二は に電話をかけた。
 毎日、毎晩、同時刻にかけている電話はすでに生活の一部となっている。
 もっとも、電話をかけるのは不二からだったり、 からだったり色々であるけれど。


 数回のコールが鳴った後、不二の耳に愛しい彼女の声が届いた。

『もしもし、周くん?』

「こんばんは、 。 ねえ、明日空いてるかな?」

『うん。何も予定はないけど?』

「よかった。それなら、明日デートしよう」

『うん』

「じゃあ、朝の10時に迎えに行くから待ってて?」

『うん』

「フフッ。明日楽しみにしてるよ」

『私も楽しみにしてる』

「うん。 じゃあね、オヤスミ」

『おやすみなさい』


 


 

 翌朝。
 不二は昨夜の約束通り、 を迎えに行った。

 そして二人は青春台から3駅先にあるカフェへ向かった。
 そこの店は二人でよく行く所で、紅茶が美味しいと評判の店である。
 店内に足を踏み入れると、すでに店は人でいっぱいだった。
 ホワイトデーともなれば混んでいるのは当然である。
 しかし不二周助に抜かりがあるはずはなかった。
 不二は今日のために知り合いであるマスターに頼んで、席を予約しておいた。

 日当たりのいい窓際の席に座ると、ウェイトレスがやってきた。

「ご注文はお決まりですか?」

 店員はテーブルの上に水の入ったグラスを二つ置いて、そう訊いた。

は何がいい?」

「ん…と…いつもの」

「クスッ。OK」

 そして不二は視線を から店員に移して。

「ダージリンを二つ、お願いします」

「かしこまりました」

 


 10分程すると、二人分の熱い紅茶が入ったティーポットと、温められたティーカップが二つ席に運ばれてきた。

 テーブルの上に置かれた紅茶を蒸らす時間を計るための砂時計が、サラサラと流れる。

 砂時計の砂が落ちきったのを見計らい、 は不二と自分のカップに交互に紅茶を注いだ。


 二人で紅茶を飲みながら話をして、しばらくした頃。
 不二が改まった表情で、恋人の名を呼ぶ。

「ねえ、

「なぁに?」

「これ、受け取ってくれる?」

 不二はそう言って、赤いリボンのついた小箱を に差し出した。

「バレンタインのお返し。気に入ってくれるといいんだけど」

「ありがとう、周くん」

  は礼を言って、小箱を受け取った。
 そして。

「・・・開けてみてもいい?」

 そう彼に訊ねると、不二は柔らかく笑って。

「もちろんだよ」

 その言葉に、 はドキドキしながら真っ赤なリボンを解いて、小箱のフタを開けた。

 そして箱の中に入っていたのは一一一一


 


青い石のイヤリング    ピンク珊瑚の指輪


オープンハートのペンダント      紫石のついたブレスレット